スズキ・エブリイワゴンPZターボスペシャル ハイルーフ(MR/CVT)
後ろに大切な人を乗せるなら 2026.07.08 試乗記 フロントマスクが変わったのはすぐにお気づきのことと思うが、実は最新の「スズキ・エブリイワゴン」は中身のレベルアップが著しい。内装デザインが刷新されたほか、アダプティブクルーズコントロール(ACC)などの軽バンらしからぬ装備も標準化されている。ワゴンの最上級グレードを試す。一部どころの騒ぎじゃない
今回試乗したエブリイは、2026年5月に改良された最新の「ワゴン」である。その最大の変更点は先進運転支援システム(ADAS)が最新の「デュアルセンサーブレーキサポートII(DSBS II)」に刷新されたことで、それはバンも含めたエブリイ全車で実施されている。
いわゆる自動ブレーキの自転車検知機能や、EDR(イベントデータレコーダー)搭載の義務化などを含む新しい保安基準は、新型車については2024年7月から義務づけられていたが、この2026年7月からは継続生産車にも適用される。そういわれてみると、2024年後半あたりから、国内のスズキ各車でも順次、ADASをDSBS IIにアップデートする変更が実施されてきた。今回のエブリイに続いて、2026年6月に「ハスラー」も改良されたことで、国内向けスズキ(の自社生産車)のDSBS II搭載が完了したことになる。
今回の改良をスズキ自身は「一部仕様変更」と表現しているが、そのわりには見た目の印象も大きく変わった。DSBS IIには従来の「デュアルカメラブレーキサポート」にはなかったミリ波レーダーが追加される。フロントフェイスのど真ん中に“チョビひげ”のようについている小さな黒いパネルがそれで、今回のエブリイワゴンの場合は、黒いメッシュ風センターグリルを追加して、それをカムフラージュしている。また、その新フェイスに合わせて、フロントバンパーデザインも変わった。
ただ、改良はそれだけにとどまらない。内装カラーも従来のベージュ基調からブラックに刷新されたほか、バンの一部グレードに残っていた4段ATもCVTに変更となり、これでエブリイの2ペダル車の変速機は、すべてダイハツから供給されるCVTに統一された。ほかにも装備の見直しも多岐にわたり、やはり、一部仕様変更という表現には違和感があるくらいの大規模な改良である。
もはや希少な軽乗用ワゴン
繰り返しになるが、今回試乗したエブリイは乗用5ナンバー登録となるワゴンである。ご承知の好事家も多いように、エブリイのライバルであるダイハツの「ハイゼット/アトレー」とホンダの「N-VAN」には、もはや商用4ナンバー登録バンモデルの用意しかない。
というのも、こうした軽バン系は、個人ユーザーでも「とにかく荷物を積みたい」という用途で購入されることが多く、普段は1~2人乗りのケースが大半。よって、「起こした状態の後席より荷室が広くなければならない」というバン規定のために、せまく簡素になりがちな後席も、販売にはあまり影響がない。また、軽ではない商用車は車検が1年ごと(初回のみ2年)だが、軽商用車は常に2年車検で、初回(乗用車は3年)以外は乗用車とちがいがない。それでいて、毎年の自動車税などは商用車のほうが安い。……といったこともあり、エブリイより新しい現行ハイゼット/アトレーやN-VANは、バリエーション数削減によるコスト抑制を狙ってか、最初からワゴンを設定していない。いっぽう、現行エブリイがデビューした2015年当時は、ダイハツやホンダにもまだ軽バン系ワゴンがあった。
近年はダイハツやホンダを意識してか、「Jリミテッド」といった個人ユーザーを強く意識した4ナンバーモデルにも力を入れているエブリイだが、今回の改良でも、いまやクラス唯一となっていたワゴンが継続設定となった。この点は、とにもかくにも選択肢が多いほうがユーザー側としてはありがたい。
また、スズキ広報部によると「今回はとくにワゴンならではのデザイン性を追求して、アダプティブクルーズコントロール(ACC)も用意されたこともあって、ワゴンの販売が以前より盛り返しています」とのことだ。なるほど、DSBS IIはバンにも搭載されるが、フロントデザインはこれまで以上に差別化されている。また、バンでは一部グレード限定となるACCも、ワゴンは全車標準装備である。
インテリアデザインも刷新
というわけで、新しいエブリイワゴンの運転席に座ってみると、変わったのは内装カラーだけではないことに、すぐに気づく。
もっとも目立つステアリングホイールが、ほかの最新スズキ乗用車と同様の3本スポークデザインとなっただけでなく、メーターパネルもデジタル速度計とカラー多機能ディスプレイの組み合わせになるなど、インターフェイスもアップデートされている。さらに、純正センターディスプレイの大画面化(7インチ→9インチ)にともなって、左右の空調吹き出し口のデザインも変わった。従来の灰皿にかえて新装備のスイッチ類が並べられるのも新しいし、細かいところではドリンクホルダーも最近定番化した紙パック飲料に対応した角型(底部は丸型)デザインになった。
