第4回:華麗なる賭け? 肝っ玉マツダ山内社長の
スカイアクティブ“2%戦略”の覚悟を直撃する!
2013.05.17
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
“ケツ持ち”してくれる今どき珍しいトップ
不肖小沢、ずーっと気になっておりました。それは今や絶好調! のマツダ・スカイアクティブ戦略の後押し、いや“ケツ持ち”をしてくれた偉大なるトップについてだ。
というのも先日新型「アテンザ」が出た時に、チーフエンジニアの梶山浩さんは言ってたんですな。いわく「トップが好き勝手にやれと後押ししてくれた」「開発資金を集めてくれた」。さらに時折出てくるユニークな「2%の戦略」について。
これは今の「数の論理」に逆行するコンセプトで、現在の年間世界市場を約8000万台とすると2%は160~200万台。翻ってマツダは現在約120万台で「われわれはそこを狙えばいい」と。いたずらに300万台、400万台と追わずに、思い切って個性&クオリティー重視でいけと。この時代、なかなかそんなの言えないわけですよ。利益率絶大なフェラーリ、ポルシェじゃあるまいし。
しかし、マツダは現実にマツダらしさや日本らしさ重視にかじを切り、スカイアクティブをモノにした。そのサムライなコンセプトをなぜに推進する気になれたかをお聞きしたかったわけです。したら先日の上海ショーで偶然、梶山さんと山内社長に遭遇。20分間だけど直撃できたってわけ!
小沢:いきなり申し訳ないですが、以前、梶山さんに聞いて驚いたんです。この時代、なぜスカイアクティブにこれほど注力できたのかと。なぜに多額の投資ができたのかと。
山内:ラクじゃなかったですね。今から3~4年前の2009年、リーマンショックの影響で、あれほど状況がひどく、誰もお金を出す人がいない中、「こんな時期だからこそわれわれにはスカイアクティブ技術がある」「われわれはこれで勝負するから、マツダブランドを立てるから、賛同できたら株を買ってちょうだい」とビデオテープ作って、じかに証券マンの間を回りましたから。
小沢:社長自ら営業マンになって資金集めをしたと。でも、なぜそんなことに踏み切れたんですか。そもそも圧縮比14:1のガソリンエンジンってウソみたいな話じゃないですか?
山内:それはもうわれわれは一心同体だから。昨日だってこの梶山と直接上海の居酒屋で飲んでたくらい(笑)。
梶山:確かにそうかもしれない。だって僕と山内さんの間には何人っていませんもん。20人ぐらいおられる会社もありますけど。
生き残るにはスカイアクティブしかない!
山内:それはさておきリーマンショックでは、世界レベルの大手が倒れたわけですよ。それも2つも(GMとクライスラーの破産法申請を指す)。それだけの経済変動が起こり、世界が変わったわけです。その中でわれわれは残念ながら手が打ててなかった部分があった。輸出比率が高くて為替(の変動)に弱いとか、先進国中心で頑張ってきたのに、伸びたのはほぼ新興国だったとか。もう一つは、環境技術革命です。つまり為替円高対策と新興国対策と環境技術、この3つを同時にやらなければいけない。しかも一歩間違えれば会社がなくなる時代の中、生き残るためには、環境技術はスカイアクティブ一本しかなかった。われわれにはそれしかなかったんだから。
小沢:とにかくヤルしかなかったと。
山内:そうです。新興国対策には工場を作るしかない。為替円高リスクにはモノ作り革新で、1ドル77円でも利益が出る構造にするしかない。為替は一企業でコントロールできないし、われわれはこの4年間泣いたから。もう為替では泣かないと。そういう構造にしたいというのが、われわれの目標です。その3つをいっぺんにやっていくんだから大変なんです。カネがあってもいくらあっても足りない。しかも、そのカネを全部こっちに(梶山さんを見て)つぎ込んだわけで(笑)。
小沢:最近よく韓国企業が判断が速くて投資がすごいっていうじゃないですか。比べると日本企業は保守的なっていうイメージがあった。でも、今回は負けないぐらい頑張ったっていうか、博打(ばくち)を打ったんですね?
山内:そうです、その通りです。経営はある意味、賭けなきゃいけませんから。余裕がない分、開き直れたのかもしれません。
リスクが取れなければ勝負にならない
小沢:ある意味、リーマンショックは追い風になった?
山内:リーマンショックで手を打ったのは、構造改革の中でも先の2つですよ。新興国対策と為替円高対策。今もメキシコに工場造ってるし、ロシア工場はもうできました。
小沢:なるほど。
山内:一方、環境技術は、リーマンショックが起こったからではありません。着手したのは2006年、フォードの子会社の時。その時にフォードとは違う道を歩むと決めて、「マツダブランドが光り輝くためにはこれしかない」と彼らが発意して経営陣を動かしたんです。
梶山:彼らというのは、開発の藤原さんとか人見さんですね。
山内:フォード傘下にあっても、消えないブランド価値であり、マツダ独特のものはなんだろうか? という自らへの問いかけですよ。傘下だろうが、独立してようが、企業価値が上がらなければブランドは消えてしまう。しかし、消すわけにはいかない。われわれには創業者の魂が残っているからね。その時にみんなが発意してできたのがスカイアクティブ技術なんです。
小沢:実際、今のマツダって妙にステキなんです。なにかとグローバル化グローバル化で日本らしさを捨てていく中、家族的で独自の物作りをしつつもグローバルにも対応しつつあるという。結構オイシイとこ取りができてる気がしますが。
山内:日本の企業ですからね。アイデンティティーはしっかりしたいと思っています。みなさんも内心は「日本に残したい」と思いつつ実態は難しい。われわれも、日本に過度にこだわるわけにはいきませんが、日本が持っている技術とか、技術から生まれるチームワークとか、いいところが沢山ありますし、それは最後に、日本の信頼につながっていきますから。
小沢:しかし例の“2%の戦略”には驚きました。世界で2%だけ受ければいい! 後は個性に走れ! ってなかなか言えません。
山内:グローバル2%だからこそ思い切ったことが出来るし、2%だからこそ他社と同じ事はできないという面もあるんです。
小沢:その2%作戦って、山内社長が考えたんですよね?
山内:ウチはみんな同じ事言ってますから。金太郎飴ですからねみんな(笑)。
ってな具合に決死の覚悟を語っていただいた山内社長。今後は会長となり、小飼雅道専務が社長を務めるわけだけど、その2%の戦略は変わらないもよう。要するに経営とは博打であり、よくいわれる「自動車づくりは偉大なる水商売である」というセリフはやはり真実なのだ。
というか、ある意味、経営陣が賭けるのは当たり前。リスクと努力とアイデアのないところに利益も成功もない。それは個人レベルでも、会社レベルでも同じなのだ。当然、ライターレベルでもね(笑)。
しかし、なんだかんだでトップが1000万台レベルになりつつある自動車ビジネス。果たしてマツダが作る2%の個性がどこまで受け入れられるか? そこは今後もマジメに注目なのであーる。
(文=小沢コージ/写真=小沢コージ、マツダ、webCG)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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