第316回:本国より100万円安いんです
2025.08.11 カーマニア人間国宝への道アルファとして許せる
担当サクライ君からメールが届いた。
「次回、首都高で『アルファ・ロメオ・ジュニア』にお乗りになりますか?」
言うまでもなく「乗る乗る~!」と返信した。
ジュニアは、久しぶりにアルファ・ロメオらしいクルマだ。いや、本音を言えば、アルファとして「許せる」クルマだ。アルファとして許せないのは「トナーレ」で、許せるのがジュニア。「ジュリア」も許せるけど、円安で値段が高くなりすぎた。
ジュリアには先日ベーシックな「スプリント」が出たけど、それでも665万円。これだけの金額を出せば、15年前なら「フェラーリ328」(中古)が買えた。「クアドリフォリオ」なんぞ1387万円。15年前ならフェラーリ328(中古)が2台買えた。とてもじゃないが手が出ない。
じゃ「ステルヴィオ」はどうかというと、これも新車は高すぎて論外だが、デザイン的にはちょっとひかれる。中古車を検索してみたら、ゲエッ! 最安207万円! しかも私が大好きな2.2リッター直4ディーゼルターボ(走行6.2万km)! これ、意外にいいかも。しかし不人気なんだねぇ。涙。
そんななかジュニアは、コンパクトでスポーティーなデザインや、元気に回る1.2リッター直3エンジンに、アルファらしい若々しさを感じる。お値段も420万円からなのでギリギリOK。よって、アルファとして許せるのである。
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脳内にあるアルファ・ロメオの理想形
午後8時。いつものようにサクライ君がやってきた。暗い住宅街でも、ジュニアはイタリア車らしい色気を発して輝いている。早速運転席に乗り込み、首都高に向けて発進した。
オレ:ジュニア、いいよね。
サクライ:いいですね。
オレ:久しぶりにアルファ・ロメオとして許せるクルマだね。
サクライ:許せますけど、欲しいですか?
オレ:……いや、そこまでは。
サクライ:ですよね。
さすがカーマニア。いきなり核心を突いてきた。
私は過去、アルファ・ロメオを2台買っている。最初が「155ツインスパーク」で、2台目は「147ツインスパーク」だった。
155はエンジンがものすごく痛快だった。一方シャシーはメロメロで実に頼りなく、「これぞイタリア車!」という刹那感に満ちていた。147のツインスパークエンジンは、インテークが樹脂製になり官能性は落ちたが、MT車で中古価格は68万円だったので、超絶お買い得だった。
私の脳内にあるアルファ・ロメオの理想形は、155とか「156」とか147(のMT)で止まっている。カーマニア的には、直噴のJTSエンジンやセレスピードの登場とともに、アルファ・ロメオは滅んだ。155や156、147の中古MT車も、今やだいたい絶滅した。つまり、カーマニア的に食指が動くアルファは、この世からほぼ消えている。
オレ:ジュニア、クルマはいいし、オシャレさんやセレブ向けにはアリだけどさ、オレみたいな古いアルファファンが買うかっていえば、ちょっと厳しいね。
サクライ:だと思います。
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趣味車は古ければ古いほど価値がある
オレ:でも調べてビックリしたんだけど、このクルマ、イタリア本国では最低3万0750ユーロするんだよ。日本円だと527万円だよ!
サクライ:えっ!
オレ:それが日本では420万円で買えるわけ。これって超絶お買い得じゃない?
サクライ:これ(ジュニアの導入記念限定車「イブリダ スペチアーレ」)は533万円しますけど。
オレ:420万円のヤツで十分でしょ! どれくらい装備が違うの?
サクライ:えーと、グリルやシートとかですね。そっちでいいと思います。
420万円は、収入が上がってない日本人には決して安くはない。1.2リッター直3も、旧グループPSAが開発したエンジンがベースで、オレが乗ってた「シトロエンDS3」と、フィーリング的に大差ない。
ついでに言うと、ジュニアのATは耐久性に不安のあるDCT。DS3は信頼性抜群のアイシン・エィ・ダブリュ製6段トルコン式だった。DS3の勝ちである。
オレ:結局さ、新車がこう値上がりしちゃうと、ホントに厳しいよね。
サクライ:残価設定ローンで買うしかないと思います。
オレ:サクライ君のビーエム(2024年式の2代目「BMW 218dアクテティブツアラー」)も残価設定?
サクライ:はい。
オレ:月々の支払い、いくら?
サクライ:5万円くらいです。
オレ:安くはないね。
サクライ:安くないです。
オレ:こうなると、ふだんの足は「スイフト」とか「アクア」にするしかないんじゃないかな。で、古い趣味車と組み合わせるの。
サクライ:いいと思います。
オレ:今や趣味車は、古ければ古いほど価値があるよね!
サクライ:同感です。古ければ古いほどカッコいいと思います。
ということで、カーマニアがジュニアを買うなら1960年代の古いジュニア! という結論になりました。いくらするんだろ。見当もつかん。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一/車両協力=ステランティス ジャパン)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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