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第45回:ミュージカルも夢じゃない? エンツォ・フェラーリ再発見の動き

2008.06.14 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第45回:ミュージカルも夢じゃない? エンツォ・フェラーリ再発見の動き

生家復元

先日ふと思い出したことがあった。「エンツォ・フェラーリの生家」である。

今から遡ること2年半、2006年2月のこと。
パリのヒストリックカー見本市「レトロモビル」で、イタリア人のお姉さんがいるスタンドを発見した。モデナ市の鉄道沿いに残るエンツォの生家を修復して、その敷地内にモータースポーツ・ミュージアムも建設しようというプロジェクトだった。

総敷地面積は5000平方メートル。生家部分は吹き抜けの展示ホールとする。
ミュージアム部分のデザインはイギリスの建築事務所「フューチャー・システムズ」によるものだ。屋根はスポーツカーのルーバー付きフロントフードをイメージしたものである。内容は同じモデナのマセラーティを中心に、モータースポーツを振り返るものになるという。

プロジェクトを推進するのは、「フェラーリ生家財団」という組織。2003年にモデナ市および県、イタリア自動車クラプ(ACI)、そしてフェラーリ社の出資によって設立されたものだ。
建設予算は1000万ユーロ(現在の換算で約16億5000万円)である。完成するとマラネッロにあるフェラーリミュージアム「ガレリア・フェラーリ」と並ぶモデナ県の観光スポットとして機能する、というわけだ。

ところがプロジェクトが以後どうなったのか、ニュースを聞かなくなって久しいことに気がついたのである。
イタリアの建物は着工から完成まで時間がかかる。背景には景観維持を目的とした市の委員会による建築許可に時間がかることがある。また公共工事に多いのだが、インフレその他で工費が足りなくなるたび計画がストップしてしまうという現状もある。

したがって、にぎにぎしく計画が発表されたものの、その後ボクの記憶から消えてしまうものが多い。いや、実際に計画が中断していることもある。だから心配になったのである。

だが調べてみて安心した。昨2007年11月に、ようやく起工式が行なわれたという。当初の完成予定は今年2008年だったが、この感じだともう数年先か、たとえ間に合っても部分開館になると思われる。

エンツォ生家&モータースポーツ・ミュージアムの完成予想図。
エンツォ生家&モータースポーツ・ミュージアムの完成予想図。 拡大
エンツォ生家
エンツォ生家 拡大
透視予想図
透視予想図 拡大

伝記ドラマ

エンツォといえば、イタリアでは彼の生涯を描いたテレビドラマが作られている。2002年末のことだ。
イタリア公営放送RAIの関連会社によるもので、フェラーリのピエロ・フェラーリ副会長も制作に協力している。エンツォを演じたのは実力派俳優セルジオ・カステリットである。

イタリアの自動車雑誌には、熱心なファンから「ヴィットリオ・ヤーノの髭の生え方が本人と違う」「レース参加車両が違う」といった鋭い突っ込みもあったものの、スペクタクルの観点からするとおおむね良くできている。とくにエンツォがどのように兵役を逃れたかといった、あまり語られることがない部分には思わず引き込まれる。
また、フィアットに採用してもらうべくトリノに赴くものの断られて失意に陥るシーンなどは、知識として既知であっても彼の人間的苦悩が伝わってくる。

ちなみにこのドラマ、イタリア国内ではイタリア語吹き替え版が放映されたものの、実は輸出を照準に入れて制作されたものである。その証拠にイタリア人キャストも、台詞は全編英語で語られている。しばらくして発売されたDVDも英・伊・仏の3カ国語収録だ。

現在イタリアでは入手が困難でビデオ店でも置いてある店は少ないが、パリでは大型店に行けばかなりの確率で販売されている。
なお日本にお土産に買っていく人は、リージョンコードが同じ2でも映像規格が違うため再生機器が限定されるのでご注意を。

エンツォ生家の内部のイメージ。
エンツォ生家の内部のイメージ。 拡大
ミュージアム内部のイメージ。
ミュージアム内部のイメージ。 拡大

歴史の国ゆえに

ところで読者諸兄は、あのフェラーリの生家が今日まで放置され、イタリア人による伝記ドラマも作られたことはなかったのを不思議に思うだろう。ボクもそう思った。
しかし、イタリアという国は物質的にも文化的にも、そして人的にも歴史的遺産に恵まれた国である。

したがって、ありすぎて手がまわらなくなってしまうのも事実だ。
それは、イタリアのちょっとした美術館で、中世のものは大切に保管されても、ナポレオン時代のものは修復されぬまま雨ざらしになっていることが多いのを見ればわかるだろう。

だから20世紀のものなどは、人々にとって「つい先日」のイメージでとらえられてしまう。修復にはマンパワー的にも予算的にも、後回しになりがちだ。
仮にイタリアに「ALWAYS−三丁目の夕日」があったら、今朝起きたことくらいのノリだろう。

もちろんイタリアでもエンスージアストの間ではエンツォは常に知られていた。でも一般の人々にとっては、ようやく歴史上の人物として認識され始めたのだ。

想像にすぎないが、そのうちミュージカル「エンツォ・フェラーリ」なんてできたら楽しいだろう。待てよ、日本公演では誰がエンツォ役を?

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=Fondazione casa natale Enzo Ferrari 大矢アキオ)

2006年のレトロモビルで。
2006年のレトロモビルで。 拡大
「ENZO FERRARI」のフランス版DVD。後方はテレビ放映当時のガイド本。
「ENZO FERRARI」のフランス版DVD。後方はテレビ放映当時のガイド本。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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