第11戦ハンガリーGP「後半戦に向けた精神戦」【F1 2012 続報】
2012.07.30 自動車ニュース【F1 2012 続報】第11戦ハンガリーGP「後半戦に向けた精神戦」
2012年7月29日、ブダペスト近郊のハンガロリンク・サーキットで行われたF1世界選手権第11戦ハンガリーGP。復調著しいマクラーレンのルイス・ハミルトンが、記念すべきチーム150回目のポールポジションから、ロータス勢を僅差で抑え切り今季2勝目を飾った。1カ月の夏休み前最後のレース、ポイント的に、そして精神的に優位に立って後半戦を迎えられるドライバーは……。
■“持っている”アロンソを中心に
今季のフェルナンド・アロンソは“持っている”。フェラーリ3年目の今年、2005年、2006年以来のタイトル獲得をもくろむスペイン人ドライバーは、必ずしも最速のマシンに恵まれているわけではないが、混戦のシーズンに最多3勝を記録し、シーズン前半戦をポイントリーダーとして終えることができた。
「F2012」のハンドリングに苦しんだシーズン序盤、3月の第2戦マレーシアGPでは、マシンの性能差を縮める雨を味方に8番グリッドからトップでゴールし、まずは1勝。マシンの改善が進んだ6月の第8戦ヨーロッパGPでは、圧倒的な速さでレースをリードしたレッドブルのセバスチャン・ベッテルがメカニカルトラブルでリタイアしたことにより、母国で6年ぶりの勝利。2勝目を記録した。
第9戦イギリスGP、続くドイツGPでは、天候不順の予選で、最適なタイミングで絶妙のタイムをたたき出し、見事2戦連続ポールポジションを決めた。そのポジションを生かし、イギリスでは終盤マーク・ウェバーにリードを明け渡したものの2位、ドイツでは首位のままレースをコントロールし、真っ先にチェッカードフラッグをくぐり抜けた。これで勝率3割だ。
チャンピオンシップでは3レース連続で首位を堅持。ほかに2レース以上その座を守ったドライバーは今年まだいない。シーズンのちょうど真ん中、10戦終了時点でランキング2位のウェバーとの間には34点ものギャップをつくった。大量リードとまではいかないが、1勝=25点であることを考えれば、仮にハンガリーでノーポイントに終わっても1位から落ちることはない。
混戦のシーズンで最後に笑うには、とにかく1点でも多くポイントを稼ぎ、勝つべき時に勝つこと。アロンソは過去22戦で連続得点を続けており、これはミハエル・シューマッハーの持つ最多記録24戦を追い越す勢いである。
かように波に乗り、かつ安定しているアロンソ&フェラーリに待ったをかけたいのが王者レッドブルだ。ヨーロッパGPから見る見る速さを身につけてきたが、しかしレギュレーションにまつわる相次ぐ“疑惑”に対応を迫られている。前戦ドイツGPではレース直前にFIA(国際自動車連盟)からエンジンマッピング違反の嫌疑がかけられた。スチュワードは違法性は認めなかったが、レギュレーションの穴を突いたチームには、ハンガリーGP前にマッピング変更のお達しがきた。
さらにハンガロリンクでは、フロントサスペンションのライドハイト調整が、規定される道具ではなく手動でも可能だということも問題視された。
チャンピオンチームがFIAの“標的”にされている間、起死回生を図りたいマクラーレンは、ドイツで大幅改良の「MP4/27」を投入し、ジェンソン・バトンが2位入賞。着実な前進の手応えをつかんだ。
“持っている”アロンソを中心とした覇権戦いは、ここハンガリーの後に1カ月の夏休みを挟む。サマーブレイク前、アロンソがさらにライバルを突き放すか、それともレッドブル、マクラーレンが迫るのか。はたまた第3の勢力が台頭してくるのか?
