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第76回:最古の自動車CMソングを探せ!

2009.01.31 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第76回:最古の自動車CMソングを探せ!

ゴルバチョフがCMに!?

欧州では昨年末から、一風変わったランチアのテレビCMが放映されている。
「ノーベル平和賞サミット」と題した30秒ものだ。CMはこちら↓
http://it.youtube.com/watch?v=OBTW11TptAQ

「ランチア・デルタ」の車列がやってくるのだが、後席から降り立つ人々がスゴい。
ミハエル・ゴルバチョフ、ポーランドのワレサ元「連帯」議長といったノーベル平和賞受賞者たちだ。昨2008年コロンビア革命軍から解放されたイングリッド・ベタンクールも降りてくる。ことわっておくが、みんな本モノである。さらなるVIPは? と思うと、なぜか空席。そこに現れるテロップは「アウンサン・スーチー。1991年ノーベル平和賞」だ。
ミャンマー政府が続けている拘束からの解放をアピールするものである。

ランチアによれば、撮影は2008年12月のパリ。ランチアをメインスポンサーとした「世界ノーベル平和賞受賞者サミット」のときに行われたという。昨年新型「デルタ」発売と同時に議論を巻き起こした、「リチャード・ギアとミャンマー子供僧侶の触れ合い篇」CMに続く、なんとも社会派な内容である。
ここまでくると、次回作にも期待せざるを得ない。あとは、ランチアの欧州における販売が、その話題性に比例して盛り上がってくれることを願おう。

「ランチア・デルタ」のチベット篇。
「ランチア・デルタ」のチベット篇。 拡大

懐かしい「ケンとメリー」、「お前の時代だ」

そうしたセンスが冴えるイタリア車のコマーシャルだが、実はあまりなくて寂しいものもある。それは、CMソング。

日本のCMソングで思い出すのは、2008年、日産が2代目「ティアナ」を発表した際、配布した「Forever memory」と題した冊子。本文の内容は戦後の世相と日産車の歴史を振り返るものなのだが、特筆すべきは添付のCDだ。まず小坂明子の「あなた」、狩人の「あずさ2号」といった東西の懐メロが9曲入っている。

こうした企画は、1曲1曲著作権をクリアするのに大変な苦労があると思うから、それだけで賞賛に値する。ところがそのあとに10曲目として、BUZZが歌う4代目「スカイライン(C110型)」のCMソングの元になった「ケンとメリー 愛と風のように」も収録されているではないか。
小学生時代、朝、ラジオのニュース番組から流れるそのCMを聴きながら朝ご飯を食べていたボクとしては、本当に懐かしかった。

「Forever memory」には収録されていなかったが、「ブルーバード、お前の時代だ」で知られた6代目「ブルーバード(910型)」の、沢田研二が歌うCMも心に残る。
当時、地方ラジオにおける地元日産ディーラーのCMでは、同じ曲にもかかわらず全然別の部分のフレーズがオンエアされていた。ボクはそうしたCMをラジカセを使って一生懸命録音していたものだ。

さらに日産といえば、1980年代初頭、晴海で行われていた東京モーターショーの商用車館で、マイクロバス「シビリアン」の車内を利用した休憩コーナーが設営されていたことがある。各席にヘッドホンが備えられ、前述の沢田研二を含む日産のCMソングや挿入曲全曲が連続して聴けるというものだった。個人的には復活してほしい企画だが、今やどのくらいの人が楽しんで聴いてくれるかわからないので責任は持てない。

日産が昨年作成した「Forever memory」。なかなか秀作。
日産が昨年作成した「Forever memory」。なかなか秀作。 拡大
4代目「スカイライン2000GT-X」。
4代目「スカイライン2000GT-X」。 拡大
6代目「ブルーバード」。
6代目「ブルーバード」。 拡大

100年前の自動車デート

自動車CMソングを語るにあたり、忘れてならないのはアメリカだろう。
ダイナ・ショアといえば、日本でもジャズ好きの中にファンがいる往年の歌手だが、1950年代に始まったテレビ番組「ダイナ・ショア・ショー」は、シボレーの提供だった。
そして彼女が番組内で「シボレーの歌」を歌うのが常だった。「シボレーに乗って素晴らしいUSAを見に行こう」といった内容の歌詞だ。長年続いた番組を象徴するように、この歌はモノクロ時代とカラー時代にまたがっている。

同じGMのオールズモビルも、CMソングを活用した。たとえば「old」に引っ掛け、ジャズのスタンダードナンバーである「That old feeling」を織りまぜたメロディをCMの中に使った。しかし、1950年代から長年多用したのは、「In my merry oldsmobile」という歌のメロディである。
実は「In my merry oldsmobile」という歌、誕生はなんと20世紀初頭にまで遡る。さらに驚くべきは、クルマのコマーシャルソングではなく、一作曲家が歌謡曲として作っていることである。一部で「In my merry oldsmobile」がCMソングとして作られたという記述がなされているのは誤りだ。

オールズモビルは1897年創業。のちに主要ブランドとなった米国車として最古であるばかりか、世界でも「ダイムラー/ベンツ」などと並ぶ最も古い自動車メーカーのひとつだ。
それだけでも作曲家がクルマの代名詞として、あまり迷わずにオールズモビルを選んだことは想像に難くない。だが実際にはオールズモビルが1903年、1905年とアメリカ大陸横断レースで優秀な成績を果たして話題になったことが、曲づくりのきっかけとなったようだ。

ボクは以前、この楽譜を発掘しピアノで演奏してみたことがある。戦後のCMソングがアップビートな4拍子であるのに対して、オリジナルは当時のクルマのスピードと象徴するかのごとく、のどかなワルツである。
歌詞も原作は、彼はガス・マシーン(オールズモビル)に夢中。 彼女も、彼を理解すべくクルマの運転を習う。そしてルーシーという名の彼女をドライブに誘う……といった、ほのぼのとしたものだ。

「愛のスカイライン」が登場するずっと前、事実上最古の自動車ソングから、クルマと男女は切っても切り離せないものだったのである。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=日産自動車、GENERAL MOTORS、FIAT)

参考までにシボレーの広報写真から。曲芸パイロットのB.スケルトンと1957年コーヴェット。
参考までにシボレーの広報写真から。曲芸パイロットのB.スケルトンと1957年コーヴェット。 拡大
CMが盛んに流されていた1950年代のオールズモビル。
CMが盛んに流されていた1950年代のオールズモビル。 拡大
オールズモビルを一躍有名にした「カーブドダッシュ」。
オールズモビルを一躍有名にした「カーブドダッシュ」。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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