第34回:『偉大なる失敗作』ホンダ1300(1969〜1972)(その3)
2006.09.13 これっきりですカー第34回:『偉大なる失敗作』ホンダ1300(1969〜1972)(その3)
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■注目の価格
1968年秋の第15回東京モーターショーの直前に発表され、ショーのハイライトとなった「ホンダ1300」。その時点では翌69年3月に価格を公表し、同月末ごろから発売予定と告知されたが、初の本格的な量産小型車とあって予想外に手間取ったようで、最終的な生産型の仕様と価格が公表されたのは、結局、発表から半年を経た69年4月中旬のことだった。
当初のラインナップは、発表時点の96psから100psに出力を高めたシングルキャブの「77シリーズ」と、4キャブで115psまでチューンした高性能版の「99シリーズ」の2本立てで、バリエーションは前者がスタンダード、デラックス、カスタム、Sの4種、後者がデラックス、カスタム、Sの3種。
ちなみに前年のモーターショーに参考出品されたバンは、その生涯を通じてついぞ市販化されなかった。
注目の価格は、最量販モデルと目される「77デラックス」で56万8000円。これは排気量は同じだが車格はやや上の「ブルーバード1300デラックス」の 62万4000円、ひとクラス下のベストセラーカー、「カローラ1100デラックス」の52万6500円のちょうど中間で、きわめて妥当なところと言える。
ホンダからすれば、これでも製造原価を考えたらバーゲンプライスだったのだろうが、価格破壊に近い低価格で売り出した「N360」という前例があっただけに、予想よりも高めだったという意見が大勢を占めたという。なお発売はその77デラックスのみ5月末、ほかのモデルは6月末からと発表された。
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■エンジンが偉すぎた
この話題のモデルの実力を検証すべく、『カーグラフィック』では77デラックスを長期テスト車として購入、69年8月号から70年3月号にかけてリポートを掲載している。
約1 万2000kmを走行した時点で行われたロードテストの冒頭に掲げられた「要約」には「空冷4気筒、パワフル、8000rpmまでスムーズ。ノイズレベル、高回転でも低い。動力性能、1600cc級GTに匹敵。燃費一般に悪い。操縦性、標準タイアでは不安。ヒーター/デミスター不満足」と記されていた。
いっぽう主なテストデータは「最高速度160.00km/h、0-400m加速18.5秒、0-100km/h加速13.7秒、平均燃費7.46km/リッター」となっている。
焦点となるDDACエンジンについては、懐疑的な意見が述べられていた。少々長くなるが、エンジンに対するまとめの部分を引用すると、以下のような具合だった。
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「…… もうひとつ、空冷に固執するホンダに反論したいのは、本来コンパクトで軽量がとりえであるべき空冷エンジンが、1300の場合はむしろ逆なことだ。(中略)たしかに、空冷とは思えぬほど静粛なことは称賛に値するけれども、ただ静かにするだけのために、どれほどの重量増加と、スペースとそれにコストがかかったことか。それは乗用車で最も大切にされるべき客室容積をせばめ、重量バランスを狂わせ、操縦性に悪影響を与えているといわざるを得ない。N360のような2気筒のミニカーに空冷はむしろ当然だが、1300ccにまで空冷を採用する積極的理由は理解しがたい……」
エンジンの重さが悪影響を与えているという操縦性についての評価は、61.7対38.3というノーズヘビーの重量配分によって直進安定性は優れているものの、過度と言いたいほどの強度のアンダーステアで、動力性能に対してサスペンションは柔らか過ぎるというものだった。
ただしこれについては、このクルマのために設計されたという標準タイヤに負うところが大で、異常に摩耗が早かったこのタイヤを高性能版の99Sの標準タイヤに替えたところ、驚くことに操縦性が5割がた向上したとも記されていた。
居住性に関しては室内スペースは1300cc級としては広いとはいえず、ヒーターの利きは不十分で、全体に対する結論としては「良くも悪くも空冷の高出力エンジンによって、あまりにも全体設計を条件づけられているといえるだろう。実用的なファミリー・サルーンにとって、エンジンの占める位置――車全体に対する意味――というものは、それほど大きくないはずであり、大きくてはならぬものではなかろうか」と締めくくられていた。(つづく)
(文=田沼 哲/2004年11月)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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