クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

第311回:カーマニアの正義

2025.06.02 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

カーマニア的にこの世で最も正しいEVは?

カーマニアは、クルマに対して、過剰な性能を要求する。過剰な加速や過剰な操縦性、過剰な走行安定性などなど。「そんなに性能よくてどうすんの!?」くらいじゃないと気がすまない。

しかしその一方で、極端なほどの合理性も愛する。たとえばトヨタの商用車「プロボックス」は、カーマニアの間で常に人気が高い。ムダをそぎ落とした合理的なクルマも、カーマニアの大好物なのだ。

カーマニアは概してEVに敵意を抱いているが、特にバカッ速な高級EVは天敵だ。EVは本来、地球温暖化を防止するために普及が促進されているのに、バカッ速な高級EVはその正反対。生産段階で莫大(ばくだい)なCO2を排出し、走行段階でもバカッ速な加速力を発揮すれば莫大な電力を食う。存在そのものが矛盾! そんなクルマに政府が補助金を出すなんて、あまりにもバカバカしい。

逆に最も正しいEVは、軽EVである。小さくて軽いボディーに小さいバッテリーを積み、街なかでの利用に割り切れば、「トヨタ・ヤリス ハイブリッド」よりも環境負荷は小さい(はず)。欧米人はなぜそのことに気づかないのだろう。バカなのだろうか。

つまり、現在地球上で最も正しいEVは「日産サクラ」だ。「三菱eKクロスEV」もあるけど、あっちは見た目や内装がイマイチなので断然サクラがイイ(個人的な好みです)。いろいろ弱点もあるけれど、現状、私が魅力を感じるEVはサクラだけ! カーマニアですから!

今回、街なかと夜の首都高で軽EV「ホンダN-VAN e:」に試乗した。個人的な好みでいえば軽EVは、エクステリアやインテリアがオシャレな「日産サクラ」に魅力を感じているが、N-VAN e:の実力やいかに。
今回、街なかと夜の首都高で軽EV「ホンダN-VAN e:」に試乗した。個人的な好みでいえば軽EVは、エクステリアやインテリアがオシャレな「日産サクラ」に魅力を感じているが、N-VAN e:の実力やいかに。拡大
2024年10月10日に発売された「ホンダN-VAN e:」は、軽商用車「N-VAN」をベースとした軽商用EVだ。個人ユース向けの「FUN」グレード(写真)の車両本体価格は291万9400円。
2024年10月10日に発売された「ホンダN-VAN e:」は、軽商用車「N-VAN」をベースとした軽商用EVだ。個人ユース向けの「FUN」グレード(写真)の車両本体価格は291万9400円。拡大
“ちょいワル特急”こと愛車の「プジョー508」(写真右)と並んだ「オータムイエローパール」をまとった「ホンダN-VAN e:」(写真左)。
“ちょいワル特急”こと愛車の「プジョー508」(写真右)と並んだ「オータムイエローパール」をまとった「ホンダN-VAN e:」(写真左)。拡大
トリム色がナチュラルなアイボリーとなり、シート表皮にジャージー素材が用いられた「FUN」グレード。
トリム色がナチュラルなアイボリーとなり、シート表皮にジャージー素材が用いられた「FUN」グレード。拡大
ホンダ の中古車webCG中古車検索

初代「カングー」的なオシャレさん

ところが、知り合いの某カーマニアは、そのサクラを「あんなのダメですよ」と言下に否定し、「僕なら来年出る『ホンダN-VAN e:』ですね」と言い放った(一昨年時点)。

彼の言わんとするところは理解できた。サクラはエクステリアやインテリアがオシャレだけど、カーマニア的にはそれもムダ! 一方、商用車のN-VAN e:は虚飾がゼロ。徹底的に合理的、というわけだ。

私も彼の意見に一部同意するし、そもそもサクラは、航続距離があまりにも短すぎるとは思っている。

N-VAN e:のバッテリーは、サクラの1.5倍あるのでだいぶラク。それで値段は同水準。カーマニア的にはN-VAN e:こそ、この世で最も正しいEVということになる。

そのN-VAN e:に、ようやく試乗いたしました。遅くてどうもすいません。

初めて実物と接したN-VAN e:は、まさしくカーマニア好みの、徹底的に合理的なクルマだった。

まずエクステリアやインテリアがスバラシイ。どこにも虚飾がないにもかかわらず、初代「カングー」的にオシャレさんだ。基本的には「N-VAN」と同じだけど、EV化されると、さらに都会的に感じられる。化粧品のパッケージみたいなサクラより、カングーっぽいN-VAN e:のほうがエラいというのが、カーマニア的な評価である。

じゃ、走りはどうなのか。

加速は十分よかった。スペックはサクラのほうがちょっと上だけど、実用上はだいたい同じ。操縦性は、全高の低いサクラのほうがかなりイイ。なにしろN-VAN e:は全高が2m近い。そのぶん室内は狂ったように広く、断然リード。ただしシート(運転席を除く)は、商用車ゆえに限りなくチープ。助手席ですらバスの補助席みたい。

