BMWアルピナB4 GTグランクーペ(4WD/8AT)
グランド・フィナーレ 2025.05.14 試乗記 性能指標に「巡行最高速度」を掲げるなど、もともとグランドツアラーを志向してきたBMWアルピナだが、創業家が開発・製造する最後のシリーズにはわざわざ「GT」を名乗らせている。やはり集大成に込められた思いはひとしおだ。「B4 GTグランクーペ」の仕上がりをリポートする。最後のブッフローエ生まれ
プライベーターとして自らの「ノイエクラッセ」に手がけたチューニングに端を発し、M社に先駆けてBMWのモータースポーツ活動を支えるとともに、BMWをベースとしたオリジナルモデルの開発を手がけてきたブルカルト・ボーフェンジーペン。氏がアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン社を設立してから、60年の時がたつ。
そのボーフェンジーペン一族が手がける最後のモデルとなるのが「3シリーズ」ベースの「B3 GT」、そして「4シリーズ」ベースのB4 GTだ。アルピナの商標をBMWに移譲することが決まったのは2022年のこと。以来「B5」と「B8」、そしてこのB3&B4にGTの冠が与えられてきた。ちなみに創業主であるブルカルト・ボーフェンジーペン氏は2023年に他界。その後、2024年に投入された「B8 GT」が氏を追悼する意味合いも込められたモデルとなっている。
アルピナの工場があるブッフローエから送り出される完成車としてのフィナーレを飾るB3 GT&B4 GTのうち、今回の取材車はB4 GTだ。ちなみにブッフローエは今後、アルピナの既販車の部品管理や整備、レストレーションを行う拠点として生き続ける予定だという。
ベースとなるのは「4シリーズ グランクーペ」、つまり3シリーズと同じ、CLARプラットフォームを用いている。ディメンションの数値的に若干の差異はあれど、基本的には同じアーキテクチャーだと思って差し支えない。ただし重量はB3 GTの「リムジン」=セダンに対しては90kg、「ツーリング」=ワゴンに対しては20kg重い1965kgとなっている。この差異をサスペンションのセットアップだけで吸収することを看過しないのがアルピナのアルピナたるゆえんで、タイヤサイズはB3 GTに対して後輪が20mmワイドな285幅、ホイールも0.5J幅広な10Jとなっている。「ALP」印付きの認証タイヤ「ピレリPゼロ」のロードインデックスも異なるが、速度記号が300km/h超級の域を織り込んだ(Y)である点は両車ともに同じだ。ちなみにB4 GTの0-100km/h加速は直近まで販売されていた「B4グランクーペ」よりも0.2秒速い3.5秒、アルピナ用語ともいえる「巡航最高速度」は4km/h速い305km/hとなる。
あくまでも控えめな自己主張
搭載するエンジンは純然たるM銘柄である「M3」や「M4」も採用するS58型3リッター直6ツインターボだ。それに独自のチューニングを加えている。従来のB4グランクーペの最高出力は495PSだったが、B4 GTは529PSと「M3コンペティション」とほぼ同等のアウトプットを引き出した。そのうえで、最大トルクは730N・mと、M3コンペティションの650N・mとは一線を画している。くだんの巡航最高速度と実用域での扱いやすさとを両立する、そのレシピたるECUのセットアップは秘伝だが、ラストアルピナで最も重要な役割を果たしているのも、実はソフトウエアである。
取材車はアルピナが推奨しているというBMWインディビジュアルの「イモラレッド」に塗られ、かなり華やいだ印象にうかがえた。ホイールや、車体側面を彩るデコセットにも車名が加えられるうえ、それらはエンブレムと同じ淡い金色=「オロ・テクニコ」で彩られる。赤に金とはグランドフィナーレにふさわしいお祭り状態だ。でも、よく見れば専用のカナードを備えるフロントスポイラーの形状などはやはり控えめで、アルピナらしい沈黙ぶりは健在だった。印象とは色味で随分と引っ張られるものである。
内装での大きな変化はステアリングがDシェイプになったことだろう。これはBMWの仕様変更に準じたものだが、あわせて握り径も一段と太くなってしまった。もはやスイッチトロニックは指の長さ的に使いづらいということもあってか、従来はオプション扱いだったパドルが標準となり、オロ・テクニコにアルマイト処理されたそれがスペシャル感を高めている。
代々、舵の握り形状や触感にこだわってきたアルピナ的には、なんとか独自のしつらえを与えたいところだろう。が、それではADASのセンシングや衝突安全的な要件に影響が生じる。それはアルピナの規模では解決できる問題ではない。加えて今後はインフォテインメントのみならず、走行性能にまつわるOTAなども絡んでくることを考えると、アルピナの業務内容は今までとは異なるスキルを究めていかざるを得ない。当然ながらコストも跳ね上がる。と、彼らはそこに存続の難しさを感じたのではないかと思ったりもする。
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往年のアルピナライドは健在
が、皮肉にもそのソフトウエア領域で、乗り味をガラリと違えているのもB4 GTの特徴だ。海外からの試乗リポートにも記されているとおり、ベースとなるB4グランクーペに対するハードウエアの変更はスプリングレートの強化やリアスタビライザーの小径化など大がかりなものではない。むしろ乗り味を違えているのは電子制御ダンパーの可変レートの上下幅を広げて入力に対する柔軟性や耐性を高めた、制御ソフトの刷新だ。
それを象徴するのがドライブモードに加えられた「コンフォートプラス」だ。文字どおり、ライドコンフォートを殊更に重視したセットアップだが、このモードでの走行感には見事に往年の乗り味が宿っていた。舗装路を普通に走れば舗装面の変化を柔軟に受け止め、雑味をうまく取り除きながら情報をクリアに伝えてくる。オーディオの話ではないがこのS/N比の高さが目の前にじゅうたんを広げたかのようにしっとりと滑らかなアルピナライドの源泉だ。
そこに加えてコンフォートプラスは心地よく感じられる程度に上屋の上下動を許している。それによって凹凸のアタリをまろやかに伝える一方で、法定速度域くらいまではアシの伸び側の動きも気にはならない。さすがに欧州の高速域を想像すれば上屋の動きも大きくなるだろう。そういう状況では「コンフォート」モードを使えばピタリとフラットなライド感が得られる。とあらば、コンフォートプラスはまるで日本の交通環境のためにしつらえられたモードではないかとさえ思えてくる。
アルピナが追い求めてきた世界
得られるパワーはM3コンペティションに比肩するだけあって、その走りは強力無比だ。全開の蹴り出しは四駆のありがたみを思い知るほどの爆発力があるし、トップエンドに向かう吹け上がり感も存分に刺激的だった。が、それを差し置くB4 GTの個性はといえば、ほぼどの域からでも得られる分厚いトルクと、そのトルクが直6ならではの滑らかさでもってもたらされることだろう。かといってそれがモーターのような無表情な印象ではなく、躍動感を伴ったものであることに内燃機の芳醇(ほうじゅん)さをみる思いがする。
300km/hでの移動を可能とする、スピードをロマンとできる国が思い描く究極の官能体とはこういうものなのだろう。アルピナが追い求めてきた夢はB4 GTの振る舞いの端々からくみ取ることができた。ともあれ完走にふさわしい仕上がりである。
そしてバトンを受け取ったBMWは今後、アルピナの称号をマイバッハのようなサブブランドとして扱うといううわさもある。とあらば、それは同じラグジュアリーでもエレガンス側ではなくスポーティネス側に振られることになるのだろう。そしてMをよりスポーツ側に先鋭化させるというのが筋となるのではないだろうか。
果たしてアルピナの規模では果たせなかったことも含めて、思い描いてきた姿を本丸がどう昇華させるのかは楽しみではある。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ニコル・オートモビルズ)
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テスト車のデータ
BMWアルピナB4 GTグランクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1850×1440mm
ホイールベース:2855mm
車重:1930kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:529PS(389kW)/6250-6500rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y XL/(後)285/30ZR20 99Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1710万円/テスト車=1984万9000円
オプション装備:インディビジュアルカラー<イモラレッド>(84万円)/右ハンドル(40万円)/ヴァーネスカレザーシート<ブラック、レッドハイライト入り>(23万6000円)/セーフティーパッケージ(62万円)/ヘッドライトシャドーライン(7万2000円)/電動ガラスサンルーフ(16万5000円)/サンプロテクションガラス(9万6000円)/ランバーサポート(4万1000円)/テレビチューナー(14万5000円)/harman/kardonサウンドシステム(8万円)/ハイグロスシャドーライン(5万4000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:3237km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:359.5km
使用燃料:47.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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