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第161回:「トヨタ」から「ヒュンダイ」まで、痛快チューニング・パーツメーカー発見

2010.09.25 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第161回:「トヨタ」から「ヒュンダイ」まで、痛快チューニング・パーツメーカー発見

アウトバーン沿いの、気になるサイン

ボクが住むイタリアで、チューニングファンのお兄さんたちが乗っているクルマのベース車両はというと、「フォード・フィエスタ」や「オペル・コルサ」、そして「プジョー206」あたりだ。だが、ところ変われば……というのが、今回のお話である。

オーストリア西部、エッツタール渓谷を東西に貫くアウトバーンA12号線を通るたび、巨大な建物があることに気づいていた。ロッペンという村の近くだ。建物には「MS DESIGN」と大きく書かれている。
「これは、きっとクルマ系に違いない」と嗅覚(きゅうかく)を働かせたボクは、ある日次のインターで下りてみることにした。ちなみにオーストリアのアウトバーンは、10日間有効の通行証さえ買っておけば、何回でも乗り降り自由なのがうれしい。

たどり着いたMSデザイン社は山のふもとにあった。一見、フィアットのショールームである。しかしそれにしては自社ロゴがデカい。恐る恐るショールームのドアを開ける。
「あのぉ〜こちらはナンのお店ですか?」という疑問は、そんなボクでも快く迎えてくれた広報のリカルドさんによって次第に解けてきた。

MSデザインは、チューニング&ドレスアップ用パーツの製造元だったのだ。もともとはさかのぼること27年前の1983年、従業員たった2人で創業したオペルとスズキの地元販売店が始まりだという。それから3年後の1986年にはチューニング業を開始。年ごとに射出成型、研磨、塗装と、自社設備を充実させていった。そして現在は、グループで従業員約295人を誇る会社にまで成長したという。

ちなみにオーストリアは、そののどかなイメージとはうらはらに、アウトバーンでも一般道でもチューニングカーをたびたび見かける。雑誌スタンドでは隣国ドイツのも含め、チューニング系自動車誌が売られている。たしかに、欧州屈指の良く整備された道路は、それらを走らせるのにもってこいであることも事実だ。また、大都市以外は、ほぼ山岳地の国である。若者にとって、チューニングやドレスアップは、エキサイティングなホビーのひとつなのだ。

MSデザインのショールーム。レセプションに置かれた「フィアット・トポリーノ」。
MSデザインのショールーム。レセプションに置かれた「フィアット・トポリーノ」。 拡大
MSデザインによる2台の「フィアット500」。
MSデザインによる2台の「フィアット500」。 拡大
突然の訪問にもかかわらず、案内してくれた広報のリカルド・リープシャーさん。
突然の訪問にもかかわらず、案内してくれた広報のリカルド・リープシャーさん。 拡大
MSデザイン本社ショールーム。
MSデザイン本社ショールーム。 拡大

オヤジグルマも、このとおり

彼らのショールームに話を戻すと、前述のように現在その半分はディーラーシップを持っているフィアットの展示に、もう半分は自社で手がけたチューニングカーの展示に充てられている。
目下彼らが力を入れているのは、新型「フィアット500」をベースにしたコンプリート車両だ。たとえば1.4リッター16バルブ仕様をモディファイした「シュポルト」は、エアロパーツ&17インチアルミホイールを装着して、1万6990ユーロ(約192万円)、別のバージョン「シュポルトカップ」は1万8990ユーロ(約215万円)である。

しかし、ボクが個人的に「イカす」と声をあげてしまったのは、同じフィアットでも、最高級車「クロマ」をベースにしたものである。クロマといえば、イタリアでは、ほぼ十中八九カンパニーカー需要の、いわば「オヤジグルマ」である。

デザインはジウジアーロだが、当時フィアットが提携関係にあったGMのプラットフォームが先にありきのプロジェクトだった。そのため、ボクがデザイナー本人に聞いたところによれば「かなり困難な仕事だった」という。たしかに全長・全幅に対して、高い全高がアンバランスな印象を与える。
しかしMSデザインによる18インチアロイホイールとローダウン用スプリングを組み合わせると、かなりスタイリッシュになる。もともとカッコいいおじさんよりも、日頃さえないオヤジが変身したときのほうがインパクトがある、あれだ。

「500シュポルト」
「500シュポルト」 拡大
「500シュポルトカップ」
「500シュポルトカップ」 拡大
オヤジグルマ「フィアット・クロマ」も変身!
オヤジグルマ「フィアット・クロマ」も変身! 拡大
「クロマ」同様エアロ武装&ローダウンした欧州フォードの最上級モデル「モンデオ」。
「クロマ」同様エアロ武装&ローダウンした欧州フォードの最上級モデル「モンデオ」。 拡大
イルミネーションやオリジナル・ホイールなどでドレスアップした「トヨタiQ」。
イルミネーションやオリジナル・ホイールなどでドレスアップした「トヨタiQ」。 拡大
リアスポイラーを装備。展示車には自転車用マウントも。
リアスポイラーを装備。展示車には自転車用マウントも。 拡大
フォルクスワーゲングループ系セアトのドレスアップも同社の得意ネタのひとつ。写真は「イビーザ」。
フォルクスワーゲングループ系セアトのドレスアップも同社の得意ネタのひとつ。写真は「イビーザ」。
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次にまな板に載るのは、あのクルマ?

しかしながら、奥にもっと驚くべきものが鎮座していた。あの「トヨタiQ」である。MSデザインのオリジナルホイールを履き、フロントのエアインテークもブラックアウトされている。
エアロパーツの存在感は他車に比べて最小限にとどまるが、アクセントのカラーが各部に加えられ、極めつけとしてバンパーの両サイドにLEDを縦に配したポジショニングランプも付加されている。
トヨタはiQをクールなシティカーのイメージで売っているが、「スマート」をモディファイして楽しむ若者がいるのに倣い、いっそのことこうした「遊び」の可能性で売るのも販売促進になるかもしれないと、図らずも考えてしまった。

さらにMSデザインは、ヒュンダイまでもドレスアップの対象としている。それも最廉価車種の「i10」用までカバーしているから驚きだ。

リカルドさんによれば、今日MSデザインがパーツで対応している車種は、常時50〜60種類にのぼるという。このあたりの車種選択のおおらかさは、自国に主要自動車メーカーをもたないオーストリアならではといえる。同時に顧客も、あまりそうした既存のブランドイメージにとらわれないようで、こちらもニュートラルなお国柄を表している。

いやはや、MSデザインの「何のクルマでもかかって来い」体制、なにやら料理対決番組で、いきなり与えられた食材をもとに一品作ってしまう料理名人のようで痛快である。
すでに欧州上陸を果たしているに中国の「長城汽車」や、いつか上陸するであろうインドの「タタ・ナノ」も、彼らが俎上(そじょう)に載せる食材リストに、もう入っているのかもしれない。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

「ヒュンダイ・アクセント」(すでに生産終了)をベースに、グリルまで手を入れたもの。
「ヒュンダイ・アクセント」(すでに生産終了)をベースに、グリルまで手を入れたもの。 拡大
MS流ヒュンダイの数々。最廉価の「i10」(写真右)まで手がけている。
MS流ヒュンダイの数々。最廉価の「i10」(写真右)まで手がけている。 拡大
エアロパーツの製作工房。
エアロパーツの製作工房。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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