ホンダN-VAN e: L4(FWD)
究極のドライバーズカー 2025.01.07 試乗記 「ホンダN-VAN e:」は働く現場の声をくみ上げて開発された電気自動車(BEV)の軽商用バンだが、個人ユースを想定したグレードも設定されている。200km余りをドライブしたインプレッションをお届けする。しがない自動車ライターにとっては、これも立派な「仕事」である。最先端の軽商用バン
2018年にデビューした「ホンダN-VAN」は画期的なモデルだった。「Nシリーズ」初の商用車で、駆動方式はFFである。後ろに重い荷物を搭載するから後輪駆動が当然という常識に挑戦し、低床のメリットを最大限に生かすことを目指した。構造的に荷室長が十分にとれない弱点はシートアレンジを工夫することで克服している。前身モデルの「アクティ バン」から乗り心地や操縦性を飛躍的に高め、「ホンダセンシング」を全車に標準装備。見た目も含め、乗用車に引けをとらない上質さを実現したのだ。
さらに先を行くモデルがN-VAN e:である。N-VANのボディーをそのまま使ったBEVだ。ガソリンエンジンをバッテリーとモーターに換え、使い勝手や収納性はそのまま受け継いでいる。最先端の軽商用バンといえるだろう。
4タイプがラインナップされていて、シートが運転席のみの「G」と右側2席のタンデム仕様の「L2」は商用に特化されている。法人向けで、一般のディーラーでは販売されない。個人ユースを想定しているのは「L4」と「FUN」で、こちらは4人乗りだ。内装や装備が若干違い、L4がベーシックモデルという位置づけになる。大きく異なるのは、FUNは急速充電ポートが標準装備となっていること。自宅で夜間に充電し、遠出はしないのならL4がお買い得だ。
試乗したのはL4で、急速充電ポートがオプション装着されていた。ホンダセンシングはもちろん装備されているし、ヘッドライトがLEDではないのとシート表皮が少し違うぐらいで、特に不満に感じるところはない。
ロケットスタートはしない
バッテリー容量は29.6kWhで、一充電走行距離はWLTCモードで245km。同じ軽BEVの「日産サクラ」が20kWh、180kmだから、なかなかの高スペックである。実際にはカタログどおりの航続距離にはならず、満充電でも170kmほど。試乗車を受け取った時にメーターに示されていたのは156kmだった。試しにエアコンを作動させてみたら132kmに下がった。電気を使う機能はなるべく使わないに限る。運転席にはシートヒーターが装備されているので、よほど寒くなければエアコンに頼る必要はなさそうだ。
ガソリンエンジンの軽自動車と同様に、最高出力は64PSに抑えられている。最大トルクは162N・mで、「N-BOX」のターボ版が104N・mなのに比べればかなり大きな数字だ。モーターの特性として1回転目からトルクが発生するので、ロケットスタートさせることだってできるだろう。発進でアクセルを床まで踏み込んでみると、一瞬タイヤが鳴いた後に穏やかな加速が始まった。大切な荷物を積んで走るのが目的のクルマである。無駄な急加速を避ける設定になっているのは当然だ。
走りだしてみれば、モーター駆動であることはあまり意識しない。ナチュラルな運転感覚で、仕事で長時間乗っていてもストレスを感じることはないだろう。BEVは静粛性の高さがウリなのだが、N-VAN e:の車内にはいろいろな音が入ってくる。ゆっくり走っているとモーターやインバーターの音が聞こえるし、速度を上げると風切音やロードノイズが気になった。エンジン車ならそれ以上の騒音が発生することもあるから、そこを強調するのはフェアではない。アクティ バンははるかに大きな騒音をまき散らしていたし、かつては商用車の音・振動対策は軽視されていた。
乗り心地に関しても、この試乗で正当な評価ができるかどうかは自信がない。1人乗車で荷物なしというのは、想定外の乗り方なのだ。最大積載量は300kgである。重量物を乗せた状態で最良のポテンシャルが発揮されるようにつくられているはずだ。後ろがバタつくように感じられたが、実際の使用状況ではもっと落ち着いた動きになるのだろう。
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きちんと座れるのは運転席だけ
不満がないわけではない。シートとステアリングの調整の自由度が低く、ベストなポジションをとりにくいのだ。普段とは異なる運転姿勢にならざるを得ず、腰に負担がかかった。長距離運転はちょっとしんどいと思ったが、実際には少し移動して荷物を積み下ろすという使い方なので、あまり気にならないのかもしれない。文句を言うのはわがままだと思うのは、ほかの席に比べれば運転席は優遇されているからだ。
後席にはヘッドレストがなく、体の半分までしかサポートされない。座面はフラットで、横Gや縦Gでお尻がズレてしまいそうだ。助手席は多少マシだとはいえ、運転席に比べるとクッションが薄くて座り心地がよくない。折りたたんで荷物を積むことを想定しているので、フラットになることが何より重視されている。助手席側にはサンバイザーすら付いていない。運転席はVIP待遇であり、ある意味で究極のドライバーズカーなのだ。
後席と助手席をダイブダウンさせると、最大スペース長は2645mmになる。見事に平らな床面が広がり、最大で段ボール箱71個を積めるのだそうだ。荷物が転がって運転の邪魔をしないように、足元に板状のパーツが取り付けられている。荷室後部の左右にはネジ穴がいくつもあって、用途に合わせて使いやすくアレンジできる。働きやすさをとことん突き詰めた結果なのだろう。
N-VANの誇る「ダブルビッグ大開口」は、N-VAN e:にも引き継がれている。左側をピラーレスにすることで、1580mmの開口部幅を実現したのだ。バッテリーを床下に搭載したことでガソリン車とはいろいろと違いがあるはずだが、この機構は死守した。テールゲートと助手席側ドアの両方から積み下ろしをすることで、作業効率が大幅にアップするらしい。
