第3戦中国GP「タイヤが支配する週末」【F1 2013 続報】
2013.04.15 自動車ニュース【F1 2013 続報】第3戦中国GP「タイヤが支配する週末」
2013年4月14日、中国の上海インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第3戦中国GP。3週間のインターバルがあったものの、第2戦マレーシアGPでのレッドブルのチームオーダー問題はこのウイークエンドにも尾を引いていた。しかしひとたびコースにマシンが散らばれば、やはりそこはいつもの戦場と化し、タイヤを巡る熾烈(しれつ)な駆け引きが繰り広げられた。
■レッドブル「マルチ21」の余波
マレーシアGPから3週間をあけて迎えた中国GPは、前戦に勃発(ぼっぱつ)したチームオーダーを巡るレッドブルの“騒動”に注目が集まった。
マレーシアでは、ポールシッターのセバスチャン・ベッテルからマーク・ウェバーがトップの座を奪うことに成功。1-2編隊のレッドブルは、レース終盤に向けて両車のタイヤやマシンを温存するクルージングの指示を両ドライバーに出していたのだが、ベッテルはそれを無視してコース上でチームメイトをぶち抜き、今季初勝利を手に入れた。
表彰式前、2位に甘んじたウェバーが怒りを抑えて発した言葉が「マルチ21」。後に「カーナンバー2(ウェバー)が前、同1(ベッテル)は後ろでポジションキープ」というコードであることが明かされたのだが、ウェバーに加えてチーム首脳もこのチームオーダーを破ったベッテルを非難する立場を取り、チャンピオンはレース後に謝罪することとなった。
あれから3週間、チーム内では既に決着がついていた話だったとしても、この混乱を“パドックすずめ”たちが放っておくはずはない。なぜならレッドブルとベッテルは、3年連続、合計6個ものタイトルを独り占めにしている王者。さらに25歳の最年少チャンプであるベッテルと、現役最年長36歳のウェバー、5年目のこのコンビは何かと“いわく付き”の仲でもあったのだ。
2010年第7戦トルコGPで見られた、トップ争い中の同士打ちは、二人の間の緊張関係が一気に顕在化した事件だった。さらに同年第10戦イギリスGPでも、新型ウイングをウェバーからベッテルに“付け替えた”ことでギクシャクし、2011年イギリスGPではウェバーが無線無視でベッテルを追い回したりもした。
またベッテルを育てたレッドブルのアドバイザー、ヘルムート・マルコが時としてあからさまに“息子”の肩を持ちウェバーを批判することもあれば、39歳とまだ若いチーム代表のクリスチャン・ホーナーについて、今回の件で統率力の不足を指摘する声も聞こえてきた。2005年にデビューした気鋭のチャンピオンチームであるレッドブル。成功の一方で、面従腹背の側面が見え隠れしているのも事実なのである。
数々の質問が彼らに投げかけられたが、レッドブルもベッテル、ウェバーも、「マルチ21」を過去のこととして、とっとと片付けたいはず。何しろシーズンは始まったばかりで、チームの内紛にかまけているうちにライバルに先を越されたら元も子もないのだ。
実際、2009年にベッテルがポール・トゥ・ウィンでチームに初優勝をもたらしたげんのいいサーキット、上海では、難しいタイヤ戦略と、フェラーリ、メルセデスらの攻勢という難関が立ちはだかっていた。
■ハミルトン、メルセデス移籍後初のポールポジション
この週末ピレリが持ち込んだタイヤはミディアムとソフト。特にソフトタイヤは一発の速さこそ期待できるものの極端に持ちが悪く、予選では決勝を見越して、このソフトタイヤをいかに使うかということに各陣営が腐心した。
1年前の上海では、メルセデスのニコ・ロズベルグが初優勝したが、今年のフリー走行、そして予選でもメルセデス勢は好調だった。Q1、Q2、Q3とハミルトンが最速タイムを記録、2008年チャンピオンはメルセデス移籍後初のポールポジションを3戦目で獲得した。
開幕戦勝者、ロータスのキミ・ライコネンが予選2位、過去4戦の予選でチームメイトのフェリッペ・マッサに負けていたフェラーリのフェルナンド・アロンソが3番グリッドにつけた。ロズベルグ、マッサと続き、ロータスのロメ・グロジャン6番手、トロロッソで健闘したダニエル・リチャルドは7番グリッドを得た。
8位につけたマクラーレンのジェンソン・バトン、9位のベッテル、10位のザウバー駆るニコ・ヒュルケンベルグは、いずれもレースを最優先し予選で妥協したグループ。バトンは、安定したミディアムでスタートすることを選びスローなラップで計時、ベッテルとヒュルケンベルグはアタックすらしなかった。
渦中のレッドブル、ウェバーはといえば、Q2走行中ガス欠でコース脇にストップ、14番手でセッション終了。さらに規定の燃料1リッターをサンプルとして提出できなかったとして予選失格が言い渡され、最後尾からレースを始めなければならなくなった。
■ソフトタイヤ、たった数周で寿命
上位7台がほんの数周でデグラデーション(タレ)が起きるソフトタイヤを履き、その真後ろには長持ちミディアムでスタートするマシンが3台 ── レースはタイヤ戦略を異にするドライバーによる興味深い戦いとなったが、結果的には、ソフト・スタート組が表彰台を独占することとなった。
スタートでトップを守ったハミルトンの後ろには、鈍い滑り出しのライコネンを早々に抜いて、抜群の蹴り出しをみせたフェラーリの2台、アロンソとマッサ。ライコネンは4位に落ち、5位ロズベルグ、6位グロジャン、7位リチャルド、8位バトン、9位ベッテル、10位ヒュルケンベルグというトップ10で、56周レースのオープニングラップを終えた。
最後尾のウェバーはピットスタートを選択、1周でソフトを捨て追い上げを狙ったが、15周目、トロロッソのジャン=エリック・ベルニュと接触、翌周ダメージ修復とタイヤ交換のためピットに飛び込んだが、コースに出るとホイールが外れてしまいリタイアとなった。
首位ハミルトンは4周目、ペースが一気に鈍化。早くもソフトタイヤが限界に達しており、翌周アロンソとマッサに相次いでオーバーテイクされ、ピットに飛び込むこととなった。アロンソ、ライコネンも次のラップ、マッサも7周目を終えてソフトからミディアムにスイッチした。
これでトップに立ったヒュルケンベルグ、2位ベッテル、3位バトンはミディアムで好調なペースを刻んだが、とはいえ彼らも1回は超短寿命のソフトを履かなければならない。ベッテルはこの時点でヒュルケンベルグに鼻っ面をおさえられタイムを失ったとレース後に語っている。
■3戦して3人目のウィナー
“ソフト組”と“ミディアム組”がパラレルでそれぞれのレースフェーズを迎えるなか、ソフトからミディアムに変えたアロンソのペースは群を抜き、ミディアム勢のみならず同じ作戦をとった他のソフトスターターにも勝っていた。
41周を過ぎ、アロンソが3度目にして最後のピットストップを終えると、もう1回タイヤ交換をしなければならないベッテルの後ろでコースに復帰。次のラップでフレッシュタイヤのフェラーリがレッドブルを軽々と追い抜いてしまうと、もう勝者は決まったようなものだった。
2位に落ちた“ミディアム組”のベッテルは、アロンソから置いていかれるばかり。残り5周でソフトに換装した時には順位は4位まで下がったが、ニューソフトタイヤゆえの別格の速さで、“ソフト組”の2位ライコネン、3位ハミルトンを最後まで追いつめ、ハミルトンに0.2秒差まで詰め寄ってチェッカードフラッグを受けた。
アロンソとフェラーリは今季初、2005-2006年チャンピオンは自身通算31回目、そして実に昨年夏の第10戦ドイツGP以来となる久々の勝利の美酒を味わった。
2位ライコネンに10秒という大差をつけての圧勝だったが、今後のシーズンの見通しについては浮かれた調子は感じられなかった。「まだ時期が早すぎる。真のタイトル挑戦者がわかるには、夏以降を待たないと」。
開幕戦でロータス&ライコネン、第2戦はレッドブル&ベッテル、そして今回フェラーリとアロンソがレースを支配した。最初の7戦で7人の勝者が生まれた昨年同様、混戦模様の2013年シーズンとなるが、真にレースを支配しているのはどこかのチームでもドライバーでもなく、タイヤであるということも、昨季と変わっていない。
バック・トゥ・バックで迎える次戦はバーレーンGP。決勝は4月21日に行われる。
(文=bg)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
-
NEW
トライアンフ・トライデント660
2021.1.25画像・写真トライアンフの新型モーターサイクル「トライデント660」が、東京・渋谷の「代官山 蔦屋書店」に展示された。新開発の水冷3気筒エンジンを搭載した、軽快なミドルクラス・ネイキッドモデルの詳細な姿を、写真で紹介する。 -
NEW
月に1度の特別なメールマガジン『月刊webCG通信』 EVは選べる時代! あなたのチョイスは?
2021.1.25From Our StaffwebCG執筆陣によるコラムや月間アクセスランキング、読者アンケートなど、さまざまなコンテンツを通して自動車業界の1カ月を振り返る『月刊webCG通信』。2月号では、ついに“選べる時代”を迎えた電気自動車について、読者の皆さまのご意見を大募集いたします! -
NEW
コロナ禍が売れるクルマを変えた? 自動車市場の2020年を販売データから振り返る
2021.1.25デイリーコラム日本全国が新型コロナウイルス感染症の猛威にさらされた2020年。この年は、自動車市場にとってどのような一年となったのか? 各団体が発表した統計データから振り返るとともに、コロナ禍がもたらした自動車ユーザーの嗜好の変化を考察した。 -
NEW
スバルXVアドバンス(4WD/CVT)【試乗記】
2021.1.25試乗記フルモデルチェンジから3年を経て、再びの改良を受けた「スバルXV」。国内外の有力モデルがひしめくコンパクトSUV市場において、XVだけが持つライバルにはない魅力とは? わが道を行くスバル製クロスオーバーの、唯一無二の個性に触れた。 -
ロータス・エキシージ スポーツ410(前編)
2021.1.24池沢早人師の恋するニューモデル漫画『サーキットの狼』の作者、池沢早人師が今回ステアリングを握るのは「ロータス・エキシージ スポーツ410」。劇中で主人公・風吹裕矢の愛車として活躍した「ロータス・ヨーロッパ」のDNAを受け継ぐ、軽量ミドシップスポーツの走りとは? -
ホンダe(RWD)【試乗記】
2021.1.23試乗記「ホンダe」が素晴らしいのは運転してワクワクできるところだ。航続可能距離の短さがデメリットのようにいわれているけれど、それこそがホンダeの持つ強みだ……と筆者は主張するのだった。