「乗り物酔いしやすいクルマ」と「酔いにくいクルマ」の違いは?
2026.10.27 あの多田哲哉のクルマQ&A家族が乗り物酔いになりやすく、運転に気を使います。車両にもその要因があるとしたら、どんなところが決め手になるでしょうか? 今後のクルマ選びの参考に教えてください。
これは答えがシンプルで、「乗り物酔いしにくいクルマ」の条件は「運転中のドライバーや同乗者の“目線”がどれだけブレず、動かないか」に尽きます。
「乗り心地がいいかどうか」「運転のしやすさ」「サスペンションの硬い/柔らかい」などは別々の要素に思われがちですが、実はすべて、同じポイントに行き着きます。頭や目線が、フラフラと動かないということ。そんなクルマこそが「乗員が酔わないクルマ」であり、「乗り心地がよく、運転もしやすいクルマ」なんです。
ではなぜ、目線が動かないことが酔いにくさにつながるのでしょうか?
クルマは走行中に路面からさまざまな外乱(揺れや振動)を受けます。人間は頭と目線がグラグラ揺れると、脳が平衡感覚をたもてなくなり、それが脳の疲労や乗り物酔いにつながります。モータースポーツなどでバケットシートと4点式シートベルトを装着するのも、体を固定して目線を安定させるための第一歩なんです。
もちろん、ごく一般的な市販車でバケットシートを使うわけにはいきませんから、メーカーはサスペンションのセッティングやシートの形状、ドライバーの着座位置(ドラポジ)、前後重量配分など、ありとあらゆる要素をトータルでチューニングして「目線が動かない空間」をつくろうとしています。
クルマ選びに際して、その目線が動かないクルマを見分けるためにぜひ実践してほしいのは、ご自身の通勤路や走り慣れた道など“いつもの道”の運転で、“意識して”自らの目線の動きを確かめることです。
特殊な山道などを選ぶ必要はありません。散々慣れた道で「自分の目線や頭がどれくらい揺れているか」を、一度、無意識から意識に変えて確認してみてください。「この道をこのクルマで走ると、これくらい目線が影響を受けるんだな」と。そのうえでディーラーの試乗車を借り、全く同じ道を同じスピードで走ってみるのです。クルマによって目線の揺れ方が全然違うことに驚くはずです。
ちなみに、ダッシュボードの上面が緩やかなアール(曲線)を描くようにつくられているのは、目線が揺れた時でも路面との距離感や位置関係を正確に把握しやすくするための設計ノウハウです。単なるデザインではなく、視界の安定に大きく寄与しています。
また電気自動車(EV)は、回生ブレーキによる加減速のせいでガソリン車よりも酔いやすいといわれることもありますが、根本的に、パワートレインの違い(EVかエンジン車か)による酔いやすさの違いはありません。それはむしろ、運転の仕方や、車両自体の仕上がりの良しあしの問題。路面が波打っていても目線がビシッとフラットに保たれるクルマを選ぶことができれば、それが、乗り物酔いしにくく運転もしやすい最高のクルマということになります。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。