最先端の軽商用バン
2018年にデビューした「ホンダN-VAN」は画期的なモデルだった。「Nシリーズ」初の商用車で、駆動方式はFFである。後ろに重い荷物を搭載するから後輪駆動が当然という常識に挑戦し、低床のメリットを最大限に生かすことを目指した。構造的に荷室長が十分にとれない弱点はシートアレンジを工夫することで克服している。前身モデルの「アクティ バン」から乗り心地や操縦性を飛躍的に高め、「ホンダセンシング」を全車に標準装備。見た目も含め、乗用車に引けをとらない上質さを実現したのだ。
さらに先を行くモデルがN-VAN e:である。N-VANのボディーをそのまま使ったBEVだ。ガソリンエンジンをバッテリーとモーターに換え、使い勝手や収納性はそのまま受け継いでいる。最先端の軽商用バンといえるだろう。
4タイプがラインナップされていて、シートが運転席のみの「G」と右側2席のタンデム仕様の「L2」は商用に特化されている。法人向けで、一般のディーラーでは販売されない。個人ユースを想定しているのは「L4」と「FUN」で、こちらは4人乗りだ。内装や装備が若干違い、L4がベーシックモデルという位置づけになる。大きく異なるのは、FUNは急速充電ポートが標準装備となっていること。自宅で夜間に充電し、遠出はしないのならL4がお買い得だ。
試乗したのはL4で、急速充電ポートがオプション装着されていた。ホンダセンシングはもちろん装備されているし、ヘッドライトがLEDではないのとシート表皮が少し違うぐらいで、特に不満に感じるところはない。
働き方に寄り添う
スライドドアが電動ではないのは、時間に追われる状況でゆっくり開閉するのはかったるいからだ。完全に開くとロックされるが、少し手前でも止まるようになっている。職人の働き方に詳しい人によると、手で閉めるのも面倒なときは発進してからポンッとブレーキを踏むことでドアを自動的に閉めるという技が使われているそうだ。そこまで見越してこの仕様にしているのかは分からないが、ユーザーにとってはありがたいだろう。
最近では航続距離が500kmを超えるBEVも多い。実質170kmというのはいかにも短く思えるが、ヤマト運輸との配送実証実験ではこれで十分という結果になったという。2011年に試乗した「三菱ミニキャブMiEV」はバッテリー容量が10.5kWhで、航続距離は約100kmとされていた。JC08モードの数字なので、WLTCならもっと下がるはずである。16.0kWhの仕様もあったが、それでもJC08モードで150km。N-VAN e:のスペックは、配送用途には相当な余裕がある。
企業にとってカーボンニュートラルを達成することが重要な課題になっており、N-VAN e:を選ぶモチベーションは高まっていくはずである。東京などのラストマイル配送にはちょうどいいのではないか。密集地なら問題はなくても、地方都市では配送距離が長くなるのがちょっと心配ではある。充電環境を整えるなどの工夫が必要になるかもしれない。
働くクルマとして優秀なのは分かったが、個人ユースということではどんな使い方が可能なのだろう。アクセサリーカタログにはペット用シートなどもあり、レジャー用途も想定されているようだ。車内コンセントの使用例では、キャンプのイラストでアウトドアの楽しみが紹介されている。往復170kmでは近場にしか行けないと思ったが、今どきのオートキャンプ場には充電器が備えられているところも多いようだ。N-VAN e:を使いこなせれば、電動化時代のアウトドア達人である。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業)
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テスト車のデータ
ホンダN-VAN e: L4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1960mm
ホイールベース:2520mm
車重:1130kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)
最大トルク:162N・m(16.5kgf・m)
タイヤ:(前)145/80R13 82/80N LT/(後)145/80R13 82/80N LT(ヨコハマ・ブルーアース バンRY55)
一充電走行距離:245km(WLTCモード)
交流電力量消費率:127Wh/km(WLTCモード)
価格:269万9400円/テスト車=319万円
オプション装備:急速充電ポート(11万円) ※以下、販売店オプション 8インチHonda CONNECTナビ(15万1800円)/ナビ取り付けアタッチメント(6600円)/GNSSアンテナ(2200円)/ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC2.0車載器取り付けアタッチメント(1万1000円)/フロアカーペットマット プレミアム(2万6400円)/ドライブレコーダー3カメラセット(6万7100円)/充電ケーブル<7m>(6万6000円)/AC外部給電器(2万9700円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1244km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:194.8km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:6.5km/kWh(車載電費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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