第14戦シンガポールGP「ハミルトンの完勝、バトンの漸進」【F1 09 続報】
2009.09.28 自動車ニュース【F1 09 続報】第14戦シンガポールGP「ハミルトンの完勝、バトンの漸進」
2009年9月27日、アジアの都市国家、シンガポールの市街地にあるマリーナベイ・サーキットで行われたシンガポールGP。人工の光の下で繰り広げられたナイトレースで、ルイス・ハミルトンはチャンピオンの名にふさわしい貫禄の勝利を飾った。そして佳境を迎えたタイトル争奪戦では、予選での失敗を挽回したジェンソン・バトンが、また一歩栄冠に近づいた。
■ナイトレースの明と暗
シンガポールの海岸沿いを、千数百もの投光器が煌々と照らす週末が今年もやってきた。カレンダー中唯一のナイトレースは、2時間弱の耐久戦。高温多湿な熱帯気候もさることながら、5kmのコースに23ものコーナーがひしめき合う、ドライバーにとってもマシンにとっても息つく暇もない過酷な戦いとなる。
光の洪水と暗闇の狭間を縫うように駆け抜けるF1マシン。それぞれの思惑を秘めた20人のドライバーの間でも、明暗が分かれたレースだった。
まず文字通りスポットライトを浴びたのは、マクラーレンのハミルトンだった。第10戦ハンガリーGPで今季初優勝を果たしたように、ハイダウンフォースサーキットでマクラーレンが他の追随を許さず完勝。2戦連続3度目のポールポジションからの勝利は、「MP4-24」のパフォーマンスがいよいよ本物であることを示唆していた。
自己最高位の2位に入ったトヨタのティモ・グロックも、“クラッシュゲート”問題(詳細は左写真参照)で極めて難しい状況に追い込まれながら3位表彰台を得たルノーのフェルナンド・アロンソも、シンガポールを笑って去ることができたであろう。
いっぽう、アン(暗)ラッキーの筆頭にあげられるのがウェバーだ。4戦連続無得点でタイトル獲得は完璧についえた。一時はトップのハミルトンに迫ったベッテルも、ピットレーンでのスピード違反でペナルティを受け表彰台圏外に落ち、数字上はチャンピオンの可能性を残すものの大きな痛手を負った。今年好調といわれながら、なかなか上位に顔が出せなかったウィリアムズのニコ・ロズベルグも、2位好走で力強いパフォーマンスを披露したが、勢いに度が過ぎてピットレーン出口で白線を踏みドライブスルーペナルティ、掴みかけたポディウムがフイになった。
幸と不幸の分水嶺、シンガポールで一番の幸運を拾った男は、おそらくはポイントリーダーのジェンソン・バトンであっただろう。予選Q2でまさかの12位。Q3で8位だったBMWのニック・ハイドフェルドがピットスタートとなったことで11番グリッドを得たが、タイトルを争うレッドブル勢(セバスチャン・ベッテル予選2位、マーク・ウェバー同4位)、そして最大のライバルであるチームメイトのルーベンス・バリケロ(同5位)に前を固められてしまった。
バトンを取り巻く環境は不利そのものだったが、61周のレースが終わってみると、ベッテルの直後、バリケロの直前となる5位フィニッシュという結果。ダメージを最小限に抑えたどころか、バリケロとの差は1点多くなり、残り3戦を優位な立場で迎えられることとなった。
■ハミルトンを追う2人の脱落
スタートでトップを守ったポールシッターのハミルトンに続いたのは、3番グリッドからひとつポジションをあげたロズベルグ。素晴らしい出だしのアロンソを何とか抑え、ベッテルが3位からレースを組み立てにかかった。僚友ウェバーは、ターン7でコースオフしながら前のアロンソを抜いたとして、アロンソとその前を走るグロックにポジションを返上し、6位にドロップ。バリケロは7位、バトンは10位から“ダメージリミテーション”の施策を開始した。
やがて、トップ3と4位グロック以下の間隔が開きはじめる。15周時点で1位ハミルトンと2位ロズベルグのギャップは3.1秒、2位と3位ベッテルでは2秒と僅差が保たれていたが、3位と4位の間には12.4秒もの差が出来上がっていた。
18周を終え、3位ベッテルがピットイン。翌周には2位ロズベルグがピットへ飛び込んだが、ウィリアムズのマシンはタイトなピットレーン出口で曲がり切れず白線をまたぎ、ドライブスルーペナルティを言い渡されてしまった。優勝も夢ではなかったが、ひとつのミスが命取りとなった。
トップのハミルトンがピットインした21周、エイドリアン・スーティルが前車を抜き切れずスピンし、そこにニック・ハイドフェルドが突っ込みクラッシュしたことでセーフティカーが出動。これを機にアロンソ、ヘイキ・コバライネン、バトン、中嶋一貴らが続々とピットに駆け込んだ。
26周目にレースが再開すると、トップのハミルトンと2位ベッテルとの間で僅差の戦いが繰り広げられた。ベッテルは、残る4戦でバトンを負かしチャンピオンになるためには、26点ものギャップを埋めなければならない。何としても1位10点がほしいレッドブルの若き挑戦者は、しかし給油量からハミルトンより先に2度目のピット作業を行わなければならず、現実的には2位キープがやっとだった。
その2位の座も、不可解なピットレーンでのスピード超過で失ってしまった。これでハミルトンには余裕が生まれ、グロックとアロンソには上位2台の脱落で表彰台が舞い降りてきた。
■バリケロとバトン、順位逆転
ストリートコースにセーフティカーはつきもの。ゴールまで15周という時点で、ブレーキが音をあげたウェバーがスピンしウォールにヒット。2度目のセーフティカー導入かと、ピット作業が未完のチーム、ドライバーは色めき立った。
5位走行中のバリケロは、すぐさまピットに入り最後の給油・タイヤ交換を完了。しかし彼が待ったフルコースイエローは訪れなかった。これがバリケロの後ろを走る7位バトンにとっては好機となり、コースにとどまり軽いマシンで飛ばし続けた結果、ブラウンの2台は順位が逆転した。チャンピオンシップで一番の好敵手を追い抜き、その次の対抗者であるベッテルが目の前のバトンにとって、5位4点は十分なリザルトだった。
最後の勝利から4ヶ月近くも経ったバトンだが、ランキングトップの座を譲ることなくシーズン終盤までこぎ着けた。最大26点まで拡大したバトンとライバルとのポイント差は、残り3戦となって15点にまで減ったが、クラッシュに巻き込まれリタイアに終わったベルギーGP以外、これまで全戦でポイントを獲得。初の栄冠に向けて着々と点を積み上げている。今回のように、ライバルが自滅してくれるレースが多かったのも、バトンを助けている。
2009年終盤のアジア2連戦、次は3年ぶりに鈴鹿サーキットで開かれる日本GP。過去の偉大なドライバーでさえ、初タイトルを前にすると信じられないミスをおかす。想像以上のプレッシャーとも戦わなければならない29歳のイギリス人は、15点の貯金を守り切るのか、使い切るのか。日本GP決勝日は、10月4日だ。
(文=bg)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |