BMWアルピナB4グランクーペ(4WD/8AT)
「さりげない」という美学 2023.05.06 試乗記 ベースとなるメカニズムが同じでも、Mとアルピナでは目指す性能の方向が大きく違う。「BMWアルピナB4グランクーペ」は、アクセルを深く踏んでもタイトなコーナーを曲がっても、ことさらに主張することなくただただクールに速い。これこそがアルピナマジックである。BMWからの救いの手
2022年、「BMWがアルピナブランドを取得」というニュースがもたらされた。これが「BMWがアルピナを買収」などと、例によって早とちり的な拡散もしたが、BMWの公式のリリースから要点を抜粋すると以下のようになる。
「BMWグループはアルピナの商標権を取得、アルピナの株式を取得することはない。2025年までは、これまでの協力関係の枠内でアルピナ車の開発・製造・販売を継続。アルピナ車はあらかじめBMWの生産ラインで組み立てられたのち、最終アッセンブリーをアルピナのブッフローエ工場で行う。2025年以降、ブッフローエ工場で働く人員は必要に応じてBMWグループやサプライヤーなどで採用するなど、サポートをする予定。現時点では2025年以降のアルピナの扱いについては未定」
ドイツでは1983年に自動車メーカーとして登録されているアルピナだが、カーボンニュートラルといった自動車業界の新しい波に今後も単独で乗り続けるのは難しく、今回の判断に至ったのではないかと推測される。ただし、すでに「M」ブランドを有するBMWにとって「アルピナ」の商標権を取得するメリットはどこにあるのだろうか。ドイツ在住の旧知の友人に聞いてみた。
「正直、アルピナにはあってもBMWにメリットはほとんどないと思う。BMWのクヴァント家とアルピナのボーフェンジーペン家の長年の付き合いのなかで、このままアルピナの名が消滅するのは忍びないと、クヴァント家が手を差し伸べたんじゃないかな。ボーフェンジーペン家は自動車部門を失ったとしても、ワイン事業で生き残れるだろうし」
かつて、ポルシェが経営危機に陥った際にメルセデスが救済して、「500E/E500」という名車が生まれた。BMWとアルピナのニュースを聞いて、個人的にはそんな昔のことを思い出した。
ジェントルに速い
世の中にはファッションとかインテリアとか音楽とか、「センスがいいなあ」とほれぼれする人が存在するとともに、自分のセンスのなさに失望することがよくあるのだけれど、アルピナに乗るたびにいつも必ず「センスがいいなあ」としみじみそう思う。エンジンにしろサスペンションにしろ、そのセッティングの塩梅(あんばい)というかさじ加減が絶妙なのである。
例えばこのBMWアルピナB4グランクーペが搭載する直列6気筒ツインターボエンジンは、「M3/M4」と同型のS58をベースにしている。ところが回転フィールも出力・トルクの出方もまったく異なり、M3/M4の加速で感じた強烈とか猛烈といった形容詞はふさわしくなく、あくまでもジェントルに、でもすこぶる速いというちょっと不思議な動力性能の持ち主なのである。
日本仕様のパワースペックを見ると、M4は最高出力480PS/6250rpm、最大トルク550N・m/2650-6130rpm、M3とM4の「コンペティション」は最高出力510PS/6250rpm、最大トルク650N・m/2750-5500rpm、そして「M3 CS」は最高出力550PS/6250rpm、最大トルク650N・m/2750-5950rpmをそれぞれ発生する。いっぽう、このB4は最高出力495PS/5500-7000rpm、最大トルク730N・m/2500-4500rpm。最高出力をあえて抑えめにしつつも発生回転数は7000rpmまで上げて、最大トルクはM3 CSなどを上回る。
おそらくこの独特のパワースペックが、アルピナならではの動力性能を形成しているのだろう。アクセルペダルを踏み込んでいくと7000rpmまではまったく間断なくスムーズに吹け上がり、ターボラグもエンジン振動もほとんど感じない。極めて高精度に組み上げられた直列6気筒のうまみみたいなものが存分に味わえる。そして、荒々しさの代わりに上質感を伴いながら、圧倒的な速さを圧倒的と感じさせない所作で披露してくれた。
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クルマとの対話が楽しめる
アルピナの“ALLRAD”とは4WDの意味で、このクルマの駆動形式はBMWの「xDrive」である。xDriveは前後の駆動力配分を状況に応じて可変し最適化するシステムだが、ここにもアルピナは手を入れていて、資料によれば「リア寄りのセッティング」になっているという。加えてリアにはいわゆるEデフが装着されており、後輪左右の駆動力も可変させて常に最適なトラクションがかかる制御を用いている。
