BYDシーライオン6 AWD(4WD)
いつか来た道 2026.07.11 試乗記 BYDのプラグインハイブリッド車(PHEV)「シーライオン6」の4WDモデルが登場。先に登場したFFモデルにリアモーターを追加したという説明は間違いではないが、実はエンジンが違うばかりか、加速力にも別物といえるくらいの差がつけられている。300km余りをドライブした印象をリポートする。国家が示す開発指針
BYDといえば電気自動車(BEV)を武器に躍り出たメーカーというイメージが強いかもしれないが、長くはない歴史の多くをPHEVが担ってきたという一面がある。2010年代は北京や上海でも彼らのクルマがタクシーとして用いられていたが、その多くはPHEVだった。が、当時のインフラの脆弱さもあって効率よく運用できない、つまりその多くが重たいエンジン車として稼働していた。当時の自分が北京で乗ったタクシーの運転手は、インセンティブがあるから乗ってやってるくらいの上からな言いようだったのを思い出す。
それがロックダウン下でスルスルッと立ち位置が逆転し、日米欧のメーカーを置き去りにするほどの劇的な変化がもたらされたわけだ。駐在経験のある日本の自動車メーカー(OEM)の方々に、尋常ならざる中国のメーカーの強さをどう理解しているか尋ねると、中央機関が示す短中期的な自動車技術開発の指針があることを指摘する。それは産学を仕切る恐ろしく優秀な官が描いた、産業発展のためのアンチョコともいえるものだ。
国内だけで北米とEUを足したくらいの数的シェアがある中国であれば、たとえ諸外国でズッコケても自分の庭でしっかり骨は拾ってもらえるわけで、そういう後ろ盾のもとにOEMもサプライヤーも安心してその青絵で全振りすることができる。すなわち投資も人材もお墨付きに乗っかれるわけだ。トランプにテーブルをひっくり返されたホンダあたりからすれば天国のような話だろうが、一方でそれが日本に限らず、外国資本の締め出しにもつながっている。
売価と原価が釣り合わない
そんななか、BYDはかの地でいうところの新エネ車市場であっという間に首位を築いたわけだが、そのプロダクトをみるに、その実力がこういった政治的なお膳立てだけではないことは伝わってくる。このシーライオン6をみてもそれは然りで、ともあれ静的質感は300万円台からのモノグレードのクルマとしては群を抜くものだ。それは加飾ものの仕立てだけでなく、ダッシュボードやドアトリム、センターコンソールなどの建て付けにも及んでいる。このところ、国内メーカーの内装担当者と話をするたびに、BYDのつくり込みについて感想を尋ねるようにしているが、皆々がそろっておっしゃるのは売価に対して原価のソロバンが全然合わないということだ。今や大して人件費にも差はないうえ、為替的にも対日輸出は不利な中国で、なぜこんなに安くクルマが出せるのか、謎は深まるばかりである。
が、ゆえに買い得かといえば、そうは問屋がおろさないのが日本のよく分からない補助金制度だ。BYDに対しては、2026年はなおのこと財布の紐が厳しく絞められていて、日米車の満額解答に対して、登録費用分くらいしかお手当があてがわれない。BYDの試乗記を書くたびに触れてきたが、原資的にも公平性が求められる資金の分配に説明できない要素があってはならないし、もしこのまま続けるのであれば、自国産業保護と貿易摩擦解消のために日米銘柄には手厚い心配りをしておりますと明言してもらったほうがむしろ納得できる。
もとより、それ前提のスキームでは市場がどんどん不健康になっていくことは目に見えているわけで、無秩序な補助金交付はいい加減に自制すべきではないだろうか。それでなくてもBEVやPHEVは、現時点で走行にまつわる課税でも相当優遇されているわけで。
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美点と弱点
というわけでシーライオン6は、FFに遅れてこの4WDが上陸したことでラインナップ的には整った。前述のとおりグレードは1つで装備差はほぼ無に等しく、FFと4WDの価格差は約50万円。搭載される1.5リッター4気筒エンジンはFFが自然吸気なのに対して4WDの側は高出力なターボとなる。駆動モーターは前後軸に同じものを配し、システムトータルの最高出力や最大トルクは単純にほぼ倍の408PS/640N・mを発生。イニシャルではわずかに後軸側の出力が高く設定されるが、これは運動性に鑑みてのものだろう。0-100km/h加速はFFが8.5秒に対して5.9秒となる。
その速さより何より、このクルマで最も感心させられるのは、電力供給の要であり時には駆動にも加勢するエンジンの音・振動といったクオリティー面だ。パワートレインの発想としては「e-POWER」や「e:HEV」、特にe:HEVの側に近い変則的シリーズ型ハイブリッドといえるが、ホンダのようなスポーティネスを感じさせることはないものの、回転フィールは雑味が少なく滑らかで耳障りな音もよく抑えられており、ノイズキャンセリングの効果とも相まって稼働が必要以上に気に障ることがない。効率面の判断は難しいが、少なくともC~Dセグメント級SUVにふさわしい質感は備わっている。BYDはすでに内燃機車両の開発を停止、よってそのリソースも縮小傾向だろうが、PHEVについては、このエンジンがあればしばらくは戦えるだろう。
