トヨタ・プリウスL(FF/CVT)【試乗記】
企業哲学と商品思想が、時代にシンクロした 2009.08.07 試乗記 トヨタ・プリウスL(FF/CVT)……205.0万円
販売絶好調の新型「プリウス」に試乗。売れている理由は、単に時代の追い風を受けたからだけではない。その裏に、きちんとした企業の戦略と、それを支える技術がきちんとサポートしていたからだと、リポーターは考えた。
「明日に賭けた」トヨタ
GM倒産の理由を「売れるクルマを作れなかったからだ」とする論調が多い。実はそうではなくて「売りたいクルマしか作らなかった」からだというべきだ。世界トップの自動車メーカーなのに、大局的な目でクルマを見ることなく、今お金になりそうだという判断ばかりが先行し、結果としてすべて失敗した。
「売りたいクルマと売れるクルマ」は違う。企業にとって都合がいい商品と、ユーザーの欲しいものが違うのは当たり前だが、そのユーザーが何を欲するかを見極めるには、社会を大きな観点から見なければならない。いやしくも世界をリードする自動車メーカーなら、「クルマは社会にとってどうあるべきか? どのような未来社会を目指し、そのために企業側でできることは何なのか」と考えるべきだった。
そう考えていくうちに、それなら将来のユーザーはどんなクルマを求めるのか、それが見えてくるはずである。それが結果として売れるクルマになる。
「売れて儲かる商品」を作る一方で、それで儲けたお金の一部を「売れなくても儲からなくても、未来を考えたときに、いま社会にアピールしておかなくてはいけない」という商品に賭けるのも企業の仕事なのだ。
1997年、トヨタが初代のプリウスを世に問うたとき、どこまで真剣に自動車の未来と、自分たちの企業のあり方を考えたかは知らない。だが、そのプリウスは、それよりも数年前にトヨタ内に生まれた「G21プロジェクト」なるものにルーツを持っていることを思い出すなら、トヨタはあのとき、まさに「明日に賭けた」はずだ。
このプロジェクトは、21世紀にトヨタが生き延びるにはどうしたらいいかを模索することを目的とした。だが、それはとりもなおさず、トヨタ一社の問題ではなく、クルマをめぐる近未来社会はどうあるべきか、そのとき世界中の自動車企業の役割はどうなっているか、という問いかけに繋がったはずである。そこから作り始められた道路の上にいま、3代のプリウスが走っていると思えばいい。
普通にするための技術
思い返せば、初代プリウスは結構難解だった。「21世紀に間に合いました」という広告コピーと手塚治虫の漫画そのままで、「過去に描かれた未来」のようなクルマだった。形は新しいのか古いのか分からないようだった。走るとちょっと古くさいエンジン振動が出たり消えたりするし、一方で聞いたこともない音や、感じたことの無いような異質の振動なんかもあって、これまたノスタルジックなものと新鮮な機械感覚が混在していた。乗り心地やハンドリングも含めて、普通のクルマなのに普通じゃないというところが面白かった。つまりはとてもとらえどころのないようなクルマに思えたのだが、それはむしろ我々がハイブリッドを意識しすぎていたのかもしれない。
そして3代目の現行モデルに乗ったとき、「ああ、これはまさしく現代のフツーのいいクルマだ」と思った。ハイブリッドであろうがなかろうが、そんなこと、実は本質的な問題ではないようにさえ思えた。
無論プリウスはハイブリッドカーとして大きく改善され洗練されている。
エンジンが大きくなって、モーター出力が上がり、リダクションギアが入ってトルクもカバーするようになったりしながら、システム全体は小型軽量化と高効率化が図られている。さらにはプログラミングが緻密になったり、ブレーキやステアリングの制御がスムーズになったりと、初代に比べるなら技術面で飛躍的に進化している。
でも、その進化への技術的努力は、2009年夏という現在において、プリウスを普通のいいクルマにするためにあったのだということが分かった。つまりかつて想像し、空想した社会、言うなれば、過去に描かれた未来がもう来てしまったいま、とてもフツーだということだ。
21世紀にやっと間に合ったクルマは、同じ世紀の10年目になって、時代とぴったり歩調を合わせるようになったということだろう。それとも時代がこのクルマに追いついたというべきか。
自然につき合える
試乗車のグレードは「L」。つまり、なりふり構わず「ホンダ・インサイト」潰しを狙った刺客といわれる廉価版である。ディーラーオプションのナビが付いて、これで226万5250円。エコ減税も考慮すれば、値段も普通と言っていいと思う。
新型の動力性能の良さはすでに様々報告されているから、多くを語る必要はないと思う。ともかくパワーよりもトルクが圧倒的に強化されたようで、それだけで格が上がった印象を受ける。エンジンとモーターがユニゾンを奏でたときの独特の加速感は代々プリウスの魅力で、当然それはより誇示されているが、電気だけで走っているときの爽快さというか軽快さは、3代目ではさらによくなった。しかも巧く転がすと、モーターだけでも結構走ることができる。
この最廉価版にもノーマル、エコ、パワーの3モードスイッチが付いているが、別にパワーを使う必要も意味もあまりない。またせこい気持ちでエコを使うより、ノーマルのまま普通に運転しているのが一番いい。この種のクルマに乗っていると、ともすればドライブモニターを見っぱなしになり、燃費数値にばかりとらわれるような運転になりがちだが、それは身体にも精神にも良くない。
そんなこと一切気にせず、自分で一番気持ちがいい状態でドライブすればいい。そうしていてもこのプリウスは、同じ動力性能のクルマに比べて優れた燃費数値をもたらしてくれる。今回の試乗を通して、だいたい20km/リッターぐらいの燃費数値を示していた。カタログ数値にははるかに及ばないけれど、充分に納得できる値である。
現代のエコカーというものは、一昔前のこの種のクルマとは違って、事前に気構えることもなく、機械のことも意識しないで自然につき合えるようでなくてはならないが、3代目になってやっと、プリウスはそのような領域まで熟成されたと感じた。
「売れるクルマ」に育て上げた
熟成されたと感じたのは、単にパワートレーンが進化したからだけでない。ボディや足まわりも含めて洗練され、一つの自動車としての完成度が高くなったからだ。Lの場合、上級版に比べるなら、それでも乗り心地もステアリングフィールもやや劣るというが、それを知らずにこのモデルだけ乗っている限りでは、これでも従来より相当良い。
ボディ内外の仕上げ水準が随分と上がったし、全体のデザインセンスも比較的上品でいい。ダッシュ遠くに追いやられたメーター/モニター類も含めて、油染みた機械臭さが一切なくなった室内も新鮮、シートの作りも上質となった。
細かいことを気にすればステアリングフィールやブレーキの応答などに多少の違和感はあるかもしれないが、これだけ複雑なシステムをこれだけ巧みにプログラミングしていることを思えば、そんなことはどうでもいい。それよりも2グレードぐらい格が上のクルマのような落ち着きと静かなクルーズがとても好ましかった。
この大人びた味が多分、インサイトよりも多少なりともお金を積んだお客を安心させ、かなり満足させるのだろう。
たしかにGMに比べるならトヨタは、「売りたいクルマではなくて売れるクルマ」をきちんと考え、きちんと作っている。それも早め早めに手を打って、ちゃんと市場をそれに合わせて育て上げている。
要するに、企業哲学と商品思想がきれいにシンクロして、結果としてプリウスは見事に時代の核心を突くのに成功した。さすがはトヨタ、商売は本当にうまいと思う。
(文=大川悠/写真=高橋信宏)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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