この駆動力のかかり方は、選択するドライブモードによってさらに微妙に差異が設けられている。例えば「コンフォート」モードで、普通のxDriveなら後輪にしっかりとトラクションがかかるような場面でも、B4ではお尻が軽くなる兆候を見せ始める。そして「スポーツ」や「スポーツプラス」と、よりスポーティーなモードを選ぶにつれて、高トルクのFR車らしくアクセルペダルによる挙動コントロールがしやすくなっていくのである。何よりも評価すべきは、たとえ後輪がグリップを失いカウンターステアが要求される局面でも、過渡領域でクルマ側には一切“唐突”な動きがなく、ドライバーが挙動を認知して判断して(ステアリングとペダルから)最適な入力をする時間がきちんと残されている点にある。こういうのをクルマとの対話、それもかなりレベルの高い“大人の対話”というのだと思う。
決してナーバス過ぎない操縦性にも好感が持てる。ステアリングを切り始めると、タイヤのコーナリングフォースの立ち上がりはあくまでも線形だが、ロールからヨーへのつながりがとめどなくスムーズだ。前輪の接地感も高く、まるでバレエダンサーのようにきれいに回るのである。
まさにアルピナマジック
動力性能だけでなく操縦性にも寄与するパワートレインと駆動力や、感心してほくそ笑むくらい気持ちがいいハンドリングなど、B4はアルピナならではの魅力にあふれているけれど、個人的に最も感銘を受けたのは乗り心地だった。
ドライブモードの「コンフォートプラス」はBMWには存在しないアルピナ独自のモードで、これを選ぶと望外に快適な乗り心地を提供してくれる。20インチのタイヤ&ホイールによるばね下の重さはスッと消え去り、そこいらのエアサスなんかよりもずっとフラットで穏やかな乗り心地に変化するのである。でも、いつまでたっても落ち着かないフワフワな感じではなく、だからといって硬い芯が残っているような感じでもない。操縦性の足を引っ張ることなく、乗り心地だけが向上するというまさに“アルピナマジック”である。
アルピナがBMWに手を加えるときには、明確で鮮明な完成イメージがあって、そこに向けて妥協を惜しまず開発をしているように思える。その完成イメージとはいわゆる“アンダーステイトメント”、ドラマチックなことをあえてさりげなく表現するということではないだろうか。アルピナのスペックには「最高速」の代わりに「巡航最高速度」という項目がある。ひと口に最高速といっても、実はその速度に到達するまでに結構時間がかかったり、瞬間的な速度だったりする場合もある。アルピナは、「巡航可能な性能を保証できる速度」としてそういう書き方をしているのだろう。B4の巡航最高速度は301km/h。類いまれなるポテンシャルを、アルピナはここでもさりげなく伝えているのである。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMWアルピナB4グランクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4790×1850×1440mm
ホイールベース:2855mm
車重:1930kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:495PS(364kW)/5500-7000rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y(後)285/30ZR20 99Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.9km/リッター(WLTPモード)
価格:1450万円/テスト車=1732万9000円
オプション装備:アルピナスペシャルボディーカラー<アルピナグリーン>(44万円)/フルレザーメリノ(59万6000円)/高性能ブレーキシステム(40万円)/サンプロテクションガラス(9万円)/シートヒーティング<リア>(6万2000円)/アクティブプロテクション(4万9000円)/BMWレーザーライト(28万5000円)/地上デジタルテレビチューナー(13万7000円)/harman/kardonオーディオシステム(9万2000円)/アルピナパドルシフト(7万円)/電動ガラスサンルーフ(16万4000円)/ランバーサポート<運転席>(2万円)/ガルバニックフィニッシュ(2万3000円)/ドライビングアシストプロフェッショナル(17万5000円)/パーキングアシストプラス(6万8000円)/ヘッドアップディスプレイ(15万8000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2084km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:309.3km
使用燃料:43.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 慎太郎
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