過給器付きエンジンと自然吸気エンジン、技術者が本音で選ぶなら?

2025.05.20 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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高効率ターボの出現により過給エンジンが増えたように思いますが、開発現場の本音としては、過給器付きと自然吸気、どちらのエンジンを好まれますか? その理由についてもお聞かせください。

ターボエンジン車は、排気で捨てるエネルギーを有効活用して走っているわけですから、技術的な効率という観点からは、誰が何と言おうと「自然吸気よりもターボのほうがいい」ということになります。エネルギー効率では「ターボの勝ち」。……なんですけれども、「エンジンを回したときのフィーリングは、自然吸気のほうが断然いい!」という人がいるわけですね。

ただ、今は騒音や環境性能上の規制もあって、高回転まで回して官能性を楽しめる自然吸気エンジンは、そもそもつくることが困難です。というより、ほぼ不可能な状況といえるでしょう。現実的には、欧州の超ハイスペックな高級車に見られるだけ。欧州の自動車文化では“憧れの存在”“必要な華”として許される面があるうえに、そういうハイブランドなら商業的になんとか成り立つために存続しています。

あの最高峰レースのF1の世界であっても、環境性能に配慮して、クルマの未来を考えて技術開発をしましょうということでレギュレーションが決まっており、なかなか複雑なパワーユニット(1.6リッターV6ターボのハイブリッド)で戦っている。しかし、ひと昔前のV10やV12のようなぞくぞくするような音がしないものですから、またレギュレーション改定でかつての多気筒エンジンに戻すべきではないかという議論も出ています。

F1のような限られたショーの世界ですら、やっぱりつまらないという話が出て、昔の世界に戻りたいという人がいる。しかしそれは、マニア以外には理解されにくく、非常に悩ましいというわけです。まさに、このターボと自然吸気の問題の象徴といえるでしょう。

そのうえで開発現場の人間は、どちらを選ぶか? エンジニアの性(さが)としては高効率を追求することになり、結果的にターボ一択ということになります。効率を無視して快感を求めるなんて、技術者であれば選択しづらいことなのです。

もし、快感や官能性が(やろうと思えば)提供できて、しかもユーザーの多くが望んでいるという状況であれば、まだ検討の余地はあります。しかし前述のとおり、今や社会的に難しくなり、メーカーの方針としても許されなくなっているとなれば、「ポルシェ911カレラGTS」の「T-ハイブリッド」などが、折衷案としてのひとつの答えになるのかもしれませんね。私自身、試乗して確かめたいと思います。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。