スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)
可能性は無限大! 2026.02.27 試乗記 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。思い出のなかの「キャリイ」
軽トラックは日本の経済を支えてきた存在である。なかでも古くから愛されているのがスズキのキャリイで、その歴史は60年を超える。1961年に登場したキャリイは、時代に合わせて進化を遂げてきた。ライターのゴトーも、幼少期から高校までは茨城の田舎に住んでいたものだから、このクルマはなじみ深い。農家の友達の家には必ず軽トラがあり、そしてなぜかスズキ率が高かった。
僕自身も、キャリイには何度もお世話になった。ここであえて「お世話になった」と書いたのは、まさしくキャリイに助けてもらったから。引っ越しのときや、バイクがぶっ壊れて急きょ運ばなければならない、なんてことになったときに助けてくれたのは、友人たちの所有していたキャリイだった。普通免許を取得して初めてドライブに出かけたのもキャリイ。小さいのにめちゃくちゃ頼もしく、多くの思い出をつくってくれたクルマだった。
そんなものだから、最新のキャリイに乗れるという連絡が編集H田から来たときには、ふたつ返事で飛びついた。しかも5段マニュアルのローレンジ付き4WDで、デフロックを装備しているモデルというではないか。普段、アメ車の四駆でオフロードを走っているゴトーにとっては、走破性がどれくらいのものなのか、興味津々だった。
メインのフィールドを気持ちよく走れる
最近になって大幅な改良(参照)を受けたスズキ・キャリイは、フロントマスクが現代的な雰囲気になっているけれど、ドアを開けたら基本的にチープな雰囲気は、昔からあまり変わっていない。やっぱり軽トラはミニマルで、コスパを高くするほうが大事だ。
4WDのデフロック付きということで、ハードなオフロードを想定しているのかと思ったけれど、見た感じサスのストロークは短そうだし、アプローチ/デパーチャー/ランプグレークオーバーアングルも、普通の軽トラとあまり変わらない。激しい走行シーンを撮影したいと考えていたが、借りものを傷つけるわけにもいかないし、無理はできなさそうだなぁ。なんてことを考えながら、まずは田んぼのあぜ道を走ってみることにした。舗装されているけれど路面はところどころ荒れている。軽トラがよく走るようなシチュエーションである。
自然吸気(NA)のエンジンは予想していたよりもずいぶん静か。防振・騒音対策はそれほど気を使っているわけではないから、回転を上げればシート下から音が聞こえてくるけれど、騒々しいと感じるほどではない。印象的だったのは高回転までスムーズに回ること。上まで回すと苦しげだった昔の軽トラとは大違いだ。また50PSのNAだからパワフルというわけではないけれど、ペースを上げてもまったくストレスがない。シフトのフィーリングも悪くないし、クラッチも軽い。(軽トラとしてはだけど)上が伸びるエンジンなので、こまめにシフトしながら走るのは、予想していたよりずっと面白かった。
それに、当たり前だが小回りが利く。あぜ道の交差点を実に気持ちよく曲がる。コーナリング性能がどうのということではなく、単に軽くて小さくてホイールベースが短いのだ。ただ、荷重はしっかりと受け止めてくれているようで、あえて勢いよく曲がってみても、暴れだすようなそぶりは見せなかった。あくまでもあぜ道レベルの話だが、メインのフィールドを気持ちよく走れるというのは、大事なことである。
快適性も昔に比べればずいぶん進化している。シートのスポンジが薄く、肩甲骨の下あたりが若干出っ張っているのが最初は少し気になったが、長く乗っていたら忘れてしまったくらいなので、普段使いのレベルなら問題はないだろう。
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タイヤが浮いてもグイグイ進む
そしていよいよオフロード。車体を見て想像していたことだが、サスのストロークがあまり長くないことに加えて、車体もキャブオーバーなので、乗り心地はあまりよろしくない。ただ、事前に想像していたようなソリッドな突き上げは少ない。キャリイで想定される走行シーンを思えば、十分なサスペンション性能を持っている。
1Gでの沈み込みがほとんどなく、サスはそれほど動かないから、クローリング的な走りをすると簡単にタイヤが宙に浮く。軟弱な4WDだと浮いたタイヤが空転してアウトになるシチュエーションである。ところがキャリイは、こんな状態でも問題なし。「ぬかるみ脱出アシスト」が空転するタイヤに対して自動的にブレーキをかけてくれるから、そうした状態からでも問題なく脱出ができるのだ。外から見ていたカメラマンによれば、「タイヤが空転しかけたところでグッと止まる。LSDが入っている四駆みたいだった」とのこと。これなら対角線スタックからの脱出でも有効だろう。軽トラとは思えないほど、本格的な装備である。
しかも、このモデルはデフロック付き。4WD+デフロック+ぬかるみ脱出アシストの組み合わせにより、悪路の走破性が非常に高いのだ。もっとも、基本的な走行性能が高いことに加え、今回のコースでは極端に滑りやすい場所がなかったので、結局、デフロックのお世話になることは一度もなかった。許されるなら、雨上がりのドロドロの場面や雪道で、あらためて試してみたいところだ。また、心配していたスリーアングルも、今回の走行では問題にならなかった。外観からイメージしていたよりもクリアランスは確保されているようだ。