シーズン後半へ向けて、誰がポイントのみならず、精神戦で優位に立てるかがこのレースで問われていた。
■マクラーレン150回目のポールポジション
全長が短く、曲がりくねり、抜きにくいとされるハンガロリンクでは、予選の順位が重要だ。イギリス、ドイツと雨がらみだった予選だったが、ハンガリーではドライで行われ、ルイス・ハミルトンが後続に0.4秒もの大差をつけてポールポジションを獲得した。開幕から2戦連続のポールポジションとなった、3月の第2戦マレーシアGP以来となる久々の最前列スタートである。
そしてこれは、1966年から参戦しているマクラーレンにとって、記念すべき150回目のポールポジションとして記録されることとなった。
今季まだ勝利を味わっていないロータス勢は、ロメ・グロジャンが2位、キミ・ライコネン5位とまずまずの位置につけた。ベッテルのレッドブルは3番手タイム。エンジンマッピング変更の影響は否定し、マシンバランスが足を引っ張ったと語った。それでも僚友ウェバーに比べたらいい方で、もう1台のレッドブルはQ3進出ならず、11位からレースを組み立てなければならなくなった。
バトンは4番グリッド。そして“持ってる男”アロンソはポールポジションから1秒近く離され6番手、フェリッペ・マッサ7番手と、フェラーリはドライでは一発の速さがなかった。予選後アロンソは、「雨がなければトップ4がやっとだろう」とライバルとの力量の差を認めた。
スペインGP勝者のパストール・マルドナド8位、ブルーノ・セナは今季最高の予選9位とウィリアムズの2台が続き、トップ10最後にはニコ・ヒュルケンベルグのフォースインディアがつけた。
■ハミルトン対グロジャンの首位攻防
70周が予定されていたハンガリーGPは1周減となった。フォーメーションラップを終え24台がグリッドについたが、17番グリッドのシューマッハーが定位置にマシンを止められず、スタートがやり直しとなったのだ。すぐに2回目のフォーメーションラップへと旅立つマシンの中に、グリッドにとどまり続ける1台。シューマッハーは再スタートの方法を勘違いしエンジンを切ってしまい、ピットに押し戻され、大きく出遅れることになった。
予定より遅れてスタートが切られると、ポールシッターのハミルトンがトップをキープ。その背後では2位グロジャンにベッテルが襲いかかるが抜けず、その隙を突いてバトンがベッテルをオーバーテイクし3位に上がった。
オープニングラップで1.5秒のギャップを築いたハミルトンは、やがて2秒強で安定。2位グロジャンがファステストラップを更新して逃げ切りを許さなかった。一方で3位バトンは追いつけずに離されるばかり。トップ2台がレースの主導権を握ることとなった。
ハミルトン対グロジャンの優勝争いは、最初のピットストップ後の第2スティントでも継続。ピレリのソフトタイヤからミディアムに履き替えたマクラーレンに対し、再びソフトを装着したロータスが最速タイムを更新し猛追を仕掛け、DRSが使える1秒内での攻防戦にもつれ込んだ。
■気がつけば、2位ライコネン
この間、やや距離を置いた位置からこっそりと(?)上位進出を果たすドライバーがいた。グロジャンのチームメイト、ロータスのライコネンである。
予選5位のライコネンは、スタートで1つポジションを落とし6位を走行していたが、21周目に最初のタイヤ交換を済ますと、アロンソを抜き5位に。その後46周目までの長い第2スティントでの好走が奏功し、最後のピットストップからコースに復帰すると、グロジャンとのホイール・トゥ・ホイール状態を制し2位にジャンプアップを果たした。
今度は2007年チャンピオンを相手にすることとなったハミルトン。47周で4.4秒あった“クッション”は53周でDRSが使える1秒を切る。それでも、グロジャンの時と同様にハミルトンは真後ろのライバルに合わせてレースをコントロールした。チェッカードフラッグが振られた時、マクラーレンとロータスの間には1秒の差。挑戦者としてのロータスは、どうしてもこの壁を越えられなかった。
復帰後初、自身通算19勝目が遠いライコネンは、なかなか勝てない理由として予選でのパフォーマンス不足をあげた。一方で優勝したハミルトンは、「(ロータスの面々は)速かった」とした上で、「彼らが予選で前にいたら、抜くのは難しかっただろう」とライバルの力量を認めた。
■5位でも広がるアロンソのリード
ポイントリーダーのアロンソはといえば、極めて苦しい戦いをしいられた。6番グリッドからスタートで5位に上がるも、ピットストップでライコネンに先行を許し、脱落したバトンのおかげもあって最終的には5位でゴールできたが、トップからは26秒、4位ベッテルとの間には15秒もの溝ができていた。
それでも、選手権2位のウェバーが8位に終わったことで、ポイント差は34点から40点にまで広げることができた。ウェバーは予選11位からスタートで7位に躍進し、2度目のタイヤ交換を済ませた後はアロンソの前、5位を走っていた。このままでは34点の貯金が2点減るところだったが、レッドブルのディファレンシャルが不調となったことでウェバーは3度目のタイヤ交換を余儀なくされ、コース上で勝負することなく、フェラーリのエースに追加の6点が転がり込んできたというわけだ。
「土曜も日曜も、金曜だってフェラーリは速くなかった。それでもわれわれのメインライバルより前で終えられたのだから、また予想以上にいい日曜だったということだよ」とはレース後のアロンソの弁。40点がもたらす心理的なゆとりをもって、アロンソは9月からの残り9戦を迎えることになる。やはり今年のアロンソは“持っている”のかもしれない。
F1はつかの間の休暇に入った。次のベルギーGPは9月2日に行われる。
(文=bg)
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