トヨタ・プリウスZ(4WD/CVT)
まるでスポーツカーのように 2023.04.11 試乗記 誕生以来、エコカーを代表する存在であった「トヨタ・プリウス」が、スポーツカーもかくやというフォルムにガラリと変身。先代よりもパワフルなリアモーターが採用された4WD車に試乗し、FF車との実燃費や走行フィールの違いを報告する。細かい工夫で変化を強調
新型プリウスは伝統の(初代プリウスの発売からもうすぐ25年!)シリーズパラレル式ハイブリッドを搭載したDセグメントサイズの5ドアハッチバック……という基本構成は変わりないものの、とにかくインパクト大の前衛的なエクステリアデザインが特徴だ。国民車と呼びたくなるほど大量に売れた先々代(3代目)と比較すると、先代にあたる4代目の販売が芳しくなかったことも、この大胆なデザインの理由のひとつと思われる。
そんな新型プリウスのスタイリングは多くの人が指摘するように、某スーパーカーを思わせる。その最大のポイントはもちろん猛烈に傾斜したフロントウィンドウだが、実際の寸法もより長く、幅広く、そして低い。
とくに全高はもともと低かった先代より40mmも低くなっているし、全長は25mm、全幅も20mm大きくなり、いっぽうでサイドガラスは左右方向にも絞り込まれている。ホイールベースも50mm伸びて、今回の2リッター車では19インチという大径ホイールが標準装備。こうしたもろもろが絡みあって、遠目ではべったりと地をはうようなスタンスとなっており、全高の低さがさらに強調されている。
全長の伸長幅に対してホイールベースのそれが25mm大きいことからも分かるように、新型プリウスではオーバーハングそのものは短縮している。ただ、細かく観察すると、フロントのそれは先代より逆に25mm伸びており、かわりにリアが50mm短縮されている。先代は前後オーバーハングに大きな差がないサルーン的なバランスだったのに、新型は一転して伸びやかなフロントに対してリアをスパッと切り落としたスポーツカールックになっているわけだ。こういう細かい工夫も、新型プリウスの変わった感を強めている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
老若男女のための国民車ではない
先代プリウスはクルマの設計思想から開発手法までを刷新した「TNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャー)」を掲げて登場した最初のトヨタだった。TNGAでとくに重視されたのは低重心。先代プリウスは先々代比で全高を20mm低めただけでなく、フロントカウル高で62mm、前席ヒップポイント高で59mmも下げられていた。実際、先代プリウス(や、同じ「GA-C」プラットフォームを使う現行型「カローラ」)の運転席は、ローダウンしたかのような低い目線が印象的だった。
新型プリウスは“第2世代TNGA”と銘打って、プラットフォームも改良型GA-Cとなり、より剛性アップした車体やサスペンションの設計自由度の向上をうたう。加えて、さらなる低重心も第2世代TNGAの意図するところで、今回も全高だけでなく、前後のヒップポイント高もまた下げられている。
先代比で40mm低い全高に対して、実際のヘッドルームは大きく変わっていない。となると、トヨタが公表する資料に詳しい説明はないものの、ヒップポイントも全高と同程度は低められているのだろう……と思ったら、新型プリウスにシートを供給する「トヨタ紡織」のプレスリリースに、新型プリウスのヒップポイントは先代比で30mm低くなっているとの表記があった。先々代からすると、じつに90mm近く低くなったということだ。
クロスオーバー全盛の現代ゆえ、新型プリウスの乗降性や視界性能は、良くも悪くもサルーンというよりスポーツカーを思わせる。低いヒップポイントは乗降性だけでなく、見晴らし性も犠牲にしていて、そのエクステリアデザインもあいまって、新型プリウスは明らかに車両感覚が把握しにくいクルマになっている。今のクルマは多方向にカメラがつくから絶望的に困りはしないが、プリウスはもはや老若男女のための国民車ではなく、このスタイリングに刺さった人に乗ってもらえればいいと割り切っている。先日には「カムリ」の国内販売終了も明らかになったように、伝統的サルーンのような、背の低いクルマはもはやニッチ商品化しているのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
もはやスポーツカーの手法
このようにいろいろと割り切った転身には賛否両論あるであろう新型プリウスだが、少なくともドライバーズカーとしてはお世辞ぬきに痛快というほかない。電気自動車の「bZ4X」と共通品とおぼしきステアリングホイールは約350mmという小径タイプで、ステアリングホイール自体の慣性マスが小さいのも如実に体感できる。さらに形状も真円で中心もオフセットしていないのは、最近ではめずらしく、その操作性は素直に心地よい。オルガン式となったアクセルペダルも、少なくともこういう低いドラポジとは相性がいい。
