BMWアルピナB4 Sビターボ クーペ(FR/8AT)
変わらないものがあるとしたら 2018.12.27 試乗記 ドイツの小さな自動車メーカー「アルピナ」が生産する市販車は、年間わずか1700台ほど。今回、車名に「S」を冠した「B4ビターボ」の高性能版クーペをワインディングロードに連れ出し、21世紀になった今も変わらず貴重な存在であり続ける、その魅力を味わってみた。いつもあるとは限らない
知り合いのアルピナユーザーの話にちょっと付き合っていただきたい。大変気に入って乗り続けてきたが、オドメーターが10万kmを超えたのを機に、買い替えを検討し始めたという。もう歳だからと散々迷ったが、結局新車の購入を決意、奥さまの説得にも成功し、勇躍ディーラーに乗り込んだところ、「今はありません」と言われて膝から崩れ落ちたのだという。
パンパンに膨れ上がった気持ちのやり場がなくなってしまったんですね。お気の毒でした。いや、もちろんクルマがないわけではない。詳しいことまでは聞いていないのだが、おそらく以前と同じ「B3セダン」を注文しようとしたところ、今は「B3 Sビターボ」しか在庫がありません、と言われたのではないだろうか。アルピナの総代理店たるニコル・オートモビルズに確認したところ、B3 Sビターボも今回紹介するクーペのB4 Sビターボも少ないとはいえ間違いなく在庫しているという。
繰り返しになるが、2015年に創立50周年を祝った「アルピナ・ブルクハルト・ボーフェンジーペンKG」は、「BMW 1500」用のキャブレターの開発からスタートし、歴代のBMW各車をベースにきわめて端正で高品質、そしてもちろん高性能なセダンとクーペを造り続けてきた。
今もいわゆる“チューニングファクトリー”と誤解している人もいるが、れっきとしたマニュファクチャラーとして認められているうえに、メルセデス・ベンツのブランドのひとつとしてグループ企業となっているメルセデスAMGとは対照的に、現在に至るまでアルピナはBMW本体との資本関係を持たない。それでいながらBMWとの深い協力関係を維持しているという実に珍しいポジションを守り続けているメーカーだ。
生産能力は今も年間最大1700台というから、あのフェラーリの半分にも満たない。それゆえ、新型車を発売した後はそのモデルの生産に集中しなければならず、既存モデルを並行して作り続けることはできないのだ。
ガソリンエンジンの4シリーズベース
クーペのB4 Sビターボは、2017年に発売された「B4」の高性能版である。セダンのB3 Sビターボも同じく、それまでのB3/B4の最終進化型といえる。
ちなみに、かつては「B」が6気筒エンジンベースを表し(「C」はスモール6ユニットベース)、アルファベットの後ろの数字はチューンのレベルを意味していたものだが、1999年から呼称ルールが変わったらしく、現在はそのものずばり、ガソリンエンジンの「4シリーズ」ベースのアルピナを示す。
ご存じのように、本家BMWでは新型の「3シリーズ」が発表されたばかり。その新型G20型3シリーズをベースにした新しいアルピナB3が登場するまでには、まだ1年以上は間があるはずだ。
前述したようにアルピナの場合は生産量が限られているので、他の自動車メーカーとは根本的に異なり、複数のモデルを常に生産しているというわけではない。
進化型が登場すれば、そちらに切り替わってしまうのは仕方がないことだし、またベースモデルがモデルチェンジすれば当然、アルピナも切り替わる。それはまた、開発が進んで熟成された現行モデルを手に入れるのに残された時間は少ないということでもある。
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さらにパワーアップした直6ツインターボ
アルピナB4 Sビターボの直6直噴ツインターボエンジンは、最高出力440ps/5500-6250rpmと最大トルク660Nm/3000-4500rpmを発生する。従来のB4用は同410ps/5500-6250rpmと同600Nm/3000-4000rpmだったから大幅な増強である。しかも最新型は2000-5000rpmまでの広い回転域で600Nmの大トルクを生み出すという。
N55型3リッター直6をベースにしていることはこれまで通りだが、BMWの標準ユニットとはまったくの別物で、そもそもシングルツインスクロールターボの「ツインパワーターボ」から本当のビターボ、すなわちツインターボ化されている。
さらにインタークーラーを含む吸気系や、アクラポヴィッチ社と共同開発という排気系、冷却系のほか、ピストンまでも専用品に換装されているのだ。トランスミッションは「スウィッチ・トロニック」と称する8段ATだが、強大なトルクに対応すべくZFと共同開発したもので、スポークの裏側にマニュアルシフト用のボタンが仕込まれているのもこれまで通りだ。0-100km/h加速は4.2秒、“巡航”最高速は306km/hである。
