メルセデス・ベンツS65 AMG(FR/5AT)【海外試乗記】
最も速く最も豪華、そして最も快適 2006.05.16 試乗記 メルセデス・ベンツS65 AMG(FR/5AT) 「S65AMG」は、メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」に初めてAMGが手を加えたモデル。チューンドフラッグシップサルーンは、いかなる価値のクルマなのか?AMGが送り出す「最上級」
一番いいヤツ持ってこい!! ――そんな景気の良いオーダーにもしっかり応えてくれそうな内容の持ち主が、最近リリースされるAMGの各モデルたちには少なくない。
言わずと知れたAMGは、モータースポーツの世界と切っても切れない関係のブランド。が、そもそも発足当初は、メルセデス・ベンツ車を素材としたプライベートチューナーに過ぎなかった。今日のような高いステータス性を手に入れたのは、レースでの活躍ぶりに当時のダイムラー・ベンツ社がそのチューニング技術の高さを認め、1990年に提携関係を結ぶに至ったのがきっかけだ。
が、だからといって、このブランド名を冠したモデルすべてがバリバリにコンペティティブなクルマばかりかというと、決してそんな事はない。特に、その資本の100%がダイムラー・クライスラーの手になって以来、現在のAMG社が送り出す製品は、「最上級のメルセデス・ベンツ車」と呼んでもおかしくないキャラクターの持ち主とされる事が珍しくはないのである。
5段ATも気にならないほどのトルク
というわけで、新型Sクラスに初めて加えられたAMGバージョン「S65AMG」も、まさにそんな一台と紹介できるもの。前後バンパーには専用デザインが与えられ、テールパイプも昨今の高性能モデル“お約束”の4本出しに……といったリファインは見られるものの、トランクリッドにはスポイラーすら設定されず、ひと昔前の派手なルックスのAMG車を知る身にとっては意外なほどにおとなしい雰囲気だ。
インテリアデザインも同様で、アルミニウム製のシフトパドルや滑り止めのドットゴムが貼られたステンレススチール製のペダルに多少の“やる気”がうかがえる程度。もっとも、ふとメータークラスター内に目をやると正面には(実は液晶表示の)フルスケール360km/hまでのスピードメーターが控えていたりもする。
そう、このモデルはAMG自らが“世界で最もパワフルな量産サルーン”と称する一台。何しろ、フロントフード下に収まるのは最高出力612psを標榜する、ツインターボ付きの6リッターV型12気筒エンジンなのである。
このモデルが搭載するトランスミッションはトルコン式の5段AT。プレミアムモデルとしては「何で今どき……」とも思えるが、いざ走り始めると、そうしたスペックを目にした時点で浮かんだ“旧態依然”というフレーズは「どうでもよい事」と知らされてしまう。何しろ、実感としてはギアポジションがどこにあるか、などというのはもはや関係のない事柄。
まず、あまりの加速力ゆえに、高回転まで引っ張ること自体が難しい。エンジン回転がどうあろうと、静粛性の高さにも変わりはない。どんなシーンでもアクセルペダルをひと踏みすればたちまち溢れ出る「あり余るトルク」も、やはりエンジン回転数などには少しも依存をしない印象なのだ。
速さが快適性を損ねていない
スペインで開催された国際試乗会では、このクルマに乗ってのスタート直前、スタッフに「ESPスイッチには触れないように」と言い渡された。が、そんな注意をされなくても、ちょっと走り出せば誰もそれをOFFにしようとは思わないだろう。なにしろ、後輪1輪あたりに課せられた出力は軽く300psをオーバーする。たとえドライ路面であっても、スタート時にアクセルペダルを深く踏み込めば、1速はおろか2速ギアにアップシフトされてからさえホイールスピンが続きかねないという、とんでもないパワーの持ち主なのだ……。
その一方で驚かされたのは、このクルマがそうした驚愕の速さを――電子デバイスの助けを借りながらとはいえ――身につけながら、同時にオリジナルのSクラスが備えるフラッグシップサルーンにふさわしい快適性を、ほとんど損ねていない点。静粛性は走りのペースにかかわらず常に一級品だし、路面凹凸は例えABC(Active Body Control)でスポーツのモードを選択してもメルセデス独特のあの圧倒的なフラット感を決して失わない。すなわち、好みとあればロングボディを活かしての“ショーファードリブン”としても用いるのに抵抗のない、際立つ快適性をこのクルマはキープし続けるのだ。
そう、S65AMGはまさしく「すべてのSクラスの中にあっても頂点の座を目指した」という事が明らかな一台。最も速く、最も豪華で、最も快適なSクラス――そう評する以外に適切な表現方法が見当たらないのがこのモデルなのである。
(文=河村康彦/写真=ダイムラー・クライスラー日本/2006年5月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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