三菱eKスポーツR FF(4AT)【試乗記】
何が悲しくて 2002.09.18 試乗記 三菱eKスポーツR FF(4AT) ……126.5万円 「厳格なドイツの基準で……」と、メルセデスクオリティを暗に主張する「三菱eKワゴン」。堅調な売れ行きを見せるハイト軽ワゴンに、64psターボを積んだモデルが登場した。その名も「eKスポーツ」に、自動車ジャーナリストの河村康彦が乗った。「ターボ+4段AT」
三菱久々のヒット作「ekワゴン」に、予想通り(?)ターボ付きモデルが追加された。新登場「eKスポーツR」に搭載されるターボ付きの0.66リッター直3SOHC4バルブユニットは、“スポーツ”を名乗るだけあって、軽自動車の自主規制値上限である最高出力64psを発生。ちなみに、シリーズ中には、内外装をターボモデル同様にドレスアップしながら、ちゃっかりと無過給のエンジンを積みこんだ“なんちゃって”eKスポーツも用意されている。「eKスポーツZ」がそれだ。
eKスポーツの「R」には4段ATが搭載されたが、「Z」のオートマは、デビュー時に確信犯的に採用された、シンプルで低コストが売り物の3速仕様のままだ。
ボディ外板の凸凹をなくす“スムージング”を意識したというドレスアップを行ったエクステリアは、シンプルでクリーン。なかなかセンスが良い。落ち着いたボディカラーを選べば、それなりの大人でも恥ずかしくなく乗れそうなのが、(とっくの昔に“大人”になりきっている……)自分にとって嬉しいポイントだ。
出色のトラクション性能
インテリアで目立つ「スポーツ」の専用アイテムは、7000rpmに引かれたアナログ表示のタコメーターと、大型のデジタルスピードメーターを組み合わせた、センターマウントの「ハイブリッドメーター」だ。動きを読み取りたいタコメーターと、その瞬間のデータを知りたいスピードメーターをそれぞれアナログとデジタルに振り分けたアイディアは秀逸だが、できれば配置を左右逆にしてほしかった。現状だと右側に置かれたタコメーターが、日中でも多少暗くて読み取りにくい。明るく自発光するスピードメーターではこうした問題は発生しないのだから、日中でも外光を取り入れにくいバイザーの深い部分に置かれるメーターはスピードメーターの方がよかったと思う。
FWD(前輪駆動)のターボ付きモデルでテストドライブを行った。たしかに“走り”は威勢がよい。スタートの瞬間から「必要十分」なトルク感を味わわせてくれるエンジンは、そのままアクセル「ON」を継続していくと、3000rpm付近からさらにターボブーストに乗った1段増しのトルクを発しはじめ、800kgと決して軽いとはいえない重量のeKスポーツをグングンと加速させて行く。
「想像以上の出来栄えだナ」と感じのは、そのトラクション能力の高さだ。こうした車高(=重心高)の高い軽ターボFWD車の場合、コーナリングでわずかにでもロールが入ると、荷重が抜けがちな内側前輪がたちまちだらしなくホイールスピンしてしまい、アクセルを踏む意味がなくなってしまうクルマが少なくない。けれども、eKスポーツの場合、ことドライ路面に限ってみれば、いかなるシーンでもトラクション能力はほぼ満足できる水準に達していた。
フと思う
乗り心地は少々揺すられ感が強く、長時間の高速クルージングなどは不得意科目。が、それでも4輪の接地性は、ライバルたちに比べて高い方だ。電動ではなく油圧式のパワステを採用した(衝突時にクラッシャブルゾーンを確保しやすいためだという)ために、ステアリングフィールが常に自然なのも、ライバル各車に対するこのクルマのアドバンテージである。けれども……。
“その気”になって右に左にと続くコーナーをアップテンポで“攻めて”いると、「何が悲しくて、こんな背の高い『箱』でスポーティな走りを追求しなければならないんだろう」と、フと感じてしまう。ここまでの走りをデザインできるポテンシャルがあるならば、ぼくなどは、もっとスポーティなパッケージングに完結させてほしいと思うのだ。
折りしも、今年2002年6月にデビューした「ダイハツ・コペン」がバックオーダーを抱えるなど、“軽スポーツ”がそれなりに話題になっている最中。三菱自動車のなかにも「あんなクルマをやってみたいなァ……」と感じている人は、きっと大勢いるはず、と思いたいのだけれど……。
(文=河村康彦/写真=清水健太/2002年9月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
NEW
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】
2025.11.24試乗記「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。 -
NEW
2025年の一押しはコレ! 清水草一の私的カー・オブ・ザ・イヤー
2025.11.24デイリーコラムこの一年間で発売されたクルマのなかで、われわれが本当に買うべきはどれなのか? 「2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー」の正式発表に先駆けて、清水草一が私的ベストバイを報告する! -
アルファ・ロメオ・ジュニア(後編)
2025.11.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「アルファ・ロメオ・ジュニア」に試乗。前編では内外装のデザインを高く評価した山野だが、気になる走りのジャッジはどうか。ハイブリッドパワートレインやハンドリング性能について詳しく聞いてみた。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.11.22試乗記初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――フォルクスワーゲンID. Buzzプロ編
2025.11.21webCG Moviesフォルクスワーゲンが提案する、ミニバンタイプの電気自動車「ID. Buzz」。“現代のワーゲンバス”たる同モデルを、フォルクスワーゲンをよく知るレーシングドライバー山野哲也はどう評価する? -
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記
2025.11.21エディターから一言アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
