ささやかな操作に感じるデキのよさ
凹凸が激しく、さらにアップダウンのある場所では四駆のローレンジ=4Lを多用した。こういうシチュエーションでは、タイヤの位置や路面の状況を確認しながら、ゆっくり走りたいことが多い。ところがマニュアルトランスミッションの場合、アクセル、クラッチ、ブレーキの操作がシビアになってしまう(こういうときはオートマが楽)。結果として、頻繁に4Hと4Lを切り替えるのだが、キャリイではトランスファーの切り替えが確実で、安心感があった。
「そんなの当たり前では?」なんて思ってはいけない。トランスファーのギアは常時かみ合い式であることが多く、いざ4Lに入れようとしても、ギア同士がうまくかみ合わなくて、切り替えられなくなるクルマもあるのだ。実際、数年前にオフロード性能が高いことで有名なSUVを試乗したときには、4Lへの切り替えがうまくいかず、動かなくなってしまったこともあった(クルマを押してすぐに復帰したが)。ゴトーが普段乗っている2009年型「シボレー・シルバラード」も、4Lへの切り替えができないことがあり、そういう場合は少し移動してギアの位置を動かしてから切り替えの操作をする。そういう点からすると、キャリイのトランスファーは優秀だなぁと思う。
エンジンはオフロードでさらに好印象だった。試乗した場所では、パワー不足などまったく感じなかった。4Lにしておけばきつい登り坂だって苦もなく乗り越えていく。オフロードではNAで50PSのパワー感がちょうどいいあんばいだったのである。普段、大排気量の四駆ばかり乗っているものだから、実に新鮮な楽しさがあった。軽トラ侮るべからず、という感じである。
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“農道のハチロク”としても楽しめる
キャリイはハードな使用が想定される4WD車でも、荷台の床面地上高は2WDと同じ650mm。最低地上高も160mmと変わりない。つまり、足まわりも車体も変えずに4WD化して、デフロックとぬかるみ脱出アシストという最強のスタック対策アイテムを押し込んでいるのである。ステッカーやエンブレムもないから、外からオフでの走破性の高さは分からない。見えより実をとったクルマなのである。
それでいて、秘めた実力がどれほどのものかはこれまでに紹介してきたとおり。それは「ジムニー」あたりと比べたら、激しいオフロードではかなわないだろうが、キャリイで想定されるのは雪や泥濘(でいねい)地、林道、廃道、砂浜などだ。そういった場所でなら十分すぎるくらいの走破性が確保されている。タイヤの違いとか、空荷ではリアが軽くてトラクションがかかりにくいとかの違いはあるけれど、凹凸より滑りやすさが障害となるシチュエーションなら、ジムニーにも大きなひけをとらないのではないか。
とはいえ過信は禁物だ。柔らかい砂浜や雪深い場所では、やはりパワーが必要になるし、地上高も低いから、バンパーで雪を押しのけなければならい場面では、さしもの4WDデフロック+ぬかるみ脱出アシストも役に立たなくなる。それでは困るという人は、実益を兼ねてカスタムしてしまうのもありだろう。アシを伸ばしてタイヤをデカくすれば、よりオフロードも楽しめるはずだ。使い勝手がよくて経済的で、趣味の一台としての発展性もある。キャリイって、色んな可能性があるクルマなのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=スズキ)
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テスト車のデータ
スズキ・キャリイKX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1765mm
ホイールベース:1905mm
車重:790kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:50PS(37kW)/6200rpm
最大トルク:59N・m(6.0kgf・m)/3500rpm
タイヤ:(前)145/80R12 80/78N LT/(後)145/80R12 80/78N LT(ヨコハマ・スーパーバン355)
燃費:18.7km/リッター(WLTCモード)
価格:150万4800円/テスト車=175万9890円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(5720円)/ナビゲーション(18万4800円)/アンテナセット(6050円)/ナビ信号延長ハーネス(2200円)/ETC車載器+アンテナ取り付けブランケット(1万5400円)/ドライブレコーダー+コードレールセット(4万0920円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:103km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:176.5km
使用燃料:10.56リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.7km/リッター(満タン法)/17.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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