第317回:「いつかはクラウン」はいつか
2025.08.25 カーマニア人間国宝への道「クラウン」は無敵だ
先日、「トヨタ・クラウン エステート」に試乗した。4兄弟のなかでは一番乗り味がフワッとやさしくて、とてもいいクルマだった。
現行クラウンは、イマドキな4モデルに分身し、以前のクラウンとはまったくの別物になった。「クロスオーバー」だけはあんまりイケてないけど、その他のモデルはとってもイケてると思う。
クラウンは本来、古きあしきニッポンの象徴。それがこんなイケてる4兄弟になっちゃって、ニッポン人に生まれてヨカッタ~!
クラウンというクルマは、私が自動車免許を取って以来、ずーっと気になる存在だ。なにしろクラウン≒覆面パト。気にならないはずがない。
そして、常々思っていた。クラウンは無敵だと。なぜって、「マクラーレンF1」だろうが「ブガッテイ・ヴェイロン」だろうが、高速道路で白いクラウンを見かけたら、減速せざるを得ないのだから。
ひょっとしてオレは、フェラーリやランボルギーニより、クラウンに乗るべきではないのか。いつか白いクラウンで高速道路をのんびり流し、あらゆるスーパーカーをビビらせてみたい。さぞや気持ちいいだろうなぁ~。
12代目で脱おっさん化
私が最後に道交法違反で取り締まりを受けたのは、ちょうど10年前。「フェラーリ458イタリア」で山形県内の日本海東北道を走行中、白いクラウンの覆面パトに速度超過で捕まった(現在はゴールド免許)。
以前から制限速度には重々気をつけていたのですが、458イタリアはあまりにもアクセルがビンカンで、ゆっくり定速で走るのが難しい。あのときは正面の鳥海山に見とれているうちに、少しだけ速度が上がってしまった。そこを、狙いすました(?)山形県警の覆面パトにやられた。
あのときの覆面クラウンは、確か10代目。10年前ですでに20年選手くらいのベテランだった(と思う)。そんなロートルが、赤子の手をひねるがごとくフェラーリを仕留めるのだから、やっぱりクラウンは無敵である。
というわけで、私も「いつかはクラウン」という淡い思いを抱き続けてきたが、どうにもカッコ悪いし、走りも超絶オッサン臭かったので、買うには至らなかった。
クラウンの走りがオッサンを脱し始めたのは、12代目の「ゼロクラウン」からだが、14代目、稲妻グリルの「クラウン アスリート」は、デザイン的にもボディーカラー的にも攻めていて、「クラウン、スゲエ!」と感心した。
少し遅れて登場した「クラウン マジェスタ」は、とろけるような乗り味で真剣にステキ。これなら「いつかはクラウン」を実現させてもいいかも! と、本気で思ったものである。
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もはや遠すぎた橋ではない
実際私は4年前の愛車買い替えの際、14代目クラウン アスリート(中古)を検討対象に入れた。ただ、写真を見てもまったく胸が躍らず、「こんなにワクワクしないクルマに300万円近く払うのは人生の損失だ」と断念。現在の「プジョー508」に落ち着いた。「いつかはクラウン」は、ディープなカーマニアにとって、遠すぎた橋だった。
しかし、現行クラウンは、もはや遠すぎた橋ではない。現実的な検討対象だ。
個人的には、「クラウン スポーツ」が一番のお気に入りである。あれは真剣にカッコいい。「フェラーリ・プロサングエ」に似ていると評判だが、デザインが公開されたのはクラウン スポーツのほうが2カ月くらい先。もしもプロサングエの後だったら、世界中から袋だたきにあっただろう。クラウンの勝利である。
「クラウン セダン」は雄大なサイドビューにそそられるし、今回試乗したクラウン エステートも、クーペSUVとして十分イケてる。が、私が買うならクラウン スポーツ! プロサングエうんぬんは抜きにして、あのグラマラスなフォルムは魅力的だ。
とはいっても、私がホントにクラウン スポーツを買うことはないだろう。なぜって、クラウン スポーツじゃ、覆面パトに間違えてもらえないから!
クラウンは、ゼロクラウン以来じわじわと、カーマニア方向に接近しているが、実際買うとなると、自分が生きてるうちは間に合いそうにない。無念。
(文=清水草一/写真=清水草一、トヨタ自動車/編集=櫻井健一/車両協力=トヨタ自動車)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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