ちなみに、BMW Mの「M3/M4」の6気筒ツインターボエンジン(S55B)は最高出力431ps/7300rpmと最大トルク550Nm/1850-5500rpmを発生。ただし、こちらもモデルライフの最後に臨んで「M4コンペティション」(最高出力450ps)、限定モデルの「M4 CS」(同460ps)と、高性能化に拍車をかけているのは同様。M4のほうが高回転型であり、7段DCTを採用している点がスペック上の大きな相違点である。
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小さな名店の生き方
本家Mモデルがエンジンの回り方や乗り心地にも硬派な性格をむき出しにしているのに対して、アルピナは高性能版のB4 Sでも一定の洗練度をあくまで維持しているのが特徴だ。B3や「B5」に比べると、ターボパワーの盛り上がり方はちょっと荒々しく、乗り心地にも野性味を感じるが、紳士的でエレガントというスタンスから外れてはいない。
ハンドリングもスパスパ切れ込む鋭さだけをいたずらに追うことなく、ひと言で言えばリニアである。リアステアだ、トルクベクタリングだ、と声高に主張するクルマは多いが、狙ったポイントめがけて正確に糸を引くように軌道を整えられるクルマは依然少ないのが現実だ。
B4 Sビターボは、アルピナのラインナップの中では武闘派といえるかもしれないが、あくまで一般道から高速道路まで洗練された高性能を求める人向きのグランドツアラーだ。もうMはちょっと、という私ぐらいの年齢の方には、アルピナの紳士的マナーがしみじみ魅力的に映るはずである。
メルセデスAMGは今や13万台、フェラーリでさえ9000台規模のビジネスを展開している現在も、アルピナは最大1700台の年間生産能力を拡大しようとはちっとも考えていないらしい。少しでも多くの顧客に届けようとするのはビジネスとしての正義かもしれないが、アルピナが一族で守る商売の倫理は違うのだ。
前にも言ったが、本当は他人に教えたくない、隠れ家高級レストランと言いながら、実際は宣伝のほうに熱心な店も多いが、アルピナは相変わらず知る人ぞ知る小さな名店である。チェーン店より敷居が高いのは当たり前だが、勇気を出して客になれば、間違いのない経験があなたを待っているのである。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMWアルピナB4 Sビターボ クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1825×1370mm
ホイールベース:2810mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:440ps(324kW)/5500-6250rpm
最大トルク:660Nm(67.3kgm)/3000-4500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y(後)265/30ZR20 94Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ4S)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:1221万9000円/テスト車=1397万9000円
オプション装備:右ハンドル仕様(28万円)/ボディーカラー<スナッパーロックスブルー>(17万8000円)/電動ガラスサンルーフ(17万5000円)/サンプロテクションガラス(5万1000円)/ランバーサポート(4万6000円)/レザーフィニッシュダッシュボード(16万円)/アダプティブLEDヘッドライト(17万8000円)/ヘッドアップディスプレイ(14万4000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(10万3000円)/ルーフライニングアンソラジット(3万6000円)/レーンチェンジウォーニング(7万7000円)/ドライビングアシスト(7万8000円)/アクティブクルーズコントロール(11万5000円)/インテリアトリムピアノブラック(7万2000円)/アラームシステム(6万7000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:931km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:605.6km
使用燃料:63.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.5km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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