第47回:都庁の担当者を質問攻め! フォーミュラEができたんだから公道F1グランプリできませんか?
2024.04.17 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズなぜ禁断の公道レースができたのか?
いや驚きましたよ、小春日和の東京・有明3月末。まさか日本初の公道フォーミュラカーレースがホントにニッポンのど真ん中でできちゃったとは! それは世界の大都市を行脚するFIAの電気自動車(EV)レース「フォーミュラE」。2023-24シーズンの第5戦「東京E-Prix」が開催されたのである。
フォーミュラEは2014-2015年シーズンの北京開催を皮切りにロンドン、ベルリン、モスクワ、ブエノスアイレス、モンテカルロ、その後もローマ、ニューヨーク、メキシコシティと名だたる大都市で開催。基本すべて公道を使った市街地レースのため、モータースポーツに厳しいニッポン、特に安全にウルサい大東京では絶対無理と思ってたら、先日3月29日にシェイクダウン、30日にフリー走行2回目、予選、決勝を詰め込んでイッキに開催!
コースは全長約2.5kmと短めで半分は有明にある東京ビッグサイトの駐車場の中。しかし最高速は抑え気味とはいえ270km/h超えだし、車重800kg以下の1人乗りオープンホイールフォーミュラが340PSで爆走するシーンはド迫力のひとこと。レースも最後まで抜きつ抜かれつで、程よい接触もあってエキサイティング。
確かにF1に比べて静かだとか目の肥えたファンからは不満もあるだろうけど東京でできたのはニッポンのモータースポーツ界的に大朗報。一体東京E-Prix開催にはどんな壁が立ちはだかり、どう突破したのか? 主催に最も尽力されたお方の一人、都庁の産業・エネルギー政策部 新エネルギー推進課長の池田千賀子さんをレース後に直撃してみましたっ!
EV普及という大義あればこそ!
小沢:東京E-Prix初開催おめでとうございます。本当にできちゃったんだ! というのが正直なところで、僕ら自動車メディアの人間からすると本格公道レースって悲願だったんですよ。1990年前後のセナプロF1ブームのころから、ニッポンで公道レースはなぜできないの? って話はあったし、ネットの情報によれば主催者側はフォーミュラE構想がスタートした2012年から年に2~3回東京に来てたって話もある。実に10年越しの夢のプロジェクト、日本初の本格公道レースはなぜできたのかと。それも大東京で。
池田:10年前の話はアレですけど、われわれにお話が来たのは約5年前で、そのころにちょうど「ゼロエミッション東京戦略」が始まったんです。2050年にはCO2排出を実質ゼロにしようという取り組みで、知事も2030年の都内新車販売で、マイルドハイブリッドを含めた電動車率を100%、その内ゼロエミッションビークル(ZEV)の割合を50%にするという意欲的な目標を掲げたころでございます。これを達成するにあたり、東京都には3つの大きな柱がありまして、それはゼロエミッション車両の整備&車両の補助とインフラの拡充、そして普及啓発です。特に最後の意識改革、行動変異を狙うにあたってなにかインパクトのあるイベントはないかといろんな調査やヒアリングをしていたんですね。ジャパンモビリティショーもそうですし、都内のキャラバンイベントなどもあるなかでZEVの普及にはフォーミュラEが一番インパクトがあるんじゃないかと。2030年の目標を達成するには相当な起爆剤が要るし、一気呵成(かせい)にやらなければいけないわけですから。
そんななか、彼ら(主催者)側も東京でフォーミュラEをやるのは悲願だったんですよ。10年前からいらしてロンドン、パリ、ニューヨークと世界のビッグシティーでやるなかで東京でなぜやれないの? やりたい! というのは報道でも聞いていましたし、5年前ぐらいにコンタクトがあり、彼らのレースもカーボンオフセットが目標でサステナビリティーな取り組みも多く、われわれの政策目的と合致した。そこで協力しようとスタートしたんです。
小沢:EV普及の大義が一致したと。ただし、安全に関して日本はすごく厳しい。特に1970年代の交通戦争のときに育った僕らは、バイクも三ない運動とかで高校時代に免許は取れなかったし、特に公道で飛ばすという点で厳しい。
池田:おっしゃるとおり、お金よりも一番のハードルは公道を使ったレースというところです。そこで重要なのはやはり東京都と一緒にやるということ。都がバックについてるじゃないですけど、都と一緒にイベントをやるということで警視庁の協力が得られた。他の民間団体でも公道レースがやりたいところは一杯ありますけど、それはできませんよ、絶対に!
小沢:やはりそうでしたか。
池田:フォーミュラEは東京都が一緒にやるってことで実現できたのは間違いないかなと。
会場がビッグサイト周辺になったのはなぜですか?
