フォルクスワーゲン・ゴルフTSIコンフォートライン(FF/7AT)【試乗記】
大きな石 2009.06.23 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフTSIコンフォートライン(FF/7AT)……308万6000円
ゴルフといえば、マジメな優等生という評価が通り相場。でも、新型「ゴルフTSIコンフォートライン」に乗っていると、このクルマは相当のワル、不良ではないかと思えてきた。
おぬし、ワルよのう
6代目となる新型「ゴルフ」の安いほう、車両本体価格275万円の「ゴルフTSIコンフォートライン」にカーナビとETC、リアビューカメラのオプションを付けると308万6000円。個人的にはこれ以上のオプションは必要ないから、300万円ちょいで家族4人が乗れるファーストカーが手に入る。
するとどうでしょう。この300万円ちょいのベーシック仕様と、400万円、500万円クラスのクルマとの違いはどこにあるのか? ホントに100万円、200万円の価格差ほどの違いがあるのかと、疑いの目を向けたくなる。新型ゴルフは、「大きい方がエラい」「高いほうが高級」という世の中の秩序を乱す。そういう意味で、新型ゴルフは風紀委員が眉をひそめる不良ではないかと思うわけです。
ゴルフに乗り込んでドアを閉めると、「バスン!」といい音が響く。機能重視のインテリアの基本的な意匠は先代と変わらないけれど、黒い樹脂部分の素材の手触りが滑らかになり、エアコン吹き出し口の周囲がクロームでお化粧され、平板だったメーターまわりが立体的な造形になった。質感が高まった、というのはまわりくどい言い方で、ありていに書けば先代より高く見える。
ホイールベースと前後トレッドは先代と同じだから、室内の広さは変わらないけれど、印象としてはかなりリッチになった。実用車の範疇を超えている、と言っても過言ではない。
たっぷりとしたサイズといい、ふんわりしっかりサポートする形状といい、ほどよい背もたれと座面の硬さといい、好ましいシートに収まってエンジンを始動。アイドリング状態での静かさと振動の少なさも、先代からかなり進歩している点だ。そして7速DSGをDレンジに入れて走り出すと、「おぬし、ワルよのう」の思いはさらに強くなる。
ヒエラルキーをブッ壊した
1.4リッターのガソリン直噴エンジンにターボチャージャーを組み合わせたTSIシングルチャージャーユニットは、発進と同時に力強く車体を引っ張る。最大トルク20.4kgmを、アイドリングより少し上の1500rpmから発生するというスペックに偽りはない。ただ力があるだけでなく、シャリーンと回転を上げるフィーリングも上品。ボディの遮音がしっかりしていることもあって、室内は校了明けの雑誌編集部のように穏やかだ。
高回転域でフンづまるような感触が玉にキズではあるけど、それ以外は1.4リッターという小排気量であることを感じさせない。高回転域での「ギュイーン」をお望みの方は、160psのツインチャージャーユニット搭載の「ハイライン」をお求めください、ということだろう。
個人的に、「コンフォートライン」の122psシングルチャージャーユニットと「ハイライン」の160psツインチャージャーユニットの違いは、パワーよりフィーリング面でのほうが大きいと思える。
このエンジンにふれていると、排気量が大きいほど立派、シリンダーの数が多いほど格が上だといういままでの常識は何だったのか、と思わずにはいられない。1.4リッターより3リッター、4気筒より6気筒といったヒエラルキーをブッ壊すわけだから、このエンジンも不良だ。
7段DSGは、フツーにアクセル操作を行うと早め早めにシフトアップする。ただしシフトショックはほとんど感じられないから、変速が煩雑だという印象は受けない。受けるのは、効率よく変速しているという印象である。ポンポンポン、と、一番美味しいところをつまみ食いしながら速度が上がっていく。このパワートレーン、不良だけど賢い。
ゴルフの役目は終わっちゃいない
市街地から高速道路、山道まで、乗り心地はどんな場面でもしっとりしている。ひらひらと軽快なコーナリング、というのとはちょっと違うけれど、ワインディングロードで飛ばすような場面でも動きは素直で、清々しい。ウェット路面や、コーナリング中に凸凹と遭遇するような場面でもどっしり安定しているのは嬉しい限り。頼りがいのあるがっちりしたボディと懐の深い足まわり、そしてよくできたシートなどがあいまって、東京→大阪ぐらいなら軽く走れそうな気になる。
快適に、安全かつスピーディに移動できるというドイツ車的な美点はそのままに、ダウンサイジングしたエンジンとDSGで燃費の良さも追求した「ゴルフTSIコンフォートライン」は、かなり利口そう。このクルマに乗っていると、自分まで頭がよくなったように錯覚してしまう。
となると、より大きなボディに大排気量エンジンを積むクルマの立場は? ライバルメーカーに限らず、フォルクスワーゲンだって大変だ。ゴルフより上のクラスは、大きなボディとエンジンを使うことの根拠を示す必要がある。ゴルフより下のクラスは、ゴルフ以上に効率を追求しなければならない。
よりコンパクトなクルマやハイブリッド車の台頭もあって、「ゴルフの役割は終わった」という見方もある。それも一理あるかなと思っていたけれど、じっくりと新型ゴルフに乗ってみると、やはりゴルフは自動車界の真ん中にいる。クルマ全体の底上げを担うゴルフが投じる一石は、とても大きな石だ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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