新型プリウスは開発陣も「デザインからイメージされるとおりの走りを目指した」と語っているように、いかにも路面に低くへばりついたような身のこなしである。ピッチングやロールも小さく、操舵レスポンスも俊敏そのもの。それと同時に、ステアリングの利きも強力で、大舵角までノーズはぴたりと追従する。フルバンプ近くまでストロークしてから、さらに路面不整に蹴り上げられても優しく収束するフトコロの深さも好印象。高速直進性も高い。
こうした味わいをバネやアブソーバーをことさら固めなくても実現できているのが、改良型GA-Cのさらなる低重心化(と局部剛性強化など)の恩恵だろう。サイドウォールの低い19インチタイヤだと考えると、乗り心地は望外にしなやかで快適だ。高速ではフラットそのもので、大きな凹凸なうねりに遭遇すると、フワリと適度に上下して吸収する。
それにしても、このシャシー性能はちょっとしたものだ。それもこれもヒップポイント高も含めた低重心の恩恵だろうが、乗降性や取り回し性を犠牲にしても走りにこだわるのは、すなわちスポーツカーの手法ですね……。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
高い領域までオンザレール
2リッター化されたハイブリッドパワーユニットも素直にパワフルだ。バッテリー残量が適切に残っていれば、体感的には2.5リッター自然吸気くらいのパンチを披露する。
今回の試乗車は4WDだった。先代の4WDは、低出力(最高出力7.2PS、最大トルク55N・m)のリアモーターで発進やスリップの兆候がある場合にのみトルク配分する“生活4WD”だった。しかし、新型は41PS、84N・mに高出力化したリアモーターに舗装路でも積極的にトルク配分して、操縦安定性も高めているという。
センターディスプレイに駆動配分を表示させて走ると、直進時は発進の瞬間こそリアモーターも稼働するが、その後はかなり深めのアクセルを踏み込んでも基本的にFFを維持することが分かる。しかし、操舵したり、横Gが入ったりしたときには即座にリアモーターが稼働して、少なくとも旋回中は4WD状態を保つ。
まあ、リアモーターが高出力化したといってもフロントのエンジンやモーターよりは明らかに控えめなので、後ろからはっきり蹴り出されるような乗り味ではない。しかし、同じ新型プリウスのFFでアンダーステアを出してしまったコーナーを、4WDで同じように走ると、今度は涼しい顔で何事もなくクリアしてくれた。強引に振り回してもかなり高い領域までオンザレールな所作はくずさず、「そういえば4WDだった」とはたと気づかされる、いい意味で優等生タイプの4WDである。
というわけで、毎週といわずとも年に数回、しかるべき場所でオイタするような趣味があるなら、積雪地ユーザーでなくても4WDを選ぶ価値はなくはない。カタログ表記されるWLTCモード燃費値ではFFに6~7%ゆずるが、市街地から高速、山坂道を織り交ぜた、似たようなルートをFFと4WDで走り比べたら、実燃費ではFFと4WDで有意な差はなかった。長期的な燃費ではFFに軍配が上がるだろうが、いずれにしても、その差はわずかのはず。新型プリウスでは、4WDはこれまで以上に検討する価値があると思う。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・プリウスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1430mm
ホイールベース:2750mm
車重:1480kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:152PS(112kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4400-5200rpm
フロントモーター最高出力:113PS(83kW)
フロントモーター最大トルク:206N・m(21.0kgf・m)
リアモーター最高出力:41PS(30kW)
リアモーター最大トルク:84N・m(8.6kgf・m)
システム最高出力:199PS(146kW)
タイヤ:(前)195/50R19 88H/(後)195/50R19 88H(ヨコハマ・ブルーアースGT)
燃費:26.7km/リッター(WLTCモード)
価格:392万円/テスト車:413万2300円
