ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)
圧倒的な世界観 2026.07.17 試乗記 「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。W12時代の終わり
ベントレー・ベンテイガのフラッグシップモデルであるベンテイガ スピードのエンジンが、12気筒から8気筒になったなどと聞くと、自分なんかは自動的に“VR6”という言葉がぼんやりと浮かんできてしまい「年を取ったな」と深いため息をつく。
VR6はフォルクスワーゲン(VW)が開発した狭角のV6で、そのバンク角はわずか15度。ゆえに通常のV6であれば片バンクごとにそれぞれシリンダーヘッドを配置するが、VR6は1つのシリンダーヘッドでまかなう。これにより、6気筒でありながら4気筒並みのコンパクトなサイズが実現できた。いっぽうで、熱がたまりやすかったり吸排気効率が悪かったり整備性がよくなかったりなど、デメリットも散見された。
このVR6を2つくっつけたのが“W12”である。V6を縦につなげて12気筒にするのが一般的だった時代に、W12はVR6を72度の角度で横につなげ、つまり3気筒×4バンクという複雑な構造を持つ極めてコンパクトな12気筒エンジンとなったのである。しかし、コンパクトになっているのはV8並みの全長くらいで、扇のように横方向に広がってしまうため、補機類と合わせて結局エンジンルーム内にぎっしりと詰め込まれていた。
このW12を搭載していたのが従来型ベンテイガ スピードだったのである。ところが、W12は2024年に生産を終了。それに代わって4リッターのV8ツインターボエンジンが搭載されることになったのが、最新型のベンテイガ スピードである。ちなみに、いまでもV12を持っているのはフェラーリとメルセデス、そしてロールス・ロイスとアストンマーティンという2つの英国メーカーである。
W12よりも強力なパワースペック
フラッグシップモデルには最上級のエンジン(=V型12気筒)を、という時代は終焉(しゅうえん)に向かっていると言わざるを得ない。ロールス・ロイスに提供しているBMW製のV12は、2028年に施行予定のユーロ7をクリア済みのようだけれど、大きく重くコストもかかるV12が未来永劫(えいごう)にわたって安泰というわけにはいかないだろう。どこかのタイミングで代替機に切り替えなくてはならず、ベントレーは今回それに踏み切ったということだ。ちょうどいまさっき、ベントレーから「アーバンラグジュアリーSUV、ベントレー初のEVの『トルカル』を9月23日に発表」というプレスリリースが届いたので、そういう背景もあったのかもしれない。
ベンテイガ スピードに搭載されることになった4リッターのV8ツインターボは、ご存じのようにVWグループで広く共有されているユニットで、ポルシェの「カイエン」や「パナメーラ」、ランボルギーニの「ウルス」などが同系統のエンジンを採用している。そうはいっても「V12」には最高峰のエンジンという強い記号性がある。4気筒減ってしまっても従来のW12に見劣りしないよう、最高出力はW12の635PSから650PSに引き上げられており、0-100km/hも3.9秒から3.6秒に短縮されている。スペックの数値だけでなく、動的性能でもW12をしのぐフラッグシップにふさわしいV8ツインターボである、という大義を守っている。最大トルクは850N・m、最高速は310km/hと公表されているが、このエンジンはいまでは極めて稀有な存在となってしまった、電動化されていない純内燃機でもある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
まさにケタ違い
ベンテイガ スピードの試乗は、たまたま「ロールス・ロイス・カリナン」や「アストンマーティン・ヴァンキッシュ」に乗った直後だった。この3台に共通するのは英国車であることと、室内がいまだに機械式スイッチだらけということである。もちろん、センターにはタッチ式ディスプレイが置かれているのだけれど、積極的に機械式スイッチを減らしていこうという姿勢はみじんも感じられない。そしてたいていの機械式スイッチの周りには、クロームの装飾が施されている。この“キラキラ”が、室内に得も言われぬ高級感を漂わせる一因になっているのは間違いない。これをやりたいがために、機械式スイッチを残しているのだろうかと勘ぐりたくもなる(たぶんそうだろう)。
われわれが取材で使わせていただくメディア向け試乗車の室内には、仕様書と呼ばれるものが入っている。その個体のスペックや本体価格、そして装着されているオプションの一覧などが表記されている。信号で止まったときに、助手席に置いてあった仕様書をチラ見したら、オプションの総額が138万円と見えた。「まあそんなもんだよな」と納得してまた走りだしたものの、なんだかゼロの数が多かったような気がした。まさかとは思ったけれど、パーキングに止めてあらためてよく見たら、1385万3300円だった。最も高額なのは「ベンテイガスタイリングスペシフィケーションwithアクセント」というエクステリアのパッケージオプションで、リアスポイラーなどのエアロパーツとアクセントの差し色が含まれて228万9800円、23インチのホイールだけでも187万2350円である。この調子であれこれ選んだいったらあっという間に1000万円を超えるわけである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
重いのに重く感じない
豪華で華やかな内外装に包まれた空間でのドライブは、至極の時が波のように次から次へと押し寄せてくるような感じである。動力性能にせよ操縦性にせよ乗り心地にせよ、モノが動くときの動的質感がいずれも良質だ。2.5tを超える車両重量や300kg近くフロントのほうが重い重量配分など、質量に関する物理的要件はV8ツインターボのパワーで完全に相殺される。スロットルペダルの動きに対するレスポンスに遅れはなく、静々と滑らかで猛烈な加速感をいつでも直ちに披露する。動力性能の観点からすれば、これなら電動化によるモーターのサポートは必須ではないという説得力がある。もちろん、燃費性能まで考慮すれば電動化は一助になるけれど、この質量とボディーサイズにしては、今回のトータル燃費はそれほど悪くなく、高速巡航時には10km/リッターを超えることもあった。
