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第315回:北極と南極

2025.07.28 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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自動車の頂点たるフェラーリの対極

サクライ君からメールが届いた。「次回、新型『ムーヴ』にお乗りになりますか?」

うーむ。スライドドアになったダイハツ・ムーヴか。すでに試乗は済ませていたが、夜の首都高では未試乗であるし、乗らないという法はあるまい。

実は25年くらい前まで(だいぶ昔です)、私は軽自動車にあまり関心がなかった。軽には趣味性がないし、どれに乗ってもほとんど同じ。古~くて超軽い軽は面白いかもしれないが、大きく重くなった新規格(当時)の軽は、デザインを除いて評価すべき部分はほとんどない、と断じていたのである。

そんな私に対して、飲み屋でからんだ編集者がいた。「清水さんは軽なんてどれも同じだと思ってるんでしょ! でも読者は、そのほんのわずかな違いを知りたいんですよ!」と。

なるほどそうか……。鈍感な私には、そのほんのわずかな違いはわからないかもしれないが、とにかく「軽なんてどれも一緒」という思い上がった態度は改めなければ。

そのように反省し、数年後には生涯初めて軽乗用車「ダイハツ・エッセECO」を買った。それは、自動車の頂点たるフェラーリの対極。自動車の底辺とは申しませんが、北極に対する南極みたいなもので、つまり両極。両極を極めねばカーマニア道を極めることはできない!

軽の全幅は1480mm以下である。軽で通れない路地はほぼない。つまり無敵だ。結局私は現在まで、通算4台の軽自動車を買っている。

2025年6月5日に発売されたダイハツの新型「ムーヴ」に夜の首都高で試乗。ムーヴは1995年に初代モデルが登場した軽ハイトワゴンで、今回のモデルが7代目にあたる。ムーヴとしてはこれが初となるリアスライドドアの採用がトピックだ。
2025年6月5日に発売されたダイハツの新型「ムーヴ」に夜の首都高で試乗。ムーヴは1995年に初代モデルが登場した軽ハイトワゴンで、今回のモデルが7代目にあたる。ムーヴとしてはこれが初となるリアスライドドアの採用がトピックだ。拡大
かつて所有していたオレンジ色の「ダイハツ・エッセECO」の5段MT車(写真右)。4カ月落ち中古車で、購入価格は45万円であった。“みかんちゃん”と名づけ、日常の足として活躍した。
かつて所有していたオレンジ色の「ダイハツ・エッセECO」の5段MT車(写真右)。4カ月落ち中古車で、購入価格は45万円であった。“みかんちゃん”と名づけ、日常の足として活躍した。拡大
今から10年前となる2015年に半年間だけ所有していた軽自動車「ホンダS660」。S660はあまりにも素晴らしすぎて、買わずにはいられなかった。あんなにちっこいのにしっかり本物のスーパーカーだったのだ!
今から10年前となる2015年に半年間だけ所有していた軽自動車「ホンダS660」。S660はあまりにも素晴らしすぎて、買わずにはいられなかった。あんなにちっこいのにしっかり本物のスーパーカーだったのだ!拡大
車いすのまま後部に乗車できる介護車両「ダイハツ・タントスローパー」を新車で購入。生まれて初めて残価設定ローンを選択した。介護車両の外装にツートンカラーを用意してくれてるのはタントだけ。なんてオシャレなんだ。
車いすのまま後部に乗車できる介護車両「ダイハツ・タントスローパー」を新車で購入。生まれて初めて残価設定ローンを選択した。介護車両の外装にツートンカラーを用意してくれてるのはタントだけ。なんてオシャレなんだ。拡大
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スーパーカーオーナーの足としても定着

ついでにいうと、20年くらい前まで、東京の住人は軽にまったく関心がなく、軽を自家用車にする人は極めて少なかった。

約20年前の2006年、東京都では、軽自動車の保有比率は15.7%しかなかった。港区にいたってはたったの5.7%! 高知県じゃ軽の保有率が48.8%だったのに!

しかも都心部では、軽の約7割がお仕事用や配達用の4ナンバー貨物車だった。なので、一般人が軽を運転したり乗せてもらったりする機会はほとんどゼロ。「軽自動車って、足でこいで走るの?」と言った女子がいたくらいだ(実話)。

そんな状態も今は昔。現在、軽自動車は完全に国民車となり、東京23区内でも、自家用車として積極的に選ばれるようになった。

実際わが家にも「ダイハツ・タント」があり、その後ろには「フェラーリ328GTS」が止まっているが、もはやそれを奇異に感じる人はいない。

周囲のフェラーリオーナーを見渡しても、普段軽に乗っている人は結構多い。軽自動車は、スーパーカーオーナーの日常の足としても、かなり定着しているのである。

それでもまだ東京都の軽保有比率は21.5%(令和5年3月末:軽自動車検査協会のデータによる)。高知県の55.7%には遠く及ばないが、約20年間で6%ほど上昇した。増加分の多くが、自家用の5ナンバー軽乗用車だろう。今や港区でも、「軽自動車は便利な足」という事実が新発見されている(たぶん)。

