ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)
ワゴンの再定義 2026.08.11 試乗記 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車(BEV)アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。セダン? それともクロスオーバー?
あらかじめwebCGのニュース記事を読んで勉強してからボルボES90の試乗会に臨んだ。写真も見ておいたのだが、実物に対面すると少なからぬ戸惑いを覚える。記事には「新型サルーン」と書いてあったのだが、その表現は妥当なのだろうか。プレスリリースでは「フラッグシップクロスオーバー」との表記になっている。しかし、ボルボのウェブサイトでは、「EV」カテゴリーの4台のうち唯一のセダンだと紹介されていた。
いささか混乱がみられるのには理由がある。プレスリリースにはもっと詳しい説明があった。いわく、「セダンの洗練されたエレガンス、5ドアハッチバックスタイルの実用性、SUVの広々とした室内空間と高められた最低地上高を兼ね備えた、従来のカテゴリーに収まらない新しいフラッグシップクロスオーバー」。新世代のボルボは、今までの分類法ではうまく規定できないということらしい。
フラッグシップを名乗るモデルはもう1台ある。「EX90」だ。こちらはシンプルにSUVとされている。どちらが上ということはなく、ツートップという位置づけである。いずれも「SPA2」プラットフォームとボルボの次世代BEVアーキテクチャーを用いたBEVで、兄弟車といっていいだろう。ハードウエアとソフトウエアの統合型技術基盤「スーパーセット・テックスタック」に基づいて開発されたソフトウエアディファインドビークル(SDV)でもある。
ボルボは2030年までとしていた100%BEV化の時期を変更したものの、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業になる目標は維持している。BEVの投入計画は変えておらず、新たに5モデルを発売する予定だという。日本ではプラグインハイブリッド車(PHEV)が販売を伸ばしていたが、ES90とEX90はその代替モデルになると期待されているのだ。
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受注の7割がツインモーター
ES90は979万円から購入できるので、「S90」のPHEVモデルとほぼ同じ価格帯だ。買い替えのハードルを低く設定した戦略的な値づけだと思ったのだが、2026年8月4日の時点では979万円の「ES90プラス シングルモーター エクステンデッドレンジ」は1台も受注がないということだった(国内での発売は同年7月8日)。受注の3割が1129万円の「ES90ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ」で、7割が1229万円の「ES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」だというから驚いた。
プラス シングルモーターが20インチホイールなのに対して、ウルトラ シングルモーターは21インチ。エアサスペンションが装備され、オーディオはプラスのBOSEに代わってBowers & Wilkinsになるなどの違いがある。価格差は150万円だ。さらに100万円を足せば手に入るのがウルトラで、ホイールが22インチになり、何より魅力的なのはモーターが前後に1基ずつ搭載されることだ。シングルモーターが後輪駆動で最高出力333PS(245kW) 、最大トルク480N・mに対してツインモーターでは4WDで680PS(500kW)、870N・m。この数字を見ると、どうせならツインモーターにしておこうという気持ちになるのは分からないでもない。
試乗したのはこの最上級グレードだ。箱根の強羅から御殿場に向かい、東名高速道路と西湘バイパスを経由してターンパイクの上り坂を駆け上がる。グランドツアラーとしての性能とワインディングロードでの楽しさを両立していることをアピールする意図が透けて見えるコースが設定されていた。運転席に座ってコックピットドリルを受ける。説明を聞かないと分からないことがたくさんあるからだ。ドライブモード、ドアミラー角度、ステアリングホイールのチルトとテレスコピックなどの多くの操作はセンターディスプレイで行うようになっている。
物理スイッチが少ないのは未来感をもたらすものの、正直なところまどろっこしい。ただ、一度設定してしまえばスマホのアプリに記憶させることができるので、いちいち操作する必要はない。プリセットされたボタンでパーソナルな設定を呼び出すのではなく、自動で自分仕様を再現できる。
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完璧なオーディオ空間
市街地を走る際にはワンペダルドライブを使いたい。「LOW」が標準だが「HIGH」を選んで電動ドライブの面白みを味わった。強力な回生ブレーキでスピードをコントロールするのは楽しいのだが、ガソリン車と変わらない感覚が安心という人も多いだろう。「AUTO」に設定しておけば交通状況に応じて「OFF」も含む最適なモードに切り替わる。
全長5000mm、全幅1940mmの立派な体格だから、狭い道ではやはり神経を使う。とはいっても、もう少し小ぶりなS90に乗った時よりも周りがよく見えて安心感が高かった。従来のボルボセダンよりも視点が高くなっていることが功を奏しているのだろう。
特筆すべきは静粛性である。エンジン音がないのは当然だが、外部のノイズを完全にシャットアウトしているから無音状態になる。撮影時に窓を閉めていると外にいるカメラマンの声が聞こえずコミュニケーションがとれなくて困ったほど。ロードノイズや風切音を低減するために遮音材を使うだけでなく、ボディー構造やシャシー設計などにも気を配ったという。前席と後席のスムーズな会話をサポートする音声増幅機能が装備されているが、どう考えても出番はない。
