トランスミッションメーカー「ジヤトコ」工場訪問記
2012.03.16 画像・写真コンパクトカーやミニバンのトランスミッションとして、現在主流となりつつある、無段階変速機(CVT)。それを日産自動車などの大手自動車メーカーに供給しているのが、ここに紹介するトランスミッションの専門メーカー「Jatco(ジヤトコ)」だ。
今回は、静岡県富士市にある同社の本社および富士工場を取材。めったに見ることのできない、その製造現場を写真で紹介する。リポートの中で登場する製品は、最近のジヤトコ製品のなかでよく知られている、軽自動車・小型車(FF)用の副変速機付きCVT「CVT7」(製品名の7(セブン)は世代を表す)。同社によれば、2012年中には、同社製品比で燃費を10%向上させた「CVT8」と呼ばれる中・大型車向け新型CVTが、さらに2013年には、「CVT8」に1モーター2クラッチシステムを内蔵したFF車用の「CVT8ハイブリッド」がラインナップに加わる見通しとなっている。
(文=岩尾信哉)
静岡県富士市にある、ジヤトコ本社の正面入り口。建屋の奥に、富士山の頂が見える(新幹線の最寄り駅である新富士駅から同社までは、どこでも富士山が拝める。ぜいたくなものだ)。
現在、同社の生産拠点は、日本のほかに、中国、タイ、メキシコなど。これら海外工場の強化が、円高に苦しむ日本の自動車メーカーの、海外生産拡大のカギを握っている。現在、トランスミッションの生産台数は国内がほとんどだが、2012年を境に海外生産の傾向は急速に強まり、その比率は、2014年には半々、2017年には3:7と、逆転することが見込まれている。
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静岡県富士市にある、ジヤトコ本社の正面入り口。建屋の奥に、富士山の頂が見える(新幹線の最寄り駅である新富士駅から同社までは、どこでも富士山が拝める。ぜいたくなものだ)。 現在、同社の生産拠点は、日本のほかに、中国、タイ、メキシコなど。これら海外工場の強化が、円高に苦しむ日本の自動車メーカーの、海外生産拡大のカギを握っている。現在、トランスミッションの生産台数は国内がほとんどだが、2012年を境に海外生産の傾向は急速に強まり、その比率は、2014年には半々、2017年には3:7と、逆転することが見込まれている。
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本社のロビーで訪問者を迎える、ジヤトコ製品のカットモデルたち。CVTに関しては、ジヤトコは累計で1200万台を生産、世界市場でもシェア48%(2010年)を獲得しているトップメーカーである。2011年現在、社内におけるCVTの割合は、トルクコンバーター式ATを含めた全生産台数の66%に及んでいる。
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最終(Y34)型「日産セドリック/グロリア」(1999年)などに「エクストロイドCVT」の名で採用されたのが、「トロイダルCVT」だ。写真は、V35型スカイライン「350GT-8」(2002年)に搭載されたもの。
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防塵(ぼうじん)などが考慮された、トランスミッション部品の加工・組み立てライン。なお、ジヤトコの筆頭株主は、現在その75%を保有する日産自動車であり、これに三菱自動車(15%)、スズキ(10%)と続く。ジヤトコはいま、3社のCVTの生産を担っているのだ。
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写真でスタッフが抱えているのは、トランスミッションのハウジング。組み立て前には、人の手で入念に、表面の細かい金属片や粉じんが除去される。工場内では、ゴミやチリは“コンタミ”(=コンタミネーション。異物や不純物のこと)と呼ばれ、その付着や混入には細心の注意が払われる。
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生産の工程は、パーツの鍛造・鋳造や熱処理、ロボットや精密機器を使用する加工・組み立て工程(写真)、ヒトの手による検査・仕上げなどに分かれている。
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富士工場の生産ラインで印象的だったのは、人の目と手(仕上げ工程では耳も!)を使った生産管理である。まるで精密機器を扱うように、各部の加工・組み立てが行われていることから、トランスミッションという製品に要求される精度の高さがうかがわれる。
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表面の硬度を高めるべく、熱処理のラインに並べられた、トランスミッションの構成パーツの数々。
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表面の硬度を高めるべく、熱処理のラインに並べられた、トランスミッションの構成パーツの数々。
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表面の硬度を高めるべく、熱処理のラインに並べられた、トランスミッションの構成パーツの数々。
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奥に見えるのは、1962年から半世紀にわたって運転を続けてきた「連続ガス浸炭焼入れ炉」。それぞれのパーツ(写真手前)は、一酸化炭素/水素/炭酸の混合ガスの中で約16時間をかけて熱処理される。
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こちらは「真空浸炭焼入れ炉」。炉内を真空にしたのち、炭化水素などの浸炭性ガスを部品にあわせて使用。浸炭・加熱処理が施される。酸化する危険のないなかで高熱処理が可能なため、処理に要する時間は連続炉のおよそ60%で済む。少量の短時間処理に向くとされる。
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これは、構成パーツではなく、そのギアの“歯切り加工”に用いられる「ホブカッター」。いわゆる、切削工具だ。
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歯切り加工後に、さらに磨きがかけられた、完成品のギア。
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CVTのプーリー表面を仕上げるための加工ライン。駆動ベルトと接する「シーブ面」の加工精度の高さは、滑らかな変速を可能とするポイントとなる。
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表面に仕上げ加工が施されたCVT用プーリー。奥が軽自動車/小型車用、手前が中型車/大型車用。
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CVTの最終検査では、動作テストとともに、ギア同士が発生する振動を測定する「起振動テスト」も実施される。その際、コンピューターで判断できない異音はアンプで増幅され、最終的にはヒトの耳でチェックされる。
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電気自動車「日産リーフ」に用いられる「DC/DCコンバーター」のアルミ製ケースを加工するブース。女性スタッフの姿も見られる。
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部品を運ぶAGV(オート・ガイデッド・ビークル)が、工場内の通路を行き来する。床面に染みはあっても、ごみやほこりは見られない。今回の取材に際しても、シャープペンシルの使用は禁止だった。折れた芯が飛び散って、有害な“コンタミ”(粒径の許容上限は0.4mm)になる恐れがあるからだ。
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最後に、ジヤトコのカンパニー・キャラクター「HUMO」(ヒューモ)も紹介しよう。 同社は、現在MTが主力となっている新興国市場に対して、CVTで攻勢をかけていくという。欧州市場ではDCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)が広まりつつあるが、CVTもまた、燃費面でのアドバンテージを武器に、進化を続けていくに違いない。