夜中にガバと跳ね起き、中古車サイトで軽トラを検索。そのまま購入に至ったのが「ダイハツ・ハイゼット トラック ジャンボ」である。31年落ちの1990年式で、走行距離が5万8000kmの個体だった。総額40万円で購入。
夜中にガバと跳ね起き、中古車サイトで軽トラを検索。そのまま購入に至ったのが「ダイハツ・ハイゼット トラック ジャンボ」である。31年落ちの1990年式で、走行距離が5万8000kmの個体だった。総額40万円で購入。拡大
今回試乗した最高出力64PSの0.66リッター直3ターボを搭載する「ムーヴRS」(FF車)は、車両本体価格が189万7500円。リアでショルダーラインがキックアップするウィンドウグラフィックが、いかにもムーヴっぽい。
今回試乗した最高出力64PSの0.66リッター直3ターボを搭載する「ムーヴRS」(FF車)は、車両本体価格が189万7500円。リアでショルダーラインがキックアップするウィンドウグラフィックが、いかにもムーヴっぽい。拡大
ブラックを基調に、シンプルにまとめられたインストゥルメントパネル。華美な雰囲気がなく、実用性を重視したデザインのコックピットである。ステアリングホイールとシフトセレクターに本革が巻かれるのはこの「RS」グレードのみ。
ブラックを基調に、シンプルにまとめられたインストゥルメントパネル。華美な雰囲気がなく、実用性を重視したデザインのコックピットである。ステアリングホイールとシフトセレクターに本革が巻かれるのはこの「RS」グレードのみ。拡大
「スズキ・ワゴンRスマイル」に続き、いよいよ「ムーヴ」もリアスライドドアを採用したかと思うと、なんだか感慨深い。軽ハイトワゴンにもスライドドアの波が押し寄せてきたのか。
「スズキ・ワゴンRスマイル」に続き、いよいよ「ムーヴ」もリアスライドドアを採用したかと思うと、なんだか感慨深い。軽ハイトワゴンにもスライドドアの波が押し寄せてきたのか。拡大

自家用車をフェラーリ1台にするのと変わらない

前置きが大変長くなりましたが、いつのもように夜8時、サクライ君が新型ムーヴで自宅にやってきて、われわれは首都高へと出撃した。

オレ:ムーヴ、いいね。
サクライ:いいですよね。
オレ:アイドリングストップから復帰するときのスターター音が、ウチのタントより断然静かになってる。ちゃんと進化してるんだね。
サクライ:そうですか。
オレ:それに、クルマって、全高が10cm低くなると(タント比)、こんなにも操縦性が自然になるんだね。
サクライ:これくらいがいいですよね。
オレ:これ、ターボだよね。
サクライ:ターボです。
オレ:ターボが付いてると、首都高でもまったく痛痒(つうよう)ないね。
サクライ:十分速いし快適です。
オレ:サクライ君は、自分が将来軽自動車に乗る可能性あると思う?
サクライ:ないと思います(きっぱり)。

やっぱり……。

東京の住人は、大抵自家用車を1台しか持てない。その1台を軽にするという選択は、カーマニアには非常に困難だ。それは、自家用車をフェラーリ1台にするのと同じかそれ以上に、いばらの道である。さすが北極と南極。

(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一/車両協力=ダイハツ工業)

広々とした新型「ムーヴ」の後席。背もたれは50:50の2分割式で、可倒/リクライニングが行える。240mmのロングスライド機構が備わるのも同モデルの特徴だ。
広々とした新型「ムーヴ」の後席。背もたれは50:50の2分割式で、可倒/リクライニングが行える。240mmのロングスライド機構が備わるのも同モデルの特徴だ。拡大
後席から首都高の走行シーンをパチリ。「DNGA」プラットフォームを採用するだけあって、新型「ムーヴ」の後席は乗り心地がよくて快適。リアスライドドアの採用によって、今まで以上に購買層が広がると思う。
後席から首都高の走行シーンをパチリ。「DNGA」プラットフォームを採用するだけあって、新型「ムーヴ」の後席は乗り心地がよくて快適。リアスライドドアの採用によって、今まで以上に購買層が広がると思う。拡大
リアコンビランプは、初代から受け継がれるタテ型のデザインを採用。バックドアは6代目と同じく上ヒンジ式で、5代目までの横開き(右ヒンジ式)を少し懐かしく思う。
リアコンビランプは、初代から受け継がれるタテ型のデザインを採用。バックドアは6代目と同じく上ヒンジ式で、5代目までの横開き(右ヒンジ式)を少し懐かしく思う。拡大
わが家のガレージで、フェラーリの前に置かれる愛車の「タントスローパー」(写真左)。新型「ムーヴ」(同右)はアイドリングストップから復帰するときのスターター音が、タントより断然静かになっていて、着実な進化を感じた。
わが家のガレージで、フェラーリの前に置かれる愛車の「タントスローパー」(写真左)。新型「ムーヴ」(同右)はアイドリングストップから復帰するときのスターター音が、タントより断然静かになっていて、着実な進化を感じた。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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