第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜
2006.11.10 これっきりですカー第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜
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トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)
■違いはエンブレムのみ
1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。
さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。
うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。
なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。
トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。
だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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■なかなかお買い得な価格設定
まずひとつは、ステアリングギア比。「レビン/トレノ」ではほかのグレードの「18.1:1」に対して「16.1:1」と速められていたが、「レビンJ/トレノJ」は「18.1:1」のまま。もうひとつはブレーキブースター(バキュームサーボ)。72年8月以降、カローラ/スプリンター・シリーズの1400ハイデラックス以上のモデルにはブースターが標準装備されており、「レビンJ/トレノJ」も例外ではなかった。
しかし「レビン/トレノ」はデビュー当初からノンサーボで、ブースターはオプションとされていた。これはブレーキブースターを装着すると踏力が軽減される反面、ブレーキが利くまでにわずかながらタイムラグが生じ、またダイレクトなフィーリングが損なわれることが、モータースポーツの際に不向きとされていたからであろう。
車重はレビンJで845kgで、レビンより10kg軽く、1600SRと同じ。ということは動力性能も1600SRと変わらないはずである。レビンJと1600SRの違いは、サスペンションの硬さとタイヤの太さ、オーバーフェンダーの有無ぐらいなのだから。タイヤとボディが細い分抵抗が少ないだろうから、厳密にいえば最高速度に関してはむしろ1600SRのほうが速かったかもしれない。
「羊の皮を被った狼」ならぬ「狼の皮を被った羊」と言ったらいい過ぎかもしれないが、レビン/トレノのほどの高性能は不要だが、凄みの効いたあのルックスが欲しいという層に向けたモデルである「レビンJ/トレノJ」。
その価格は73万4000円で、レビン/トレノ(81万3000円)より約10万円安く、1600SR(68万9000円)より4万5000円高かった。
当時、ホットモデルの象徴だったオーバーフェンダーを1600SRに後付けして、太いタイヤに履き替えたら4万5000円では収まらないだろうし、レビン/トレノのルックスが10万円安く手に入るとなれば、なかなかお買い得な価格設定といえよう。
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■オリジナルがあれば、極めて希少
レビン/トレノと同時代の国産スポーツモデルの横綱格である「スカイライン2000GT-R」の場合は、後年になってベースとなった「2000GT」をオーナーの手で「2000GT-R」風のルックスに改造した「R仕様」が少なからず存在するが、トヨタの場合は、リアルタイムでメーカー自ら「レビン/トレノ仕様」を仕立てていたのだ。
今から30年以上も前にそこまでラインナップを拡充していたとは、トヨタ恐るべし、である。
とはいうものの、「レビンJ/トレノJ」は1代限りで終わり、2度とカタログに載ることはなかった。
もっとも、当時のホットモデルの象徴的存在だったオーバーフェンダーを装着していたのは初代限りで、2代目および3代目のレビン/トレノには、ほかのグレードとの明らかな外見上の差異がなかったため、その必要が認められなかったのだろう。
さらに「ハチロク」の呼び名で今も人気の高いレビン/トレノ1600GT(AE86)を擁した4代目以降は、「レビン/トレノ」はホッテストモデルに与えられる称号ではなく、クーペモデルの総称となってしまうのである。
「レビンJ/トレノJ」の登場からちょうど1年後の74年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジされた。
1年間ではたして何台ぐらい売れたのかは不明だが、これらを購入したオーナーは、おそらく真っ先に「J」エンブレムを外したのではないだろうか。
また、後年になってエンジンがレビン/トレノ本来の2T-G型に換装されたものも少なくないそうだから、オリジナルのまま現存している個体があれば、極めて希少な存在といえるだろう。(つづく)
(文=田沼 哲/2006年11月)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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