第59回:フィアット、次の手は「田舎娘」作戦だ!
2008.09.20 マッキナ あらモーダ!第59回:フィアット、次の手は「田舎娘」作戦だ!
「なんちゃって四駆」はダメ
日本の雑誌でイタリア特集なんぞを組むと、かなりの確率で「ミラネーゼのおしゃれなライフスタイル」といった感じの切り口で始まる。
しかし、本当のイタリア人はカンパーニャ、つまり田舎好きである。
今は都会で働いていても、いつか山の中に大きな家を建てようと夢見ている人は多い。吉幾三による往年のヒット曲『俺ら東京さ行ぐだ』の逆を行っているのだ。
また、都会に住んでいても田舎に家を持っていて、週末はそこで家族や仲間とワイワイ過ごす人も少なくない。そうした生活は、クルマ選びにも影響する。
イタリアの田舎は未舗装路が多い。それも砂利など敷いていない、ひどい山道が多々ある。また田舎暮らしには、暖炉や、趣味の農園がつきもの。薪、農作物、農機具を毎日クルマに積まなければならない。
そんな使い方をする人たちにとって内装真っ白革張りのSUVは必要ない。ましてや外観SUVその実二駆の「なんちゃって四駆」は最初から対象外なのである。
ローマ法王の、あのクルマも
往年のフィアットに「カンパニョーラ」という四駆があった。“Campagnola”とは、イタリア語で“田舎の娘”という意味。もともとこのクルマ、1951年イタリア軍やカラビニエリといわれる軍警察のパトロール用に造られたものが始まりだ。
全長3.64×全幅1.48m、重さ1250kgの小柄なボディ。設計を担当したのは「トポリーノ」や「500」と同じ名エンジニアのダンテ・ジャコーザだった。
バリエーション追加やパワーアップが繰り返されたのち、1974年のベオグラードのモーターショーで2代目にバトンタッチされた。その後も改良されながら1987年まで生産された。
世界で最も有名なカンパニョーラは、ローマ法王のパレードカー、通称「パパモービル」であろう。1981年のヨハネ・パウロ2世暗殺未遂事件は、法王がカンパニョーラに乗り、人々が集まるサンピエトロ広場を移動しているときに発生した。そして銃撃後、カンパニョーラは、そのまま法王を病院まで猛スピードで運んだ。
後年もカンパニョーラは、ときおりミサに用いられていたが、2005年に現法王に代わって、パパモービルは「Gクラス」などメルセデス・ベンツが主流となり、出番はめっきりと減ってしまった。
一般のイタリア人ユーザーの間でも、年を追うごとにカンパニョーラが受けなくなっていったのも事実である。冒頭のような郊外派ユーザーは、よりスパルタンなロシア・東欧製や、より気配りの利いた日本製四駆に流れていってしまったのである。
そのため電力会社、営林局、ロードサービス、消防署といった制服カンケイの方々(?)が主なユーザーとなっていった。
新型はランドローバーの遠い親戚
ところがこの8月のこと、フィアット・グループが、カンパニョーラを21年ぶりに復活させることを発表した。
厳密にいうとフィアットではなく、フィアット・グループの「イヴェコ」ブランドからである。イヴェコはグループ内で、大型トラックやそのエンジンなどを担当している会社だ。
話はさらに続く。新カンパニョーラを実際に製造するのは、そのイヴェコではなく、スペイン・アンダルシア地方のサンタナ・モーター社なのだ。ちなみに「サンタナ」といっても、フォルクスワーゲンのセダン、サンタナとはまったく関係ない。
このこんがらがった事情を説明しよう。
1958年にシトロエンのスペイン工場向けギアボックス生産で自動車産業入りしたサンタナ・モーター社は、1961年に英ローバー社と提携し、「ランドローバー・ディフェンダー」の現地生産に乗り出す。
1983年、ディフェンダーのライセンス生産が終了すると、今度はスズキと手を組んで「サムライ(日本名:ジムニー)」などの生産を開始。だがいっぽうでディフェンダーベースのスパルタン系四駆も生産し続けた。
2007年、そのスパルタン系四駆をニューモデル「マッシフ」に移行する際、イヴェコの3リッターターボディーゼルエンジンやギアボックスの供給を受けることになり、フィアット・グループとの関係が始まったのだ。
あわせてフィアット・デザインセンターは、イタルデデザイン−ジウジアーロとの共同作業で、マッシフの内外装も担当した。
今回の新型カンパニョーラは、マッシフのバリエーションとして誕生したものである。つまり、ひたすらルーツを辿れば、1948年に誕生したランドローバー・ディフェンダー・シリーズ1に行き着くというわけだ。
新カンパニョーラは3ドアクローズドボディのみで、価格は付加価値税別で2万9800ユーロ(約453万円)である。
イカすCMソング
イヴェコは、なんとこの新カンパニョーラのために専用ウェブサイトも制作した。それがコレ↓
http://www.campagnola.iveco.com/main_it.html
サイト内に流れるCMソングが、なかなかイカす。
「都会で蟻のように働いている。春の色も友達も忘れ、微笑みもない〜♪」といった歌詞から始まる曲は、中盤で一転。
「都会にないのは幸せだ。豚の丸焼き、栗、ラザニア、山脈。ビバ・ラ・カンパーニャ(田舎万歳)!♪」といった内容になる。
前半が悲しい短調、後半が明るい長調だ。メロディー的に分析すれば80年代末の「ダイハツ・ミラパルコ」における「いつも仕事がつらいけど〜♪」が短調で、「明日はサンデー、ミラパルコ。ムーンルーフも付いてて気持ちいい」が長調だったのと同手法である。ただしカンパニョーラの“耳にこびり付き度”は元祖であるダイハツに勝るとも劣らない。
スパルタンな四駆で、冒頭のようなカントリー志向の人々に訴えようという、隙間マーケット攻撃は、さすがイタリア人の性向を心得たフィアット・グループである。なお最新情報では、同グループは近い将来このサンタナ・モーター社を傘下に収めることも検討中という。
もうひとつ驚くのは、プロ向け商用車中心のイヴェコで、新カンパニョーラをきっかけに、普通のお客も呼び込もうという、そのプロジェクトである。今後の成り行きを見守りたい。
より詳しい取材をしたいのだが、問題は、どこに最寄のイヴェコ販売店があるのかボクが知らないことだ。日頃何気なく通り過ぎているのに違いないが。
皆さんも、日野や日産ディーゼル、もしくは三菱ふそうの営業所がどこにあるか覚えてますか?
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=Fiat Group Automobiles、IVECO、大矢アキオ)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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