ジャガーXKRクーペ(FR/6AT)/XKRコンバーチブル(FR/6AT)【海外試乗記】
余韻を残す小気味よい渋み 2006.11.02 試乗記 ジャガーXKRクーペ(FR/6AT)/XKRコンバーチブル(FR/6AT) ジャガーブランドのスポーツカー「XK」のニューモデルが2006年5月に日本上陸を果たし、そのわずか2か月ほどあとのロンドンモーターショーで発表されたのが、「R」エンブレムを冠した「XKR」。スーパーチャージャーで武装した、このハイパフォーマンスモデルにスペインで試乗した。ノーマルのイメージとさほど変わらない内外装
新型「ジャガーXK」といえば、まず話題となるのはそのスタイリングだろう。発表当初は賛否両論どころか圧倒的に“否”の声ばかり聞かれたものだが、実際に街を走り始めた今、徐々に印象が変わってきたという人が増えていると僕は確信する。何を隠そう僕自身も、最初はディテールに絶句し、しかしいつの間にかそのエレガンスにとりつかれ、結局大ファンになってしまったクチなのだ。
そんなXKの高性能版、新型ジャガーXKRに試乗するべく向かったのは、スペインはバスク地方。ワインで有名なリオハの周辺であった。
まず注目は、やはりそのアピアランスだ。拡大された開口部にラフなメッシュを挿入し、ボンネットルーバーやクローム仕上げのサイドパワーベントなどを与えられたその姿は、なかなか精悍な仕上がりである。しかし、この顔は同時に従来のXKのイメージを大きく変えるほどのものではないのも確かだ。
それはインテリアについても同様で、XKとの相違点は、“R”のレタリングが入ったメーターパネルやレザーシート、専用のシフトノブといった程度。例えばライバルと位置づけられるに違いない「メルセデス・ベンツSL55AMG」、あるいは「BMW M6」などとは違って、XKを詳しく知らない人にまで何かスゴいものに違いないとまで思わせるものには仕上がっていない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
軽量ボディは独特の加速感
しかし、その実際の内容は、内外装から期待する以上のものだといっていいだろう。肝心要のパワーユニットは、XKが積むV型8気筒4.2リッターにイートン製スーパーチャージャーを組み合わせたもので、最高出力は420ps/6250rpm、最大トルクは57.1kgm/4000rpmを発生する。この数値は、XKに対して実に116ps/14.2kgm増しであり、また先代XKRとの比較でも、吸気系やスーパーチャージャーの冷却系の改良が功を奏し、14ps/0.7kgmの向上を見ている。その一方で、車重はXKに対して70kg増しに留まっており、おかげで0-100km/h加速はクーペの場合で5.2秒と、XKをジャスト1秒上回るという。
このスペックからすると、さぞ荒々しい走りではと身構えてしまうところだが、結論からいえば、それこそ内外装から受ける印象通り、運転感覚はきわめてジェントルだ。そう感じさせる第一の要因は、フラットなトルクカーブ。低回転域では明瞭なビートを刻み、回転を高めるにつれてその粒が滑らかに揃っていく感触は、なかなかの心地よさなのだが、実はどこから踏んでもトルクがギッシリ詰まっているため、そこまで回してやる必要はない。6段ATにはXK同様、俊敏なレスポンスを実現したシフトパドルも備わるが、この特性だと出番はほとんどないといっていい。
そんなエンジンと、クーペで車重1665kgという軽量アルミボディが相まって生み出される加速感は独特のものだ。200kg近くは重いライバルたちのような、重量物を力で無理矢理引っ張るような感触はまるでなく、グライダーか何かが滑空するかのように軽快に、しかし実際にはものすごい勢いで、速度を高めていくのである。
その際、先代のようにスーパーチャージャー特有のミーッという音が聞こえなくなったのもトピック。やや個性が薄まった感もあるが、上品さは確かに増している。
これみよがしでなく、クール
増大したパワーに合わせてサスペンションはスプリング、スタビライザーを硬め、減衰力可変ダンパーであるCATSのプログラムも変更された。ボディにも、リアサスペンションタワー左右を繋ぐ補強が追加されている。おかげでステアリングフィールに節度感が増し、また低速域での挙動も、しなやかさの中に適度に締まりが加わり、持ち前のライトウェイトスポーツのようなタイトな一体感が、より高められたと感じる。それでいて快適性も、コンバーチブルに19インチホイールという組み合わせですら十分満足できるものに仕上がっていた。
荒っぽさとは無縁のその大人っぽい走りのテイストに、最初は正直、もうちょっと刺激的でもいいのではとも思ったのは事実。しかしさらに距離を重ねるうち、先に挙げたドイツ製のライバルたちの、重量級ボディをこれでもかというハイパワーで押しまくる走りとは違った、スマートな高性能ぶりに、徐々に惹かれていく自分を発見することとなった。
それは、まさに内外装から受ける印象と同じ。これみよがしなところはなく、あくまでエレガントで、かつスポーティ、じわり余韻を残す小気味よい渋味が効いていて、要するにクール。古くからの英国車党というかたにも、これみよがしなハイパフォーマーに食傷気味なかたにも、是非味わってみてほしい最新モードのブリティッシュスポーツが、この新型XKRである。
(文=島下泰久/写真=ジャガージャパン/2006年11月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】 2026.2.17 「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。































