三菱eKワゴンGS(FF/4AT)/eKスポーツR(FF/4AT)【試乗速報】
デザインよりも、便利が大事 2006.09.27 試乗記 三菱eKワゴンGS(FF/4AT)/eKスポーツR(FF/4AT) ……118万5450円/166万3200円 デザインとエンジンレイアウトで「i」が話題となった三菱の軽自動車だが、量販モデルの「eKシリーズ」はまったく違うアプローチをとる。2代目となった新モデルは、実用性の面で大きな武器を携えて登場した。過剰なデザインはデメリット
「eKワゴン=いい軽ワゴン」ってのはダジャレとしてもどうも……と思っていたが、晴れて2代目が登場したのだからこれも世間に受け入れられたということだろう。それにしても、名前はともかく、形も初代と全然変わっていない。ヒネリも飾りもなく、実直で素っ気ないデザインである。これがあの「i」を作っているメーカーのクルマなのかと目を疑うが、同じ軽自動車といってもまったくカテゴリーが違うのだ。過剰なデザインや気取りはむしろデメリットになるのが実用軽自動車というもの。万人に好まれるシンプルなスタイルがいいのである。
必要なのは、使い勝手の良さと使い倒せる気配りの装備だ。新モデルの目玉は、なんといっても電動スライドドアの採用である。GS、MSの二つのグレードで標準装備となる。ミニバンでは今やごく当たり前になったが、ボンネット型軽自動車では初めてだ。狭い駐車スペースなどでは強い味方になるわけだが、もともとサイズの小さい軽には不可欠とも思えない。でも、一度あのラクな使い心地を経験してしまうと、ヒンジドアには戻れなくなるのはわかる。ファミリー向けのeKワゴンにとっては、商品性に関して大きな意味を持つ装備なのだ。
凝った機構のスライドドア
このスライドドア、なかなか凝った機構が使われている。「インナーレール式」というもので、不思議なことにボディの外に目障りなスライドレールがない。デザインに無頓着なようでいて、こういう仕上げ部分に気を遣うのが日本のクルマ作りの要諦なのだ。ドアの内側に配されたレールを巧みに滑らせて開閉を行い、縦横1005×530ミリの開口部を確保している。軽の小さなボディでこんなことをやってのけることには、素直に感心する。
スライドドアの出始めの頃は、剛性確保にいかに工夫を凝らしたかという苦労話を聞いたものだが、このクルマでは特段そんな話は出なかった。スライドドアは助手席側だけなので、左右のバランスなどにも支障があるのかと思ったのだが、サスペンションのセッティングもヒンジドアのモデルとまったく同じだという。もはやスライドドアはさしたる技術的困難を伴わずに採用できるものになったらしい。
せっかくなら両側ともスライドドアにすればいいのに、と聞いてみたのだが、それほどの需要はないのだそうだ。小さなボディだけに、あえて車道側で子供を乗り降りさせる必要もないわけである。それに、スライドドアの窓ははめ殺しになっており、両側の窓が開かなくなってしまうのは避けたい事態だろうと思う。
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要望が多いのは乗り心地
エンジンは基本的に先代と同じで、特に取り上げるべきポイントはない。トランスミッションはロックアップ機構を取り入れるなどして、燃費向上を図ったという。最近の軽自動車の動力性能には感心するばかりで、このeKワゴンもNAの50psというスペックながらそう不満のない走りを見せる。振動やらノイズやらで不快な思いをするということもない。軽の場合、非力さを回転数で補うためにどうしても加速時にうるさくなるきらいがあるが、eKワゴンは鋭い速さはない代わりに騒音のレベルは抑えられているように感じた。
かわいそうなのは、「i」の乗り心地と比較されてしまうことだ。さすがに、ロングホイールベースから得られる軽らしからぬゆったりとした動きを経験してしまうと、ちょっと物足りないというのが正直な感想だ。しかし、それはないものねだりというもの。ひと昔前を考えると、素晴らしくフラットで快適な乗り心地であるのは確かだ。やはりユーザーからの要望は乗り心地に関するものが多いのだという。かつての「ダンガン」のようなモデルが受け入れられる余地はないのだ。
とはいえ、お約束のスポーツモデルも用意されていて、こちらは「eKスポーツ」を名のる。ターボエンジンを載せて足元を少しだけ固めたモデルである。レカロシートもオプションで装備することができる。内装も、ワゴンがグレートベージュの2トーンになっているのに対し、ブラックで統一されている。乗れば速さは段違いなのは当然のことだが、低回転からターボが利きまくりなのを見ると燃費は心配だ。ワゴンほどの明確なセリングポイントは感じられなかった。
今のところ、ターボとスライドドアを同時に選ぶことはできない。スライドドアは、約20キロの重量増を招く。そして、約10万円の価格上昇もついてくる。これにターボまでというと結構な値段になってしまうわけで、商品力ということでは少々難しそうだ。安価でユーティリティが充実し、便利なスライドドアまである、というのが実用的な軽としての真っ当な道なんだろう。道具として、立派で優秀なクルマであることは間違いない。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=荒川正幸/2006年9月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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