オプション装備:ITS Connect(2万7500円)/デジタルインナーミラー&デジタルインナーミラー用カメラ洗浄機能&周辺車両接近時サポート<録画機能>&ドライブレコーダー<前後>(8万9100円)/コネクティッドナビ対応ディスプレイオーディオPlus<車載ナビ[FM多重VICS]、オーディオ・ビジュアル[12.3インチHDディスプレイ]、AM/FMチューナー[ワイドFM対応]、フルセグテレビ、USBタイプC入力[動画・音楽再生/給電]、スマートフォン連携[Apple CarPlay/Android Auto/Miracast対応]、T-Connect[マイカーサーチ、ヘルプネット、eケア、マイセッティング]、BlueTooth対応[ハンズフリー/オーディオ]>(6万1600円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万4100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2254km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:448.3km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】 2026.3.14 英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。
-
プジョーE-3008 GTアルカンターラパッケージ(FWD)【試乗記】 2026.3.11 「プジョー3008」の電気自動車版、その名も「E-3008」が日本に上陸。新しいプラットフォームに未来感あふれるボディーをかぶせた意欲作だが、その乗り味はこれまでのプジョーとは明らかに違う。ステランティスのような大所帯で個性を発揮するのは大変だ。
-
ジープ・アベンジャー アップランド4xeハイブリッド スタイルパック装着車(4WD/6AT)【試乗記】 2026.3.10 「ジープ・アベンジャー」のラインナップに、待望の「4xeハイブリッド」が登場。既存の電気自動車バージョンから、パワートレインもリアの足まわりも置き換えられたハイブリッド四駆の新顔は、悪路でもジープの名に恥じないタフネスを披露してくれた。
-
三菱デリカD:5 P(4WD/8AT)【試乗記】 2026.3.9 デビュー19年目を迎えた三菱のオフロードミニバン「デリカD:5」がまたもマイナーチェンジを敢行。お化粧直しに加えて機能装備も強化し、次の10年を見据えた(?)基礎体力の底上げを図っている。スノードライブを目的に冬の信州を目指した。
-
ホンダCB1000F SE(6MT)【レビュー】 2026.3.7 ホンダから満を持して登場した、リッタークラスの4気筒マシン「CB1000F」。往年のCBをほうふつさせるスタイルと、モダンなパフォーマンスを併せ持つネイキッドスポーツは、先行するライバルを追い落とすことができるのか? ホンダ渾身(こんしん)の一台の実力に触れた。
-
NEW
ホンダの「スーパーONE」はどんなカスタマーに向けたBEVなのか?
2026.3.18デイリーコラムホンダが2026年に発売を予定している「スーパーONE」は「N-ONE e:」をベースとした小型電気自動車だ。ブリスターフェンダーなどの専用装備でいかにも走りがよさそうな雰囲気が演出されているが、果たしてどんなカスタマーに向けた商品なのだろうか。 -
NEW
モト・グッツィV7スポルト(6MT)【レビュー】
2026.3.18試乗記イタリアの名門、モト・グッツィのマシンのなかでも、特に歴史を感じさせるのがロードスポーツの「V7」だ。ファンに支持される味わい深さはそのままに、よりスポーティーにも楽しめるようになった最新型の実力を、上級グレード「V7スポルト」に試乗して確かめた。 -
NEW
第105回:「フェラーリ・ルーチェ」のインテリア革命(後編) ―いきすぎたタッチパネル万能主義に物申す!―
2026.3.18カーデザイン曼荼羅巨大ディスプレイ全盛の時代に、あえて物理スイッチのよさを問う! フェラーリのニューモデル「ルーチェ」のインテリアは、へそ曲がりの逆張りか? 新しい価値観の萌芽(ほうが)か? カーデザインの有識者とともに、クルマのインターフェイスのあるべき姿を考えた。 -
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)/RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】
2026.3.17試乗記「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。 -
クルマの内装から「物理スイッチ」が消えてタッチパネルばかりになるのはどうしてか?
2026.3.17あの多田哲哉のクルマQ&A近年、多くのクルマの車内では、物理的なスイッチが電気式のタッチパネルに置き換えられている。それはなぜなのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに理由を聞いた。 -
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ!
2026.3.16デイリーコラム改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。
















