前輪を駆動するモーターは、最高出力64PS、最大トルク162N・mを発生。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は29.6kWhで、一充電走行距離は245km(WLTCモード)と発表されている。
前輪を駆動するモーターは、最高出力64PS、最大トルク162N・mを発生。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は29.6kWhで、一充電走行距離は245km(WLTCモード)と発表されている。拡大
助手席を前方に畳んだ様子。後席をダイブダウンさせると荷室床面がほぼフラットな状態となり、2.5m程度の長尺物も収容できる。
助手席を前方に畳んだ様子。後席をダイブダウンさせると荷室床面がほぼフラットな状態となり、2.5m程度の長尺物も収容できる。拡大
200Vの普通充電口はフロント右側のヘッドランプ近くに設置されている。「N-VAN e: FUN」では、LEDヘッドライトや急速充電も標準装備としている。
200Vの普通充電口はフロント右側のヘッドランプ近くに設置されている。「N-VAN e: FUN」では、LEDヘッドライトや急速充電も標準装備としている。拡大
シフトセレクターはプッシュボタン式だが、パーキングブレーキは足踏み式。シフトセレクターの下部にパワーウィンドウスイッチが配置される。「8インチHonda CONNECT対応ナビ」は15万1800円のディーラーオプションとなるアイテム。
シフトセレクターはプッシュボタン式だが、パーキングブレーキは足踏み式。シフトセレクターの下部にパワーウィンドウスイッチが配置される。「8インチHonda CONNECT対応ナビ」は15万1800円のディーラーオプションとなるアイテム。拡大

EVにおける正義の戦いが始まる?

もうひとつ残念だったのは、時速30km以下で鳴る電子音が、遮音性の低さゆえ、室内でもよく聞こえることだ。もうちょっとステキな音ならいいんだけど、どうにも神経に障る好ましくない電子音だった。

あの音には細かい規定があって、ヒヨコがピヨピヨ鳴く音とかじゃダメなんでしょうけど、N-VAN e:のアレは、今まで聞いたなかで一番不快度が高かった。

夜、首都高に出撃したところ、首都高レベルなら電費の悪化はなく、逆に一般道より少しよかった(8.7km/kWh)。空気抵抗がバカデカいので、時速100km出すとガックリ電費が落ちるらしいけど、首都高だけなら、計算上の航続距離は200kmを楽に超えるはずだ。

じゃ、サクラ対N-VAN e:の戦い、カーマニア的にどっちが勝ちなのか。

配達用じゃなく乗用車として使うなら、やっぱりサクラだろう。N-VAN e:は背が高すぎてムダだし、シートも厳しい。航続距離も思ったほどのリードはなさそうだ。

個人的な決定打は、低速での電子音だ。街乗りメインで使うとなると、あの音をしょっちゅう聞かされるわけで、それだけで元気が出ない。

今年出る予定の「N-ONE」のEV版は、電子音さえ改善されていればサクラに勝てる可能性大。さらにBYDの軽EVが上陸すれば、EVにおける正義の戦いが三つどもえとなる。全世界のカーマニアは、この戦いを刮目(かつもく)して見守るべし。見守るだけでどうもスイマセン。

(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一/車両協力=本田技研工業)

「N-VAN e: FUN」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1960mm、ホイールベースは2520mm。車重は1140kgと発表されている。
「N-VAN e: FUN」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1960mm、ホイールベースは2520mm。車重は1140kgと発表されている。拡大
運転席のシートは乗用車ライクだが、その他の座席は商用車ゆえに割り切っており、限りなくチープ。助手席ですらバスの補助席みたいだ。
運転席のシートは乗用車ライクだが、その他の座席は商用車ゆえに割り切っており、限りなくチープ。助手席ですらバスの補助席みたいだ。拡大
軽商用車だけに荷物がたくさん積め、シートアレンジのバリエーションも豊か。仕事だけでなく、アクティブな趣味活動にも使えそうだ。ただし、後席のスペースはそれなりである。
軽商用車だけに荷物がたくさん積め、シートアレンジのバリエーションも豊か。仕事だけでなく、アクティブな趣味活動にも使えそうだ。ただし、後席のスペースはそれなりである。拡大
今回試乗した際の電費は8.7km/kWh。空気抵抗がバカデカいので、時速100km出すとガックリ電費が落ちるらしいけど、首都高だけなら、計算上の航続距離は200kmを楽に超えるはずだ。
今回試乗した際の電費は8.7km/kWh。空気抵抗がバカデカいので、時速100km出すとガックリ電費が落ちるらしいけど、首都高だけなら、計算上の航続距離は200kmを楽に超えるはずだ。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

カーマニア人間国宝への道の新着記事
  • 第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
  • 第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
  • 第315回:北極と南極 2025.7.28 清水草一の話題の連載。10年半ぶりにフルモデルチェンジした新型「ダイハツ・ムーヴ」で首都高に出撃。「フェラーリ328GTS」と「ダイハツ・タント」という自動車界の対極に位置する2台をガレージに並べるベテランカーマニアの印象は?
  • 第314回:カーマニアの奇遇 2025.7.14 清水草一の話題の連載。ある夏の休日、「アウディA5」の試乗をしつつ首都高・辰巳PAに向かうと、そこには愛車「フェラーリ328」を車両火災から救ってくれた恩人の姿が! 再会の奇跡を喜びつつ、あらためて感謝を伝えることができた。
  • 第313回:最高の敵役 2025.6.30 清水草一の話題の連載。間もなく生産終了となるR35型「日産GT-R」のフェアウェル試乗を行った。進化し、熟成された「GT-RプレミアムエディションT-spec」の走りを味わいながら、18年に及ぶその歴史に思いをはせた。
カーマニア人間国宝への道の記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。