ステアリングホイールがワゴンでは革巻きになるのは以前からの特権だが、今回はステアリングヒーターまでワゴン専用に追加された。すっかり末端冷え性になった中高年の筆者にとっては、これだけで「新しいエブリイはワゴン一択!」と申し上げたいくらいである。もしかしたら、このステアリングヒーターも新しいエブリイの販売面における“ワゴン復権”の大きな理由ではないか……と、筆者などは勝手に想像してしまうほど、心ひかれる装備だ。
表皮以外のシートの基本設計は従来どおりのようだが、後席にまつわる機能や居住性が、このクラスでアタマひとつ抜けているのは、ワゴンならでは……だ。もっとも、リアシート自体はバンでも立派なのがエブリイの美点で、「後席に日常的に人を乗せるなら、このクラスはエブリイ一択」というのも筆者の個人的な見解だが、ワゴンではそこに最大で前後180mmの左右独立スライド機能と、ほぼフラットまで倒せるリクライニング機能が追加される。
静粛性が大幅にアップ
走りについては昨2025年にご報告したバンのJリミテッドに準じる印象だ。ダイハツ由来のCVTによるリニアな加減速マナーはすこぶる心地よく、運転しやすい。当時の試乗では「これならACCがなくても大きな不満なし」と申し上げたが、いっぽうで長時間アクセルペダルを踏み続ける行為は確実に疲れるもので、高速ロングドライブでは、今回のようにACCがあるに越したことはない……というのもまた本当である。
シャシーやパワートレインにとくに変更はないので、基本的な乗り味がバンのJリミテッドに準じることは事実だが、といって同じでもない。その理由のひとつは、バンとワゴンでのシャシーのちがいだ。今回のワゴンはタイヤが乗用車用となり、バンのような最大積載量のシバリがなくなるので、とくにリアサスペンションがソフトな調律となっている。実際の乗り心地の差は、良路では意外に小さくもあるが、荒れた舗装やうねり路面での上下動はワゴンのほうが明らかに少ない。ただ、後席や荷室の仕立てが簡素になるバンは車重が40~50kg軽いので、今回のような空荷での動力性能はバンのほうが少し小気味いい。
そんななかでも、好印象だったのは静粛性の向上だ。もちろんFFレイアウトの軽乗用車とは比べるべくもなく騒々しいが、今回の改良でルーフ振動を抑制する「ルーフ減衰マスチックシーラー」が追加されたのが効いているようだ。さらに、前に乗ったJリミテッドを含めたバンのフロアがビニールマットなのに対して、ワゴンでは吸音フェルト付きカーペットとなるのも静粛性に差を生んでいる。
こうした乗り心地や静粛性のちがいは、ご想像のとおり、とくに後席で如実だ。エブリイでは価格や装備などを考えても、バンとワゴンで最後まで迷う向きも多いだろうが、少なくとも後席にも大切な人を乗せるなら、エブリイワゴンをオススメする。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)
テスト車のデータ
スズキ・エブリイワゴンPZターボスペシャル ハイルーフ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1910mm
ホイールベース:2430mm
車重:1000kg
駆動方式:MR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
最大トルク:95N・m(9.7kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)165/60R14 75H/(後)165/60R14 75H(ダンロップSPスポーツ230)
燃費:15.1km/リッター(WLTCモード)
価格:211万0900円/テスト車=238万5570円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション<スズキコネクト対応通信機装着車>(20万1300円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(1万9030円)/ドライブレコーダー<3万8940円>/ETC車載器(1万5400円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:164km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:316.1km
使用燃料:21.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.9km/リッター(満タン法)/14.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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