右や左へステアリングを連続的に切るような場面でも、ばね上の動きはきちんと制御されていて、ピッチとロール、ヨー方向への動きが大きすぎたり緩慢だったり唐突だったりすることもない。クルマが向きを変えるという動きにも、つくり手側の意志が感じられる質感の高さがにじんでいた。
同行してくれた編集部のFさんが「なんだかとってもいいクルマに乗っている感じがするんですよね」と漏らしたけれど、こういうクルマの印象を見事に言い得ていると思う。加えて、同じプラットフォームやパワートレインを共有するポルシェやランボルギーニとは明らかに異なる、ベントレー独自の世界観がそこにちゃんと成立している。きっと「総額約5000万円もするんだから当たり前でしょ」なんて無粋なことを言ってはいけないのだ。
(文=渡辺慎太郎/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=ベントレーモーターズ ジャパン)
テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ スピード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5144×1998×1728mm
ホイールベース:2995mm
車重:2470kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:650PS(478kW)/6000rpm
最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/2250-4500rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y XL/(後)285/35ZR23 107Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:3408万円/テスト車=4880万8230円
オプション装備:カーペットオーバーマットへのコントラストバインディング(5万0340円)/マリナーレンジ<ソリッドアンドメタリック>(172万2770円)/アニメメーテッドウエルカムランプbyマリナー(37万5760円)/4+1シート(183万0900円)/ベンテイガブラックラインスペシフィケーション(106万9050円)/ブラックルーフ&ルーフレール(51万6460円)/チタンスポーツエキゾーストシステム(139万7720円)/ディープパイルオーバーマット<フロント&リア>(9万0600円)/バッテリーチャージャー<日本用アダプター>(2万0590円)/ムードライティング(7万5870円)/バレーキー(4万5290円)/ネイムフォーベントレー(132万7740円)/ベンテイガスタイリングスペシフィケーションwithアクセント(228万9800円)/カーボンファイバーフェイシア<センターコンソール&ドアウエストレール>(60万9040円)/マリナーカラースペシフィケーション(46万0490円)/ダイナミックスペシフィケーションwith 23インチブラックペイントホイール(187万2350円)/セルフレベリングホイールバッジbyマリナー(9万8530円)/ピラーボックスレッドペイントベニアキャリア(87万4930円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:2015km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:275.7km
使用燃料:46.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/6.9km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 慎太郎
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
NEW
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。 -
NEW
第343回:おやじ、涅槃で待つ
2026.8.31カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない? -
NEW
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.8.31試乗記フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(後編)
2026.8.30思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」をドライブ。前編ではそのパワートレインの中間加速のよさを語った山野。後編ではそこをもう少し掘り下げて聞くとともに、止まる、曲がるも含めたシャシー全体の印象を聞いてみた。 -
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】
2026.8.29試乗記「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――ポルシェ・タイカンGTS編
2026.8.28webCG Moviesレーシングドライバー山野哲也が「ポルシェ・タイカン」に試乗。最高出力700PSの「GTS」グレードに、ワインディングロードでむちを当てた印象は?















































