トヨタ・マークIIブリット 2.5iR-S(5AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・マークII ブリット 2.5iR-S(5AT) 2002.03.27 試乗記 ……353.3万円 総合評価……★★和製ポップス
1980年代に一世を風靡したハイソカー(死語?)「マークII」は、今はやや保守的で大人びたセダン。ウィンダムのような帰国子女に比べると、何となく“ニッポン生粋”という感じを依然として持っているが、セダンそのもののバランスは悪くない。
一方これのワゴン版には別の歴史がある。
先代のマークIIには、元々ワゴンは存在しなかったのだが、国内のブームに載せるべく急遽ラインに加えられた。ただしその時は、トヨタは慎重に構えて新設計せずに、アメリカで売っているカムリワゴンを(日本のカムリグラシアの兄弟)、化粧替えしてマークIIワゴン「クオリス」としていた。だからマークIIの名前こそ付いていたものの、これはハイソカーの記号たる「エフアール」ではなく、カムリベースの前輪駆動だった。
そんな経緯を経て生まれたのが新型ブリット。今回はゼロから設計され、マークIIセダンをベースにFR(後輪駆動)レイアウトをとる。アリスト的な面構えやボートキャビン風Cピラーなど、60年代のアメリカンワゴンを思わす大胆な格好だが、前フェンダーから後ろへ立ち上がっていくショルダーラインが示すように、4枚のドアはセダンと共通だ。というより、それしか共通箇所はなく、まったく違ったクルマに見せている。
ややおとなしく控えめのセダンに対して、不敵な表情を持つこのブリット。メーカーでは「走りが魅力の高級ツーリングワゴン」と称するように、スポーティ感覚が売りだ。
とはいえ、これは完全にお家の事情でできたクルマ。先代のクオリスは、アメリカ帰りを化粧直ししてしのごうとしたが、今回はもうSUV大国では無理だから、ニッポン専用にしようとして開発された。だから、あくまでもドメ専用。昔のマークIIのような演歌調こそ消えたが、何となくソルトレークシティの日本人応援団的な雰囲気に溢れている。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
前述のように、今回こそセダンをベースにそのままFRで作られたワゴン。巧みなデザイントリックによって4枚ドアを共用しながらも、セダンとはまったく違ったイメージを演出する。BLITはドイツ語のBLITZ(稲妻)をモディファイした造語というが、オペルが日本で定期刊行する雑誌と同じ名前で、何となくそれを思い出させる。
「走り」が狙いだから、セダンと同じく頂点には2.5リッターターボもラインナップ。高圧ガス封入の液体と気体を分離した、ジマンのセルフレベリングサスペンション、前後とも専用チューンのダブルウィッシュボーン式サスペンションなど、走り屋向けのスペックに溢れる。
IT対応も進んでおり、ナビゲーションからの前方コーナー情報やアクセル開度、車速から道路情報を掴んでシフトを制御する「NAVI AI SHIFT」が用意される。
(グレード概要)
FRと書いてきたが4WDも用意され、前者には2リッターの1G-FEと2.5リッター直噴の1JZ-FSE、2.5リッターターボのGTEが用意される。4WDにはターボも直噴も用意されず、2リッターと(直噴ではない)2.5リッターの2種。もちろんマークIIだから、すべて伝統の「ストレートシックス」である。5段ATの「5Super ECT」は、「iR-S」と呼ばれる2.5直噴モデルにだけ設けられる。
高齢者や身障者の乗り降りを簡便にしたウェエルキャブ仕様も用意され、これは設備やエンジンによって合計10種にもなる。やっぱりトヨタはモデル揃えに対して手を抜かない。
価格は228.0万円から339.0万円まで。
【車内&荷室空間】 乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
どうも最近のトヨタの室内はピンと来ない。確かに装備はすごく揃っているし、仕上げはいい。ドイツ車よりもずっと質感がいい。もの入れもフィッシングベストのようにあちこち用意されている。でもデザインが妙に曖昧なのだ。つまり近代主義でも機能主義でもなければ、様式で演出するわけでもない。乗っていて、あるいは操作していてうれしいという感じがしないのは、リポーターの個人的感想ではないと思う。
(前席)……★★
布張り内装のモデルだったが、シートといいドア内張といい、グレーのちぢみの風呂敷のようなファブリックがどうしても馴染めない。それにシートを身体に合わせると、ステアリングホイールが妙に高い。急角度に伸縮するだけだから、手前に寄せれば寄せるほど高くなって、それだけで疲れてくる。前席空間は広いが、シートクッションの面圧分布はあまり良くないようで、無理な姿勢と相まって、持病の腰痛が出た。それと大胆なCピラーに阻まれて、斜め後ろの視界がかなり損なわれる。
(後席)……★★
広いのは認める。でも以前のメルセデスのワゴンのようにバックレストが平板、クッションも比較的しんなりと受け止めてくれないから、年老いた両親を乗せるのはちょっと気が引ける。
(荷室)……★★★
多少リアのホイールアーチに邪魔されているが、基本的に広いし、何よりもトヨタらしくあちこちが巧妙に作られている。仕上げのいいスライド式トノーカバーは車上荒らしが多い昨今では必需だし、床下収納は最近のマンションの収納スペースのように丁寧に考えてある。ただFRゆえか床そのものがやや高すぎる。バンパーからフラットなのはいいが、バンパーも含めた開口部ごと、もう少し下げてもらえると、随分楽になる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
ストレートシックスはやっぱり気分がいい。スムーズだしトルクはあるし、しかもATは賢い。ただし最近のトヨタの悪弊で(以前より多少良くなったが)、どうしてもアクセルを開いた瞬間にガパッと出たがる。ブレーキの応答も似ていて、何となくデジタル感覚の運転になりがち。しかも大型バンパーやサイドガード、リアバンパースポイラーなどのエアロパーツがオプションで付いていたから、よそさまには乱暴に見られたろう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
良くも悪くもオプション設定のタイヤ、215/45ZR17(標準は205/55-16)によって影響を受けている。基本的にボディがしっかりしているし、サスペンションもかなり出来がいいから乗り心地は悪くないはずだが、それでもちょっとドタバタした感じはぬぐえない。ただし目地段差の乗り超えは得意種目で、都内で乗っている分には不満はないだろう。ステアリングは、切り始めに妙に不自然な感じがつきまとう。タイアに助けられて飛ばせるが、それが裏目に出て、ちょっと速度を上げると、突如姿勢変化を示すことがあるから、冬は注意した方がいい。
(写真=望月浩彦)
【テストデータ】
報告者:webCG大川悠
テスト日:2002年2月20〜21日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:2652km
タイヤ:(前)215/45ZR17(後)同じ
オプション装備:215/45ZR17タイヤ+17X7JJスーパークロームメタリックアルミホイール(3.6万円)/クルーズコントロール(2.6万円)/VSC+TRC(8.0万円)/SRSサイド&カーテンエアバッグ(8.0万円)/DVDボイスナビゲーション(AI-SHIFT付き)+TV+EMV(エレクトロマルチビジョン)(27.0万円)/インダッシュCDチェンジャー+MD一体AM/FM電子チューナー付きラジオ+6スピーカー(4.2万円)/ADVANCED SPORTS PACKAGE(カラードグリル+フロントスポイラー+サイドマッドガード+リヤバンパースポイラー)(11.9万円、工賃別)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(5):山岳路(3)
テスト距離:380.3km
使用燃料:51.3リッター
参考燃費:7.4km/リッター

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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