静的質感とパワートレインの洗練度が美点だとすれば、シーライオン6の弱点はやはり動的質感だ。ここも同じプラットフォームの「シール」や「シーライオン7」で指摘したとおり、ならされたきれいな路面では粗相はみせないが、不規則な凹凸や段差が連続すると後ろ側から車体を揺すり始めてバタバタと落ち着きのない、アクセルを踏む右足をいさめたくなるような動きが表れる。かつてシーライオン7の試乗記でも触れたが、やはり開発時短のためにもシミュレーション優先で、実験部門の実走に費やすリソースが二の次、三の次になっているという印象だ。
走りの質感なんて気にしない
筋張った減衰感のタイヤが悪さをしているところもあるのかなと勘繰りたくなるが、一方でチューニングに人の手間が欠かせないADASの制御の質は確実に向上してもいる。タイヤのケース剛性なども勘案しながら人手間を費やさないことには進化が望めないポイントゆえ、ここは実験部門の仕事の頑張りがみえるところだ。ともあれ現時点では、商品性においてドライビングプレジャーのプライオリティーは決して高くはない。そして日米欧の自動車メーカーが持つ経験値は少なからぬ差となってBYDに立ちはだかっている。
でもそれは同時に、BYDにとっては致命傷には至らない話だ。一帯一路構想に乗っかってアフリカまで攻め込む現在の圧倒的勢いは、そんなオッさんのたわごとをもかき消すだろう。広くて速くて安いという自動車消費の三大正義の前には、クルマに滋味まで求めてしまう極東の好事家の声など声ではない。
シーライオン6はFFにせよ4WDにせよ、仕向け地の事情に対して情け容赦のないクルマだ。その費用対効果は補助金という防波堤をも乗り越える破壊力がある。しかも走るにあたってインフラに著しく依存しないのだからタチが悪い。
手もとにまったく情報はないものの、間もなく発表されるBEV軽ハイトワゴンの「ラッコ」も、察するに日本のメーカーからみれば捨て身かと思うほどの値札を提げてくるのではないだろうか。よその地べたで商いを広げる身とすれば確かに行儀のいい話ではないが、それは彼らの市場開拓の勝ち筋だ。そして振り返れば、全部を失った日本が復興を賭して市場を海外に求めた際も、たどったのは同じ道だった。いちクルマ好きからいわせてもらえば、もはやBYDのクルマは、そういう目線で背景をおもんぱかりながら値踏みする、学びの教材と化している感もある。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=BYDオートジャパン)
テスト車のデータ
BYDシーライオン6 AWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1890×1670mm
ホイールベース:2765mm
車重:2100kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:131PS(96kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:220N・m(22.4kgf・m)/1500-3500rpm
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)
フロントモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
リアモーター最高出力:204PS(150kW)
リアモーター最大トルク:340N・m(34.7kgf・m)
システム最高出力:408PS(300kW)
システム最大トルク:640N・m(65.3kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R19 99V XL/(後)235/50R19 99V XL(ジーティー・ジーティー コントロールP10)
ハイブリッド燃料消費率:18.5km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:90km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:90km(WLTCモード)
交流電力量消費率:179Wh/km(WLTCモード)
価格:448万8000円/テスト車=448万8000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:2501km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:334.8km
使用燃料:37.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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