第61回:枯れゆくブナの山、檜洞丸(その10)(矢貫隆)
2005.04.20 クルマで登山第61回:枯れゆくブナの山、檜洞丸(その10)(矢貫隆)
■矛盾のわけ
やあ……。
「やあ、じゃないですよ。ぜんぜん更新しないで、どうしてたんですか!?」
ごめん。
「ごめんじゃなくて、どうしてたんです!?」
いや、ちょっと。
「だから理由を聞いてるんですよ」
……
「言えないんですか」
……
「わかりました。いいです。ま、男にはそれなりのわけがあるわけですし」
しばらく会わないうちに大人みたいなこと言うようになったな、A君。彼女でもできたのか。とにかく許してくれ。続きを書こう。
全国に降り注いでいる雨の年平均pHは4.8。果たしてこの酸性雨が檜洞丸の貴重なブナの森を枯らしているのかという問題だ。
「pH4.8がかなり強い酸性雨だということはわかりました。でも、オレンジ果汁くらいの酸性雨で樹木は枯れないんじゃないですか?」
そのとおり。酸性雨が植物体に決定的な被害を与えるのはpH3.0以下と言われている。しかも環境省のデータを見る限りpH3を下回る酸性雨はどこからも報告されていない。
にもかかわらず、同省の報告は、全国の41カ所で観察された樹木衰退の原因について「酸性雨や大気汚染との関連も示唆されている地域も存在する」と言っているのである。
この矛盾はどうしたわけか?
答えは、檜洞丸と同じ丹沢山塊に位置する大山にあった。
大山には、神奈川県指定の天然記念物、モミの原生林があるのだが、そのモミの枯死が問題になっているのだという。被害状況は深刻で、県の調査報告書には「健全なものは37%に過ぎない」とまで書いてある。
「かなりひどい状況ですね。やっぱり原因は大気汚染なんでしょうか」
そう。それを証明した人がいる。
「また難しい話ですか?」
実はそうなんだ。俺も理解するのに苦労した話だ。(つづく)
(文=矢貫隆/2005年4月)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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