小沢:大阪でもF1大阪グランプリをやろうみたいな話があるじゃないですか。勝手に難しいだろうなぁと思ってました。
池田:そうですね。東京は道路事情も厳しいですし、コースをどこにするかが一番の苦労でしたね。10カ所くらい庁内でいろいろ検討しまして、ここならいい、ここはどうかみたいなアイデアを出し合って、FIAの基準もありますし、パドックとかピットとか付帯設備に必要なスペースもありますし、道路だけがよければいいってわけじゃない。相当な量の交通量調査をしたなかで、あの臨海部エリアが近未来でサステナブルな舞台にふさわしいと。東京ビッグサイトもあって都のイベントも併設できるし、いろんな条件が合致してできました。ご覧になってもらって分かったと思いますが、ロケーションも一番いいですよね。観客席から海が見えて。
小沢:ただ、不躾(ぶしつけ)なワガママを言わせていただくと、公道レースといいつつ半分はビッグサイトの駐車場だったなと。あれが精いっぱいだとも思いましたが。
池田:いやいやあのくらいの広さがないと観客席が置けないですし、ピットも裏のパドックもテレビコンパウンドも無理です。
小沢:確かに。全面公道だと観客席を置くところがないですよね。東雲のオートバックスを使うわけにもいかないし。やっぱり浅草の浅草寺前ホームストレートは無理?
池田:無理ですね(笑)。そもそも道路に併設する広い民有地や私有地がないですから。
毛塚健太課長(元ビッグサイト担当):ある意味ビッグサイトが最後のとりでだったと思いますね。ビッグサイトがウンと言わなければたぶんできなかったんじゃないかなと。いろんなコース案があって、警察さんと一緒にここはダメ、ここは絶対無理と可能性を一つずつつぶしていくなかで、唯一ビッグサイトが完全な×ではなく、条件付きで公道レースが開催できる場所として残ったんです。
小沢:他にはどういったコース案が?
毛塚:それはちょっと……言えません(笑)。
小沢:ただ、概念としてはさっきの浅草とか東京タワーとかそれこそ皇居一周の丸の内E-Prixですよね。
毛塚:そうですね。東京らしい象徴的な建物の近くを走らせるという構想です。
小沢:いわば東京マラソンのようにフォーミュラEもやると。外国の人は当然そう思いますよね。ただそれは難しかった。
毛塚:とはいえビッグサイトもひとつのユニークなメニューで、独特の逆三角形デザインですし、日本のコミケとかモビリティショーの会場なので。
小沢:確かに。サブカルの聖地でした(笑)。まあ、あの豪腕、故石原都知事でも三宅島ロードレースは実現できなかったわけで、場所決めは大きなハードルであったと。
池田:それから開催期間です。彼らは本来ならば準備期間を2週間ぐらい取りたがっていて、道路を空けてほしいと言ってたんですが、ビッグサイトはご存じのとおり、すごく人気のある施設なんですよ。年間スケジュールがほとんど埋まっているので、今回は25日からパズルのようにスキをみて工事して、なんとか開催したっていうのが東京都ならではかなと。
資料の翻訳に5年以上!?
小沢:有名なモナコGPはモナコ公国という立憲君主制の国で行われてて、国王がウンと言えば、みたいな感じもありますもんね。
池田:彼らはそれを売りにしてるじゃないですか。長年のF1のノウハウもありますし。その点、われわれはゼロから組み立ててきて、非常にいろんなハードルがありましたけど。
小沢:最初にこの企画、東京で公道フォーミュラEをやるって話を聞いてできると思いました?
池田:もう「やるしかない」というところですよね。できるようにするというところで、もはや「できないという答えはない」と。
小沢:すごい。ただ、僕ら世代からすると警察が昔から厳しくて公道で200km/hって聞いただけで直感的にこりゃ無理かなと。
池田:おっしゃるとおりですが、やっぱり公益性ですよ。なんといってもゼロエミッション東京の実現に向けてZEVの普及は欠かせないと。公益性がなければ絶対に認めない。東京都の事業、東京都と一緒じゃないと認めないと。
小沢:とはいえどんなに進化してもスピードがある程度出る以上、モータースポーツで人が死ぬ可能性は残るじゃないですか。道も2車線ぐらいしかないし、がんじがらめのガードレールもあるけど、僕は1980年代育ちでスピードは悪と教えられてきました。そんななか、よく公道レースにGOサインが出たなと。
池田:そこは素晴らしい実績があって、フォーミュラEっていまだに死亡事故がないんですよ。われわれも安全基準を厳しく確認しておりまして、車体やヘルメットをはじめとした安全対策を確認して、燃えた事故もありませんし、そこは警察に丁寧にご説明させていただきました。
小沢:資料とかめっちゃ大変でしたでしょう?
