アウディR18 e-tron、2012年のルマンを制す
2012.06.18 自動車ニュースアウディR18 e-tron、2012年のルマンを制す
「レースは終わるまで何が起こるかわからない。特にルマンはそうだね」
ルマンの魅力や怖さ、そして奥深さを知り尽くしたドライバーから発する言葉には重みがある。今年のルマンも、当たり前のことをやり続けることの難しさが感じられるレースだった。
80回目を迎えるルマン24時間耐久レースの決勝は、2012年6月16〜17日、フランスのサルトサーキットで開催された。優勝は、No.1 アウディR18 e-tron クワトロ(A.ロッテラー/M.フェスラー/B.トレルイエ組)。レースのほとんどを首位で走行し、手堅いレース運びで勝利を手にした。
■今年のルマンは“ハイブリッド対決”
昨年まで続いた「アウディ対プジョー」のディーゼルエンジン対決から一転、今年のルマン24時間耐久レースは常勝アウディがディーゼルハイブリッドシステム搭載のマシンを投入。それに対抗するかのように、トヨタが歴史ある耐久レース参戦に名乗りを上げた。トヨタのルマン参戦は13年ぶり。そのマシンは、アウディと同じくハイブリッドカーだった。
ディーゼルエンジンのライバルに対し、トヨタはガソリンエンジンがベース。そもそも開発時間が短かったことに加え、テストではマシンを大破させ、ルマンの前哨戦とされるスパ6時間レースをキャンセル。2台体制での参戦を発表しながら、そのうち1台はルマンでのテストデイ直前になってようやく完成するという、苦しい準備期間を経て本番を迎えた。
今年のルマンは、例年に比べて格段に寒く、落ち着かない天候の中で始まった。予選初日から存在感をしっかりとアピールしたのはディフェンディングチャンピオンのNo.1 アウディR18 e-tron クワトロ(A.ロッテラー/M.フェスラー/B.トレルイエ組)。予選2日目の第1セッションではハイブリッドではないディーゼルエンジン車のNo.3 アウディR18 ウルトラ(M.ジェネ/R.デュマ/L.デュバル組)にトップの座を譲ったものの、最後のセッションではロッテラーが昨年のベストタイムを2秒近く更新する活躍を見せ、ルマンで初めて、ハイブリッドカーがポールポジションを獲得することになった。
一方のトヨタも気を吐いた。ストレートのスピードではアウディのマシンを上回るなど、存在感をしっかりとアピール。それでも、王者アウディを組み伏せるには至らず、No.8 トヨタTS030 ハイブリッド(A.デイビッドソン/S.ブエミ/S.サラザン組)は、2台のアウディに続くにとどまった。
予選総合トップ6
1.No.1 アウディR18 e-tron クワトロ(A.ロッテラー/M.フェスラー/B.トレルイエ組)3分23秒787
2.No.3 アウディR18 ウルトラ(M.ジェネ/R.デュマ/L.デュバル組)3分24秒078
3.No.8 トヨタTS030 ハイブリッド(A.デイビッドソン/S.ブエミ/S.サラザン組)3分24秒842
4.No.2 アウディR18 e-tron クワトロ(A.マクニッシュ/R.カペロ/T.クリステンセン組)3分25秒433
5.No.7 トヨタTS030 ハイブリッド(A.ブルツ/N.ラピエール/中嶋一貴組)3分25秒488
6.No.4 アウディR18 ウルトラ(O.ジャービス/M.ボナノミ/M.ロッケンフェラー組)3分26秒420
■最後は王者の貫禄
決勝当日、朝から冷たい雨に見舞われたルマンだったが、午後3時からの決勝を前に天候は回復。日も差し込む中でスタートを迎えた。
レース序盤はさほど大きな混乱もなく消化され、逃げの姿勢で快調に周回を重ねるアウディ勢に対し、トヨタの2台も順調な滑り出しを見せる。3時間が経過した午後6時にはトヨタの2台が2位と3位に浮上。ルマンの王者アウディに対し、奮闘を見せた。
午後8時前には、ルーティンワークでピットインした1号車アウディに変わって7号車トヨタがトップに浮上。ピットロードからコースに復帰した1号車と抜きつ抜かれつの攻防戦を展開した。しかし、それも長くは続かなかった。
7号車のトヨタがトップ争いをしている最中、もう1台の8号車が周回遅れのフェラーリを抜く際に接触。2台そろって宙を舞い、タイヤバリアーに突き刺さるという大惨事を引き起こした。これにより、レースはセーフティーカーが介入。1時間後にようやく再開したのだが、7号車は、ステアリングを握っていた中嶋一貴の気合が入りすぎたか、周回遅れの車両と接触してしまう。
クラッシュさせた相手であるNo.0 日産デルタウイング(本山哲)は、次世代技術を有するものとして、賞典外の特別枠(ガレージ56)から参戦していたマシン。少々後味の悪い結果となってしまった。
結局7号車は自力でピットへと戻ることができたものの、その後も立て続けに車両トラブルが発生。午前1時38分にはエンジントラブルが発生し、戦線離脱となった。予選でチームベストをマークした中嶋は、ACOからルーキー・オブ・ザ・イヤーを授与されただけに、悔やまれるレースになったことだろう。
新たなチャレンジャーであるトヨタが去った後のレースは、アウディ勢の独壇場に。それでも、決してトラブルフリーとはいかなかった。1号車は車速の遅いクルマを避けようとしてオーバーラン。ピットでの修復を余儀なくされた。その後方で周回を重ねていた2号車も同様に、クラス違いの車両とクラッシュ。戦線復帰はできたが、自力優勝のチャンスを失った。
速さや強さを備えていても、その力を的確に発揮できなければ意味がない。24時間を戦うルマンでは、それが顕著に表れる。
レースはアウディのハイブリッドカーによる1−2フィニッシュ。3位にはディーゼルの4号車が入り、アウディが表彰台を独占したが、今年のトヨタのようなライバルが現れ、結果を見せるようになるならば、ルマン24時間は、モータースポーツとしての魅力をますますアピールできるレースになるだろう。
総合結果(トップ6)
1.No. 1 アウディR18 e-tron クワトロ(A.ロッテラー/M.フェスラー/B.トレルイエ組)378周
2.No. 2 アウディR18 e-tron クワトロ(A.マクニッシュ/R.カペロ/T.クリステンセン組)377周
3.No. 4 アウディR18 ウルトラ(O.ジャービス/M.ボナノミ/M.ロッケンフェラー組)375周
4.No.12 ローラB12/60クーペ トヨタ(N.プロスト/N.ジャニ/N.ハイドフェルド組)367周
5.No. 3 アウディR18 ウルトラ(M.ジェネ/R.デュマ/L.デュバル組)366周
6.No.22 HPD ARX-03a ホンダ(D.ブラバム/K.チャンドック/P.ダンブレック組)357周
クラス別トップ
・LMP1クラス:No.1 アウディR18 e-tron クワトロ(A.ロッテラー/M.フェスラー/B.トレルイエ組)378周
・LMP2クラス:No.44 HPD ARX 03b ホンダ(V.ポトリッチオ/R.ダルジエル/T.キンバースミス組)354周
・LMGTEProクラス:No.51 フェラーリ458イタリア(G.フィジケラ/G.ブルーニ/T.ヴィランダー組)336周
・LMGTEAmクラス:No.50 シボレー・コルベットC6 ZR1(B.ボーンハウザー/J.カナル/P.ラミー組)329周
(文=島村元子/text=Motoko Shimamura)
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