クルマのボディーカラーはどう決まる?
2024.03.12 あの多田哲哉のクルマQ&A自動車メーカーは、それぞれのモデルに最適なボディーカラーを十分検討したうえでチョイスしていると思いますが、どんな根拠や判断基準で決めているのでしょうか? 数あるなかから色を絞るプロセスが知りたいです。
クルマの色については、特に女性はこだわりが強く、それが購入の決め手になることもあります。
理想を言えば「種類がたくさんあれば選択肢が増えていい」ということになりますが、現実的に提供できるのは、塗装する設備の関係でせいぜい6色から10色といったところ。そのなかには、たいてい定番みたいな人気色(例えば白、赤、黒、シルバーなど)が含まれます。
自動車メーカーには、クルマの形をデザインするデザイナーのほかにカラーデザイナーという専門家がいます。その人たちは当然、他社の人気のボディーカラーをよく研究している。また、塗料メーカーからも新しい塗料の提案があります。例えば、よくある白ではなくて、白のなかでも黄色みがかっているとか、何層にも色を重ねているとか、金属粉を使ってパール感を演出している、といったものです。
一方、色には流行があって、世界的なトレンドを研究している機関が「その年にはやる色の予測データ」みたいなものを売り出しています。メーカーもそれを購入しては参考にしつつ、車種としての適性を考慮しながらボディーカラーを決めているのです。
クルマの色というのは、後から比較的容易に変えられるものです。ほかの多くの要素は、変えると「認可取得のためにテストし直す」という手間が発生するのですが、色についてはそれがない。クルマのボディーカラーを赤から白にしたらテストが要る、ということはないわけです。それゆえ新たな仕様としては提案しやすい。
逆に、特別仕様車みたいな商品のために「隠し玉的な色はとっておく」という戦略もありますね。「あれ? なんで、このクルマにこの色がないのだろう……」と思っていたら後から出てきた、というのは、そんな販売計画のためかもしれません。
ちなみに、イメージカラーというのは“カタログ映え”する色であり、ちゃんとうんちく(色の特徴やメーカーとしてのこだわりなど)の言えるものが選ばれます。それが売れるときもありますが、ダメなときもある。セールスについてはなんとも言えませんね。
かつては、せいぜい「パールホワイトだから3万円高」くらいの違いだったボディーカラーも、今では驚くほど高価な特別色が設定されるなど、おカネがとれるようになりました。それゆえメーカーも強く意識しているところがあります。ひと昔前からは、本当に様変わりしましたね。
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多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。