不要な音が聞こえないことで、車内は完璧なオーディオ空間となる。だからこそBowers & Wilkinsのもたらす音響が生きるわけだ。センターディスプレイでさまざまなサウンド設定ができるようになっていて、「アビーロードスタジオモード」を試してみた。「元気」と名づけられたモードを選ぶと、ボーカルの鮮明さが際立ちギターやドラムが臨場感あふれるサウンドで迫ってくる。ほかにも「親密」などのプリセットがあり、音楽ジャンルによって使い分ければより楽しめる。
西湘バイパスに入ると、目地段差が連続する難所へと進んでいく。足まわりの出来が試される試練の場で、ES90は感動的な振る舞いを示した。バタつくような場面は皆無で、路面からの意地の悪い攻撃を何事もなかったかのようにいなしていく。
ES90のホイールベースは、S90に比べて160mm、EX90に比べて115㎜長い3100mmで、底面に敷き詰められたバッテリーがもたらす重量感と相まって快適な乗り心地が実現している。ACCを使って安楽で快適なドライブを楽しめるのだが、ひとつ気をつけなければならないことがあった。リアシートのアームレストを立てて収納した状態だと、後方視界がさえぎられてしまうのだ。デジタルルームミラーを使うことをオススメする。
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上り坂ではマッチョに
試乗開始時に59%だったバッテリー残量は、小田原まで走って5%ほどしか減少していない。WLTCモードで720kmという一充電走行距離は、巧みな電力マネージメントに支えられているのだろう。その先からは箱根のターンパイク。ほぼ全域にわたって上り坂になる。2.5t超えの重量は負担だが、ツインモーターにかかればどうということはない。高速道路での紳士的なマナーを振り捨ててマッチョな側面をあらわにした。ドライブモードを「Performance」に切り替えるとフロントの駆動力が常にスタンバイ状態になり、瞬時に4輪での強力な加速が始まる。アクセルを踏み続ければとんでもないスピードに達してしまうだろう。
コーナーでは思いがけない俊敏性を見せるものの、もちろん過信は禁物だ。ブレーキには過大な負荷がかかるし、なにしろヘビーウェイトである。理性を存分に働かせなければならない。頂上まで走るとバッテリー残量は44%。上り坂で電気を使いすぎるのがBEVの弱点だが、このコース設定は考え抜かれたものだった。大観山スカイラウンジには、国内最高水準とされる240kWの出力を誇る充電器が設置されている。実際に充電してみると、スペック超えの255.4kWをたたき出し、ものの10分で70%まで回復した。高出力充電器の普及はBEVの需要拡大の促進に不可欠だ。
ES90はS90の後継ではあるが、「V90」の精神を受け継ぐモデルでもあるのだろう。大きなハッチゲートで荷室へのアクセスがよく、後席を畳めば広大なスペースが得られる。「ワゴンのボルボ」という伝統をBEV時代に合わせて再定義する役割を担うといってもいい。しかし、ボルボではフラッグシップのツートップではEX90のほうが販売を伸ばすと考えているようだ。確かに、プレミアムSUVという明確なポジションはユーザーにとって分かりやすい。
EX90にあってES90に欠けているモノとして、Dピラーに埋め込まれたLEDライトが光らないこと、フロントヘッドランプのギミックがないことが挙げられる。しかし、低重心で軽量だから、操縦性や電費では有利だろう。センターディスプレイの下に台座を設ける改良が行われていて、利便性が向上している。後席には広々とした空間があり、3列シートが必須という環境でなければ不満は生まれないはずだ。「240」や「740」「V70」などでワゴンのブランドを確立したボルボにとって、ES90は未来に向けての新しい提案なのだと思う。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5000×1940×1545mm
ホイールベース:3100mm
車重:2560kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:非同期電動機
リアモーター:永久磁石同期電動機
フロントモーター最高出力:299PS(220kW)
フロントモーター最大トルク:390N・m(39.7kgf・m)
リアモーター最高出力:381PS(280kW)
リアモーター最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)
システム最高出力:680PS(500kW)
システム最大トルク:870N・m(88.7kgf・m)
タイヤ:(前)255/40R22 103V/(後)285/35R22 106V(ピレリPゼロE)
一充電走行距離:720km(WLTCモード)
交流電力量消費率:159Wh/km(WLTCモード)
価格:1229万円/テスト車=1264万4090円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー360<工賃含む>(18万9750円)/デジタルミラー<工賃含む>(16万4340円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:2738km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.09km/kWh

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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