群雄割拠の中団グループ【F1 08 総集編(後編)】
2008.12.24 自動車ニュース【F1 08 総集編(後編)】群雄割拠の中団グループ
7人もの勝者が誕生した2008年のF1世界選手権。フェラーリvsマクラーレンの頂上対決の背後でもまた、群雄割拠の様相を呈していた。悲願の初優勝を遂げたドライバーやチーム、元王者の苦悩と復活、そして志半ばにして消えていったあのチーム……。前編に続いて、今シーズンのF1を振り返る。
■影のワールドチャンピオン──ロバート・クビサ
フェラーリ、マクラーレンに次ぐコンストラクターズチャンピオンシップ3位の座を獲得、今年の目標であった初優勝を見事遂げたBMWザウバー。シーズン前半は時として2強に勝負を挑むポジションにいながら、しかし第7戦カナダでのロバート・クビサ、ニック・ハイドフェルドによる1−2フィニッシュを境に、チームは戦闘力を落としはじめる。
合計135点のポイントのうち、カナダまでの7戦で70点、つまり毎レース平均10点を獲得。それがカナダ以降の11戦となると65点しか得点できず、1レース平均5.9点と如実にポイントは減っていった。
その理由を、ライバルのパフォーマンスアップだけに求めるよりは、BMWは優勝達成と同時に開発の矛先を2009年モデルに向けた、と考える方が自然ではないだろうか。チームの激変ぶりは、それほど顕著だった。
もしこの仮説が正しければ、いやたとえ正しくなかったとしても、クビサのフラストレーションはシーズンを追うごとに積もっていったに違いない。何しろカナダでの優勝で一瞬だがポイントリーダーに躍り出て、残り3レースとなった時点までチャンピオン争いに食い込んでいたのである。
それでもクビサは、低下するマシンのパフォーマンスを補って余りある力量で戦い続けた。アグレッシブな攻めの姿勢をキープしながら第12戦バレンシア、第14戦イタリアで3位、第16戦日本では2位に入った。ルイス・ハミルトン、フェリッペ・マッサらライバルが自滅するレースも多かったなか、ほとんどミスをおかすことなくシーズンを終えた彼には、影のワールドチャンピオンの称号を与えてもいいかもしれない。
最終戦でキミ・ライコネンにポイントで並ばれ、勝利数からランキング4位に終わったクビサ。将来タイトル争いを繰り広げてくれるであろうドライバーであることは間違いない。
■元王者の底力──フェルナンド・アロンソ
マクラーレンでのすったもんだの1年の末、ルノーに帰ってきたフェルナンド・アロンソ。ともに2度のタイトルを勝ち取った勝手知ったる古巣、しかし競争力の圧倒的不足には手を焼いた。
元王者のもがきは、劇的な2連勝を飾る終盤の第15戦シンガポール、第16戦日本まで、表彰台にのぼることがなかったという事実からもうかがいしることができる。
ルノーはマシン設計をかつてのミシュランタイヤに合わせており、ブリヂストンのワンメイクとなった2007年からの苦戦は、これに起因していた。今年のマシン「R28」では改善が見られたものの、今度はライバルに比べ、開発停止中のエンジンでパワーが足りないという問題に直面していた。
それでもアロンソは、入賞合計12回、ドライバーズランキング5位でシーズンを終えたのだからさすが。チームも終盤にかけてマシンを向上させ、改良型ガソリンやエキゾーストシステムのリファインなどを実施。コンストラクターズ4位の座を手に入れた。
シンガポールでの優勝が、チームメイトのネルソン・ピケJr.のクラッシュによるセーフティカーがもたらした幸運による結果なら、次の日本での勝利は“黄金のコンビ”、アロンソとルノーの本領発揮。給油にかかる時間を抑え必死にハイペースで飛ばし、トップにのぼりつめたレース運びには往年の輝きがあった。
チーム残留を決め、来季に望みをかけるアロンソ。レギュレーションが大きく変わる2009年は、復活の狙い目といえる。
