メルセデスとBMWのライバルSUVの新型が同時にデビュー 2025年のIAAを総括する
2025.09.24 デイリーコラム「ALL New GLC」ではあるものの……
フランクフルトからミュンヘンに場所を変えて3回目となった2025年のドイツ国際モーターショー(IAA)の主役は、予想どおりお膝元であるBMWの新型「iX3」と、そのライバルであるメルセデス・ベンツの電気自動車(BEV)仕様の新型「GLC」だった。
実は新型GLCに関して、当初自分は大きな勘違いをしていた。事前の触れ込みでは「All New GLC」なんていわれていたものだから、てっきりGLCのフルモデルチェンジだと思っていた。ところが、発表直前に出会った旧知のメルセデス本社スタッフに「今回はまずBEV仕様の登場で、内燃機関(ICE)仕様の追加はいつごろなの?」と聞くと「え? ICE仕様の予定はないよ」と不思議そうな顔をされてしまった。
で、発表会である。さっそうと登場したモデルの後ろには「ALL-NEW ELECTRIC GLC」と書かれていた。つまり要するに詰まるところ、GLCのフルモデルチェンジではなく、「EQC」のフルモデルチェンジだったのである。だったら「ALL-NEW EQC」といえばすんなり理解できたのに、確かにそうはできない事情がメルセデスにはある。サブブランドの“メルセデスEQ”の廃止をすでに実行していたからだ。したがって現行のICE仕様のGLCはそのまま継続販売される。どうりで「ICE仕様の追加」はないわけだ。秘匿契約を結んだうえで、われわれメディアには事前に写真が配布されていて、それを見た自分は「ずいぶんとフツーだな」と思っていた。特にガチンコのライバルである新型iX3と比べるとかなり保守的なデザインだったからだ。しかしこれがEQCのフルモデルチェンジで、現行GLCとの併売と聞けばそれも腑(ふ)に落ちる。車名も「メルセデス・ベンツGLC400 4MATIC with EQテクノロジー」であり、あくまでも現行GLCの追加モデルというポジションだから、これだけをドラスティックに変えるわけにはいかなかったのだろう。
“Baby G”のテスト走行がスタート
942個のライトを組み込み、さまざまな点灯グラフィックを披露する専用のグリルや、例によって採用されたスターマークのテールランプなどを除けば、現行GLCのシルエットをほぼ踏襲するエクステリアデザインである。ホイールベースは現行GLCよりも80mm長くなり、ボディーも室内もわずかに拡大されている。プラットフォームはBEV専用の新設計で、先般デビューした「CLA」のそれとはまったくの別物。あちらはFFベース、こちらはFRベースという位置づけのようである。きっと名前は変わるだろうけれど「EQE」や「EQS」が今後もしフルモデルチェンジをするのであれば、このプラットフォームを使うことになる。4MATICなので前後にモーターを置き、最高出力は489PS、バッテリー容量は94kWh、一充電走行距離は713kmと公開されている。
「MBUXハイパースクリーン」(オプション)はアップデートが図られた。これまでは、1枚のガラスの中に左右と中央の計3面のディスプレイを内蔵していたが、今回からはそれが39.1インチの1枚に変更されている。「MB.OS」は基本的にCLAと同様のスペックとのこと。足まわりには、「Sクラス」と同型のエアサスペンションが選べるという。
BMWの「X3」もメルセデスのGLCも、もはや両社のベストセラーモデルであり失敗は許されない。革新的路線に舵を切ったBMWか、保守的路線をキープするメルセデスか、今後の動向がとても興味深い。が、個人的に思わず乗り出してしまったのは、オラ・ケレニウス会長のスピーチの背後に映し出された“Baby G”のシルエットだった。前回のIAAでその開発が正式に発表されて以来、進捗(しんちょく)状況がまったく伝わってこなかったのだけれど、開発は順調に進んでいるようで、テスト走行が本格的にスタートするそうだ。どうやらラダーフレームは採用されないものの、わざわざ“専用”のプラットフォームをつくったらしい。
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ニッポンの存在感も少々
ポルシェは予定どおり、「911ターボS」を追加した。「カレラGTS」に初採用した「Tハイブリッド」をベースにツインターボ化、最高出力711PS/最大トルク800N・mを発生し、0-100km/hは2.5秒を誇る。既定路線を淡々と進むポルシェだが、同じグループのフォルクスワーゲンとアウディは、技術的にも商品力的にもBMWやメルセデスに大きく引き離されてしまった印象が強い。フォルクスワーゲンは「ポロ」のBEV仕様を「ID. ポロ」と呼び(「GTI」もある)、「Tロック」の新型も発表したが、関係者から聞こえてきたのは「サバイバル」という言葉だった。そういう状況に自らが追い込んでしまったのではないかとも思うけれど、それが偽らざる心境なのだろうし、かなり厳しい状況に置かれているのは事実である。アウディの「コンセプトCスタディー」は今後のデザインを示唆するものだそうで、ようやく次世代のデザイン言語が固まったようだ。しかしまったく新しい未来を予感させるべきデザインコンセプトが、生産終了となった「アウディTT」を想起させるフォルムというのはちょっとどうなんだろうと個人的には思ってしまう。
今年もIAAの会場は、ミュンヘンの市街地を使った“オープンスペース”と見本市会場で開催される“ミュンヘン・メッセ”の2カ所だった。どちらの会場にも日本やイタリアの自動車メーカーの姿はなく、どちらの会場でも活気があったのは相変わらず中国系のメーカーだった。メッセにはスタートアップや中小の企業などもブースを構えているのだけれど、モーターやバッテリーや充電器やOSなどの出展が目立っていて、これらもまた中国系が多数を占めていた。そんななかにあって、アイシンやデンソーといった多くの日本のサプライヤーがブースを構えているのを見ると、日本人としてはなんだかとてもうれしくなったのである。
(文=渡辺慎太郎/写真=渡辺慎太郎、メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)
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渡辺 慎太郎
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