池田:大変ですよ~。FIAの安全基準も200ページある資料を翻訳して警察にご説明して。
小沢:そこに何年ぐらいかかったんですか。
池田:足かけ本当に5年ぐらい(笑)。
小沢:その間池田さんがずっとご担当されて、都庁としても異例の長期担当だったとか。
池田:いやいやみんなチームで、全庁一丸となって取り組んだだけで。
小沢:決勝当日に周辺を歩いたんですよ、結構近所の人が来てて、直前まで開催を知らなかった人も多くて、もうちょっと人が集められたらよかったかなと。外からはコース上のマシンは見られませんでしたが、パブリックビューイングでは見られたし。
池田:気がつかれなかったかもしれないですけど、われわれも広報にはかなり力を入れていて、東京都広報の一面で告知したり、ラッピングバスを走らせたりしましたし、渋谷や秋葉原、新宿などあちこちでシティードレッシングもやって、都内の小中学校には何万枚というチラシもまきました。
小沢:ネットの情報によるとE-Prixの会場だけで2万人とか。
池田:われわれが主催した併設イベント「E-Tokyoフェスティバル2024」には延べ5万6000人集まりました。
小沢:池田さんの見立てでは成功!
池田:大成功だと思います。天気もよかったですし、おかげさまで皆さんに見ていただき、迫力を感じていただいて。レースの楽しさだけじゃなく環境への優しさやEVの素晴らしさをご家族のみなさんにも感じていただき、考えていただき、今までのモータースポーツファンとは違う層にも訴求したっていうのが一番大きいと思います。来年も見たいという意見も多かったですし、大会をブラッシュアップしていきたい。
ひとまず3年はやります!
小沢:東京E-Prix、来年もあるんですか?
池田:もちろんです。主催者側の報道では2025年は5月17日とされていますが、ご案内のとおり、FIAの承認が下りないと正式決定ではないので。
小沢:主催者側はインタビューで「10年20年と続くことを祈ってます」と話したとか。
池田:彼らはそれが悲願だと思いますが、われわれとしては1回目を成功させて、都民の皆さまの反応とか、本当にどうだったかを検証してからと。
小沢:来年はできそうだし、その後はおいおい。
池田:まあ3年間はやろうと思っておりますので。
小沢:フォーミュラE東京を3年はやると! 最後に無理難題を承知で聞くんですが、公道F1は無理なんでしょうか? 本当の意味での東京公道グランプリ開催は?
池田:無理ですね!(キッパリ)ガソリン車は音と排ガスをはじめ、われわれの政策目的と全く合致しないので。フォーミュラEじゃないとなかなか難しい。
小沢:そこは全然違うわけですね。われわれクルマ好きからすると日本の公道でフォーミュラEができたのなら、次はいよいよ公道F1かと。F1もどんどん半分EV化していきますから。
池田:そうなんですか? F1がEVになる? EVになればいいですよ。音とCO2を出さなければ。でもだったらフォーミュラEとさして変わらないような?
小沢:まあ、F1グランプリの「グランプリ」には最上級って意味があって、スピード、加速、距離、コースのダイナミズム、音、ドライバーレベルとすべて世界最高レベルじゃなければならない。その点、今のフォーミュラEはF3レベルですから、そう簡単にF1のEV化はできないと思います。
池田:なるほど。ただF1の爆音とガソリンの匂いが好きっていうモータースポーツファンの方もいらっしゃると思いますけど。E-Prixとはファン層が違うのかなと?
小沢:特に音はF1では結構外せないですからね。あの音が聞きたくてF1を見に行く人もいるくらいなんで。とはいえ東京グランプリ、皇居-丸の内サーキットは僕らの永遠の夢ですね。死ぬまでに一度くらいは見たい。
池田:(笑)。
(文=小沢コージ/写真=日産自動車、小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第54回:18年目の大改良! 奇跡の不老不死ミニバン「デリカD:5」のナゾ 2026.1.11 三菱のオールラウンドミニバン「デリカD:5」が2025年末にまたも大幅改良を敢行。しかもモデルライフが10年をとっくに過ぎた2024年に過去最高の台数が販売されたというのだから、いったい現場で何が起きているのか。小沢コージが開発者を直撃!
-
第53回:失敗できない新型「CX-5」 勝手な心配を全部聞き尽くす!(後編) 2025.12.20 小沢コージによる新型「マツダCX-5」の開発主査へのインタビュー(後編)。賛否両論のタッチ操作主体のインストゥルメントパネルや気になる価格、「CX-60」との微妙な関係について鋭く切り込みました。
-
第52回:ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編) 2025.12.19 「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。
-
第51回:290万円の高額グレードが約4割で受注1万台! バカ売れ「デリカミニ」の衝撃 2025.11.28 わずか2年でのフルモデルチェンジが話題の新型「三菱デリカミニ」は、最上級グレードで300万円に迫る価格でも話題だ。ただし、その高額グレードを中心に売れまくっているというから不思議だ。小沢コージがその真相を探った。
-
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃 2025.11.18 かねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃!
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。