■誰もが驚いたダークホース──セバスチャン・ベッテル
ポールポジションからスタートしたところで、首位を守りきるのは容易ではない──イタリアGPスタートを前にこう思っていたパドック雀たちは、その後のセバスチャン・ベッテルとトロロッソのレース運びに舌を巻くことになる。雨に濡れたコースでひやっとするシーンもあったが、21歳の若きドイツ人はそのポジションを維持したままチェッカードフラッグをくぐり抜けた。
最年少ウィナー(さらにポールシッター)の誕生、そして親チームともいうべきレッドブルを凌駕するコンストラクターズランキング6位という戦績の裏には、チームのテクニカルディレクター、ジョルジオ・アスカネッリの存在があった。
第6戦モナコから投入されたトロロッソのニューマシン「STR3」は、名デザイナー、エイドリアン・ニューウェイによるレッドブル「RB4」と同じシャシーだったが、レッドブルがルノーエンジンを搭載していたのに対し、トロロッソはフェラーリを載せていたのが違っていた。
トロロッソ活躍の一因が、パワフルなフェラーリエンジンによるものだったこともあるだろうが、200人に満たない極小の所帯でシーズンを戦うにあたり、基本的に同じマシンをどのように使い、開発していくかという点において、アスカネッリのディレクションは的確だった。そしてイタリアでの劇的勝利は、予選、決勝を通じ雨をどう味方につけるかというチームの戦術と、ベッテルのドライビングの賜物だった。
2009年、ベッテルはレッドブルへと“卒業”。空いたトロロッソのシートには、佐藤琢磨がつく可能性が残されている。
■トヨタ、ホンダ、そしてスーパーアグリ
7年目のGPシーズンをコンストラクターズランキング5位で終えたトヨタ。“切り込み隊長”ヤルノ・トゥルーリは、14のレースで予選Q3進出を果たし、第8戦フランスでは2006年以来の表彰台、3位を獲得、まずまずの成果を残した。またティモ・グロックもシーズン終盤にはコンスタントにポイントを稼ぎ、第11戦ハンガリーでは2位でフィニッシュするなど健闘した。
だが、残されたポディウムの頂点到達は、いまだならず。厳しい経営状況にさらされているなか、継続参戦を表明しているトヨタにあって是が非でも手に入れなければならない結果が、来季もたらされるかどうか。
いっぽう、衝撃の撤退を発表したホンダは、結果的に散々な最後の年をおくった。昨年末に招聘された名将ロス・ブラウン効果が、即効性をもってあらわれなかったのは仕方のないところ。第9戦イギリスでルーベンス・バリケロが3位表彰台を獲得したが、チームはリソースを来季のマシン開発に振り向けていたため苦戦は最後まで続いた。コンストラクターズランキングは最下位の9位。名門がこのようなカタチでGPを去ることを残念に思うものは、世界中にいるはずである。
巨大自動車メーカーすら参戦を諦めざるをえない昨今、第4戦スペイン後のスーパーアグリの撤退は、コスト削減にどう取り組むべきかという、F1が直面する課題をつきつけられる出来事だった。
スポンサーの契約不履行というチームの思わぬ誤算もあったが、巨額の費用を捻出しなければならないF1は、それだけリスキーなビジネスでもあるということが証明されてしまった。
佐藤琢磨がいなくなった後、唯一の日本人ドライバーとして気をはいたのが、ウィリアムズの中嶋一貴だった。チームをリードしたのはニコ・ロズベルグだったが、中嶋は苦手な予選でのパフォーマンスを徐々に克服していき、決勝では完走16回と安定感を示した。フル参戦1年目でドライバーズチャンピオンシップは9点15位。チーム残留が決定しており、来季以降の成長が楽しみなひとりである。
(文=bg)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |