トヨタ・ラウム1.5“Gパッケージ”(FF/4AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ラウム1.5“Gパッケージ”(FF/4AT) 2003.06.06 試乗記 ……215.7万円 総合評価……★★★ 誰にでも優しく使いやすい「ユニバーサルデザイン」を具現化したという新型「ラウム」。還暦を前にしたwebCGエグゼクティブディレクター大川悠による、試乗レポートとユニバーサルデザインに関する考察をお送りする。老いの楽しみ
『webCG』コンテンツエディターのアオダンこと青木禎之君が、例によって無愛想に頼みに来る。「お時間があったら、ラウムに乗って書いていただけませんか?」。一応敬語は使っているけれど、有無をいわせぬムードがある。私は内心で「ラウムかよ。すごくできがいいという評判のXJジャガーか、飛ばして面白そうなBMW「Z4」やフォード「フォーカスST170」あたりなら、よかったのに……」とは思うけれど、それは絶対口にしない。依頼されたからには、時間の余裕がある限り引き受けるのが、立場の上での責任だからだ。
「そう、ラウムね」。アオダンが去ったあと、一度一人で名前を口にしながら、クルマのイメージを浮かべる。その瞬間、彼の魂胆がわかった。「そうか、今度のラウムの売りはユニバーサルデザインだった。チクショー、人を年寄り扱いして」と思ったけれど、こういう風に理解した。「歳をとらなければわからないことがある。経験を積まなければ理解できないことがある。そういう意味で、あえて老兵でなければ、ユニバーサルデザインの価値が分からないだろうと、アオダンは考えてくれたのだな」。
というわけで引き受けたが、それでも内心でなんとなく悔しいから、これをもう一人の家の老兵(つまり妻)とのゴルフの足に使ってみることにした。余談だが、平日のゴルフ場、特に2サムの電動カートによるセルフプレーができるゴルフ場は、場所によっては老人ホーム状態になっている。リタイアしたカップルがマイペースで楽しむ場所なのだ。それはそれで私としては、兼ねてからの主義主張どおり歓迎ではある。
それにこれも我田引水のようで気が引けるが、実はゴルフをはじめて知ったのは、普通のクルマの試乗にゴルフほど適したものはない、ということである。まず荷物の収容が問われる。単なるサイズだけでなく、入れやすさも問題だ。そしてゴルフ場の往復にはあらゆるタイプの道路が組み合わされる。早朝の首都高、高速巡航、小さな街を抜ける道、田舎道、けっこうなワインディングがある山道、そして帰路の渋滞など、まあ試乗場所の幕の内弁当的なものである。
さらに行きはよいよいだが、たいてい帰りは心身ともに疲れているから、シートや乗り心地の善し悪しだけでなく、実際の機械と人間の折り合い……つまりはマン・マシーン・インターフェイスのできが、かなり“自分事”としてわかるようになる。
還暦近いカップルがラウムでゴルフなんて、これからの日本をまさに象徴するようでこそばゆいが、敢えて今回は、公私混同を承知で房総半島の奥まで走らせてみた。
いいクルマだった。トヨタのクルマつくりの確かさに、改めて驚いた。でもユニバーサルという世界は、とても難しいことも知った。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1997年5月に生まれたラウムは、最初からいかに効率よく、快適に人を移動させるかを考えたクルマである。当時のターセル/コルサをベースに、ホイールベースを延ばしながらも全長を詰め、全高は上げて居住空間拡大を優先した。またリア・ドアは両方ともスライド式でウォークスルー機構を持っていた。
今回の2代目は、この初代ではまだなんとなくモヤモヤしていたであろうこのクルマのあるべき姿を、「ユニバーサルデザイン」という言葉を得て、コンセプトを収斂させたものである。
また余談だが、個人的には従来まで日本で使われていた「バリアフリー」という言葉は好きではなく、ずっと「ユニバーサルデザイン」を使っている。前者には何か障害者や老人を健常者とは区別しようというような感じを受ける。バリアという言葉を使うがゆえに、かえって差別を感じ取るのだ。
でも“ユニバーサル”という言葉はもっと大きい。障害者や老人といった社会的弱者だけではなく、老若男女、あるいは体型や性格、さらにはクルマに対する意識から個人の好き嫌いまで、要するにそれを使うであろう人たちに可能な限り受け入れられやすいことを狙っている。スタイルだってその一部であり、少なくとも大半の人に“反感を抱かれないもの”である必要がある。極言すれば、どんな生活信条や、思想や宗教に対しても差別しないのが、本当の意味でのユニバーサルで、それは今の世界では、ちょっと無理に近い。
という難しいことはおいて、新型ラウムはこの思想に対して、企業ができることとして無数の評価基準を設定し、その達成を目標に構成された。
基本的には先代と同じ2ボックス5ドアボディだが、2代目は「ファンカーゴ」をベースとする。ホイールベースは多少短くなったものの、キャビン長は65mm増えた。両側ともにスライド式のリアドアは、左側がセンターピラーを助手席ドアに内蔵した「パノラマ方式」となったことで乗降性を高めているし、モデルによっては電動パワー式にもなる。さらにあらゆるシートアレンジメントが考えられ、様々な使用状況に応じようとしている。基本的にドライバーシート以外の全シートは折り畳み可能だし、オプションでフレンドリーシートと称される回転式シートも設けられる。
加えて、ドアの開閉角度、各スイッチの使い勝手、各所に設けられたアシストグリップ、さらには乗降性とインジケーターの視認性向上のために楕円になったステアリングホイールなど、ともかく使い勝手向上のためのアイディアはなんでも盛り込んでおこうという姿勢である。
エンジンは4気筒DOHCの1.5リッター「1NZ-FE」で、2WDが109ps、4WDは105ps。4段AT「スーパーECT」と組み合わせられる。
(グレード概要)
前述のように、駆動方式には2WDと4WDがあるが、グレードはベース車に加え、ベーシックな“Cパッケージ”と豪華版の“Gパッケージ”、スポーティな“Sパッケージ”からなる。試乗したのはGパッケージに、フレンドリーシート(6.5万円)を装着したクルマ。要するに高齢者や妊婦などの乗降性を考えて、回転式助手席を与えたモデルだ。これにVSC&TRC(8.0万円)などが付いた試乗車は、215.7万円(ベースは161.8万円)となる。
【室内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
誰もが操作しやすいインストルメント、というのがメーカーの謳い。確かに中央に集められたメーター類は見やすいし、視線移動が少ない、エアコンのスイッチなどは大きくて操作しやすいなど、色々考えられている。
とはいえ一部に汎用品を使わなければならない辛さもあって、オプションで付いているG-BOOK対応ナビとオーディオの組み合わせは、こういうハイテクものには比較的強いリポーターも、結構てこずった。
(前席)……★★
ドアヒンジの中心線を傾けることで、やや上の方がより大きく開き、しかも開度が3段階になっているなど細かい配慮があるフロントドア。それを開けてドライバーズシートに座ると、ルーフにアシストグリップが付いているのはありがたい。ヨーロッパ車では小型車でもあたりまえのこのグリップ、国産車の多くは高級クラスでも外してしまう。メーカーの人間に聞くと「だって要らないでしょう」とおっしゃるが、一度腰痛に悩まされた人間なら、乗り降りにどんなに便利かわかるはずだ。そうやってあちこち目を配ると、各所にグリップ類がある。視界はメーカーが説明するように、ドアハンドル部分以外は下げたドアラインゆえに左右や斜め後方はいいが、シートを一番上にしてもノーズの端は見えない。実はこれが大切でもある。
それ以上に困ったのが、フレンドリーなる回転式助手席。隣に座った人間が「どうしても前に行かないし、直立に座らされる」と苦情を呈した。フレンドリーシートは、回転させるために前後移動ができない。さらに、実はゴルフバッグを積むために6:4分割可倒のリアシートの広い方を折り畳んだのだが、畳んだシートの一部が邪魔して、助手席のバックレストもほんの僅かしか動かない。従ってほとんど直立に近く、しかも運転席より後方で我慢しなければならない。高齢者はともかく、妊婦のためなら、もうすこし移動の自由が欲しいし、こういう特殊な装置は一時期だけリースできて、使用期間が終わったら普通のシートに戻せるような、そんなことができないかと思う。ドライバーズシートのつくりもそれほどよくない。特にランバーサポートが不足する。
(後席)……★★★
パノラマドアは、乗り込む人がそのように説明されないと気がつかないものだ。でも、たしかに出入りは楽である。リアのレッグルームはかなり広い。これが新型ラウム最大の価値だろう。ただ、前述のように折り畳もうとしたらかなり力が必要だったし、試乗車を返却するときにどうやっても元通りにならなくて焦った。どうやらきちんと最後まで畳み込まれていなかったのが原因らしい。いずれにしても、慣れないと使いにくい。
(荷室)……★★
メーカーが主張するほど、先代より広がってはいない。もちろんゴルフバッグの2セットはおろか、幅が狭いから1セットでも斜めに立てかけて積むはめになる。ただしその分、リアルームが広がっていると思えば仕方ないだろう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
乗り出して驚いた。1.5リッターとは思えぬほどよく走る。パワフルということではなく、とても気持ちよく、しかもスムーズにまわるし応答する。「スーパーECT」こと4段ATとの相性もすごくいい。120km/hを超える高速でも予想以上に静かで、CDのボリュームをほとんど変える必要がなかった。こういうエンジンフィールこそ“ユニバーサル”だと思う。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
これもかなり評価が高い。試乗車はオプションの15インチではなく、一般的な175/65R14サイズのヨコハマ「ASPEC」だったこともあり、乗り心地はやさしくロードノイズも低い。ステアリングホイールにも、いやな反動が伝わってこない。それでいてこの種のクルマとして要求されるハンドリング水準はもっているし、ブレーキの応答性もかなりよいのだ。さらに、電子デバイスVSCとTRCも備える。最近のトヨタ車の走りは、確かによくなってきた。
【最後に一言】
これだけはいっておきたい。ユニバーサルデザインを実現するために設計者が非常に苦労したのは理解できたが、結局何がユニバーサルなのか、まだ本当の基準づくりができていないように感じた。つまり、本当にあらゆるタイプの人たちに対応しようというのは、実は不可能に近いのだと思う。だとしたら、もうすこし顧客の焦点を絞っていったほうが、より使いやすいものになるのではないだろうか。
一番困ったのが、各部の使い方が複雑なこと。というより、それを説明するマニュアルが読みにくいしわかりにくく、機能をフルに発揮するには、相当な習熟がいる。つまり、コンピューターの説明書みたいなものだ。真のユニバーサルは、こういうところから始まるべきだと思うのだが。
(写真=峰 昌宏)
【テストデータ】
報告者:大川悠
テスト日:2003年5月22日〜23日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:1038km
タイヤ:(前)175/65R14 82S(後)同じ(いずれもヨコハマ ASPEC)
オプション装備:G-BOOK対応DVDボイスナビゲーション付きワイドマルチAVステーション(6.5型液晶ワイドマルチディスプレイ+CD+カセット一体AM/FMマルチ電子チューナー付きラジオ+TV+6スピーカー)+ガラスアンテナ(ダイバシティ&TV用)(29.5万円)/フレンドリーシート(助手席、アームレスト付き)(6.5万円)/VSC&TRC(8.0万円)/ディスチャージヘッドランプ+LED式ストップランプ&LED式ストップランプ式ハイマウントストップランプ(5.4万円)/盗難防止システム(1.5万円)/ボディ色クリームパールマイカ(3.0万円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:453.1km
使用燃料:32.6リッター
参考燃費:13.4km/リッター

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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