新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.07.17 デイリーコラムこの上ないタイミングでのデモンストレーション
アルピーヌは去る2026年7月9日、英国で開催された「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(FOS)」において、デモンストレーションとして歴代「A110」やルノーエンジンを積んだ2012年のF1マシン「ロータスE20」とともに、将来発売予定の電気自動車(BEV)を示唆する「A110フューチャー」を走らせた。
A110といえば、1.8リッターターボエンジンをミドシップ搭載した従来型が、7月1日に生産を終了したばかり。その数日後というドンピシャのタイミングで開催されたFOSで、アルピーヌはA110の後を継ぐ新型BEVスポーツカーを開発中であること、そしてそれが1969年の初代から数えて通算3代目となるA110を名乗ることを公式、かつ大々的にアピールしたわけだ。
アルピーヌは2021年1月に、「ドリームガレージ」と称したBEV商品計画を発表した。具体的には、ルノー・日産・三菱アライアンスを生かしたBセグメントホットハッチとCセグメントSUV、そして“ロータスとの共同開発”となるBEVスポーツカー……という3台だった。ちなみに、前の2台は「A290」と「A390」として、すでにデビューしている。そして、最後のBEVスポーツカーにあたるのが今回のA110フューチャー=3代目A110ということである。ただし、その開発にロータスは無関係だ。
新型BEVスポーツカー開発におけるアルピーヌ(≒ルノー)とロータスの提携解消が伝えられたのは2023年5月。アルピーヌもこのときに「ロータスと2年以上にわたって新型スポーツカーの実現可能性を検討してきたが、共同開発を断念することを、友好的に決定した」といった主旨の声明を出している。そういえば、ルノーは2012年にも英ケータハムとの次世代スポーツカーの共同開発事業をアナウンスしたが、その計画もおよそ2年でとん挫。このときも結局、ルノーは単独開発の道を選び、それが2代目A110となった。
“2+2”も設定されるコンパクトな電動スポーツカー
閑話休題。というわけで、次期A110もまたアルピーヌの単独開発で、新開発の「アルピーヌパフォーマンスプラットフォーム(APP)」を土台とする。
FOSを走ったA110フューチャーを、アルピーヌはプレスリリースで“mule(ミュール)”と表現している。ミュールとは動物のラバを意味する英単語だが、クルマ業界用語では、エクステリアを既存の量産車で偽装したテスト車を意味する。その既販車か新型車か判然としない姿を、馬とロバの交配種であるラバに重ねたのが語源らしい。
A110フューチャーは簡単にいうと、開発中のAPPに2代目A110ベースの上屋をかぶせたクルマである。あえてミュールと呼ぶとおり、次期型となる3代目A110の技術検証用のためにつくられた実際のテスト車両だという。このことからも、3代目A110も2代目とさほど変わらないコンパクトサイズになるであろうことが予想される。
また今回のFOSに合わせて、アルピーヌはAPPの概要もメディアに公開した。それによると、APPはオールアルミのアーキテクチャーで、リアにモーターを積む後輪駆動が基本。2人乗りと4人乗り(2+2)という2種類の乗員レイアウトが用意されるモジュラー構造となっており、駆動バッテリーの搭載方法が、2人乗りと4人乗りで異なるのが面白い。
4人乗りのバッテリーは一般的な床下搭載となるが、2人乗りではフロントフード下とミドシップ車におけるエンジンの位置……という前後2分割搭載となり、乗員キャビンの床下にはバッテリーが置かれない。その結果、ヒップポジションをぎりぎりまで低めることができて、3代目A110の全高は、2代目とほぼ同じ1250mmという低さを実現するという。加えて、前後2分割バッテリーは重量配分にも多大なメリットがあり、3代目は“40:60”というアルピーヌが理想とする前後重量配分に落とし込むことができたとか。
じつはエンジン搭載車の計画も……
APPの概要から分かる3代目A110のもうひとつの技術的特徴は、トルクベクタリングも可能とする左右デュアルモーター駆動ということだ。左右で2つのモーターをもつミドシップ風の後輪駆動BEV……と聞いて、昨2025年春に公開されたBEVスーパーカーの「ルノー5ターボ3E」を想起するルノーファンもおられるかもしれない。じつは5ターボ3Eも基本アーキテクチャーはAPPであることが最近明らかになった。
ただし、3代目A110の駆動システムは、モーターと減速ギア、そしてインバーターを“3-in-1”で一体化したeアクスルを左右に結合したカタチとなっている。その点が、世界初の市販インホイールモーターBEVをうたう5ターボ3Eとはちがう。さらにいうと、4人乗り用APPではここにフロントモーターを加えた4WDも想定しているそうだ。
いずれにしても、左右の駆動力を自在に操る小型軽量の後輪駆動BEVスポーツカーとは、いかなる走りを見せるのか。期待しかない3代目A110は、来年=2027年のデビューが有力視されている。
そういえば、先述のロータスとの提携解消が明らかになり、新たにAPPの開発を公表した2023年には、アルピーヌは「2030年までに7車種のBEVを発売する」という計画もブチ上げている。そこにはA290、A390、3代目A110も含まれているのだが、計画どおりなら、あと3年半でさらに4車種の新型BEVを出すということだ。
ほぼすべての欧州メーカーがBEV事業計画の見直しを余儀なくされている昨今だが、アルピーヌは今のところ、この7車種BEV計画を撤回していない。そのいっぽうで、先日にはフィリップ・クリーフCEOが「じつはAPPはエンジンも搭載できる設計になっている、本当に積むかどうかはともかく……」と明かすなど、BEV計画の見直しを匂わせはじめているのもまた事実である。
(文=佐野弘宗/写真=アルピーヌ、ルノー、newspress/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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