ルノー・カングー1.5dCi(FF/6MT)【海外試乗記】
失われなかった10年 2008.07.25 試乗記 ルノー・カングー1.5dCi(FF/6MT)2007年のフランクフルトショーでデビューした新型「カングー」。ボディサイズが拡大されたことで、その走りの変化が気になるところ。日本導入を待ちきれない筆者は、フランスでその新型に試乗した。
早く乗りたい!
日本に輸入されているルノーでいちばん売れている「カングー」。1997年生まれのこのクルマがなぜいまなお人気なのか。理由はいろいろあるが、そのひとつが長さ約4m、幅5ナンバー枠以内というボディサイズなのは間違いない。
だからこそ、デビュー10年目となる2007年に登場した新型には微妙な気持ちを抱いた人も多いはず。プラットフォームが2世代前の「ルーテシア」から、ひとクラス上の「メガーヌ」や「グランセニック」にスイッチしたことで、全長4213mm、全幅1829mmにも成長してしまった。よって走りが激変している可能性だってある。
となると、なおさら乗ってみたいと思うのが人情。そこでフランスへ行ったおりに広報車を借り出した。
新型のエンジンは1.6リッターのガソリンと1.5リッターdCi(直噴コモンレール式ディーゼルターボ)があり、乗ったのは110psを発生する1.5dCiに、6段MTを組み合わせた仕様だった。
ちなみに、日本導入は、来年になるとか。もちろんガソリンモデルのみだろう。
変わらぬ使いやすさ
そのデザインはカングーらしさをうまく表現しているが、縦横比はやっぱり違う。そしてキャビンに収まると、「トヨタ・アルファード」並みの幅に圧倒されてしまった。全幅が約10mmしか違わないのだから当然か。
でも曲線を多用したインパネの造形はルノーそのもの。しかも仕上げは初代より圧倒的によくなり、装備はオートライトやオートエアコンまで付くほど。貨客両用車の面影を残すのは、逆L字型のゴツいパーキングブレーキレバーぐらいだ。
ヒップポイントが高くなった前席は、大きさも厚みもたっぷり感があり、見るからに上級なモノに一新。座面は腰をほっこり受け止め、背もたれは上体をやんわり包み込む。ルノーそのものだ。
身長170cmの僕がドライビングポジションをとると、フロアからインパネに移ったシフトレバーは絶妙な位置にあった。
旧型より約100mm長い2697mmのホイールベースのおかげで、後席はヒザの前に20cmもの空間が残るほど。幅はおとながラクに3人掛けできそうだ。
前席ほどの厚みはないが、高さも角度も適切。ファミリーカーとしての資質はさらに高まったといえる。
しかも現行型では2アクションだった折り畳みは、背もたれを前に倒すと座面が沈み込むワンタッチ方式で便利になった。
こうすれば定員乗車時でも550リッターの荷室容量をなんと2866リッターまで拡大できる。これもまたサイズアップの恩恵だ。
それでいて前席頭上の巨大なトレイは健在。後席左右にあった航空機風収納ボックスは前方に移り、あとには大きなフックが用意された。質感は高くなったけれど、本気でガシガシ使い倒すことが前提の作りは、新型でもそのままだった。
カングーらしさを継承する
ただしサイズアップは当然ながら重量増を招き、試乗した1.5dCiでは約1.4tに達する。おかげでターボが効く前の2000rpm以下のトルクの薄さを感じる。でもそれ以上に回転を上げてしまえば、不満のない加速が得られた。
音はガソリン並みとはいかないけれど、3000rpmあたりのフィーリングはスムーズにさえ感じる。コクコクと心地いいタッチのインパネシフトを6速に送り込むと、100km/hクルージングを2000rpmでこなしてくれた。
いちばん気になっていた乗り心地は、メガーヌともグランセニックとも違っていた。初代に近いテイストだったのだ。継ぎ目はややリアルに伝え、上下動のピッチが少し早まるなど、プラットフォームの違いを実感もするけれど、うねりをしんなりいなしていく様子は、名前に恥じないものだった。
しかも電動アシストっぽい癖のないステアリングを切ると、しっとりしたロールを体感させながら、カングーは背の高さを感じさせない安定性とともにコーナーを曲がっていく。直進安定性はすばらしいのひとこと。130km/h以上では風切り音が気になるけれど、ロードノイズの遮断はあいかわらずうまい。
プラットフォームの一新や、それによるサイズアップを実感する部分がないわけじゃない。でも考えてみてほしい。初代カングーがデビューしてからのルノーは、日産とアライアンスを結成したり、子会社の「ダチア」から発売した低価格車の「ダチア・ロガン」がヒットするなどしている。そんな激動の10年を乗り越えてなお、カングーらしさが継承されていたという事実が、とても印象的だったのである。
(文と写真=森口将之)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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