F1 2012開幕戦「最多GPシーズンのはじまり」【F1 2012 続報】
2012.03.19 自動車ニュース【F1 2012 続報】開幕戦オーストラリアGP「最多GPシーズンのはじまり」
2012年3月18日、オーストラリアはメルボルンのアルバートパーク・サーキットで行われたF1世界選手権第1戦オーストラリアGP。史上初めて6人ものチャンピオン経験者がそろった新シーズンは、いくつかの意外性をはらみながら開幕した。
■2012年の大きな変更は「EBD禁止」
いよいよ2012年のF1シーズンが開幕。今年は比較的レギュレーションが安定しているものの、それでもマシン開発に影響する変更があった。
筆頭は、排ガスの流れを活用し、マシン後部のディフューザーで発生させるダウンフォースを増大させる「エキゾースト・ブロウン・ディフューザー(EBD)」が事実上禁止されたことだ。特にリアのダウンフォースが著しく減少したことで、各チームはその対応策に追われることとなった。
2010年にこのEBDで先鞭(せんべん)をつけたレッドブルは、たぐいまれなデザイナー、エイドリアン・ニューウェイによる新型「RB8」をオーストラリアに持ち込んだ。2年連続でドライバー、コンストラクターの二冠を達成している現在最強のチームは、ライバルにとってベンチマークとなる存在。EBDという最大の武器を失ったレッドブルのパフォーマンスには誰もが注目しているところだ。
昨季は19戦11勝、表彰台17回、ポールポジション15回と他を圧倒して最年少2連覇を達成したセバスチャン・ベッテルは、ファン・マニュエル・ファンジオ、ミハエル・シューマッハーに次ぐ史上3人目のハットトリックが期待され、またタイトルにもっとも近いドライバーともいわれている。チームメイトは変わらず、マーク・ウェバー。昨年ベッテル独走の陰に隠れた、今年36歳になるオージーの奮起も興味の的となる。
■醜い「カモノハシのくちばし」
多くのマシンが「カモノハシのくちばし」を装着している点も2012年レギュレーションがもたらしたもの。安全性の向上をはかるべく、ノーズの高さが規定で低く抑えられたため、それより高いモノコックとの間に段差が生じ、「くちばし」のようなノーズがみられるようになったのだ。
「最高峰F1は美しくあるべき」という向きには許しがたい(!?)醜いルックスとなってしまったが、このトレンドから外れた数少ないチームに、2年連続でコンストラクターズランキング2位に甘んじた、マクラーレンがいた。
新型「MP4-27」は、ノーズに加えモノコック自体も低くすることでステップのない、滑らかなフロントセクションを装着している。2011年は冬のテストからつまずき、その後猛烈な開発ペースで6勝を記録したマクラーレン。今年もルイス・ハミルトン、ジェンソン・バトンがステアリングを握り、2008年のハミルトン以来となるドライバーズタイトル、そして1998年から遠ざかっているコンストラクターズタイトルの奪還をもくろむ。
■ミッドフィルダー含め群雄割拠
昨シーズンはフェルナンド・アロンソの1勝のみという屈辱に甘んじたフェラーリは、シャシー開発のトップに元マクラーレンのパット・フライを任命し、極めてアグレッシブな「F2012」をデビューさせた。だが開幕前のテストからトラブル多発で、チームは新しいマシンを理解しきれないまま実戦を迎えた。スクーデリア3年目のリーダー、アロンソと、2011年のような不調が続くと後がないフェリッペ・マッサのコンビは継続される。
2年連続コンストラクターズ4位のメルセデスは、チーム代表のロス・ブラウンを筆頭に、元ルノーのボブ・ベル、元フェラーリのアルド・コスタ、かつてBARやレッドブルに在籍したジェフ・ウィリスといったそうそうたる開発陣の手による「W03」を投入。シューマッハーとニコ・ロズベルグにステアリングを託し、トップ3の一角を崩さんと意気込む。
「ロータス」に改名した元ルノーチームは、2年間ラリーに参戦し成功せず帰ってきた2007年チャンプ、キミ・ライコネンと、2009年途中にルノーをドライブしたロメ・グロジャンのコンビが「E20」を駆る。さらにザウバーは、テスト期間中に小林可夢偉がトップタイムをたたき出すなど、限られたバジェットのなかで「C31」を仕上げてきた。
また1990年代にともに黄金期を築いたルノーエンジンを再び搭載するウィリアムズは、コンストラクターズ選手権9位5点という最悪の昨シーズンを払拭(ふっしょく)する「FW34」で名門復活をもくろんでいる。
コントロールタイヤ、ピレリは、昨年よりソフトになり、かつドライでは4種類用意されるスペック間の性能差がより小さくなったという。昨シーズンは1年目のピレリに手を焼くドライバー、チームがいたが、今年もいかにタイヤを扱うかが勝敗の分かれ目となるはずだ。
オフシーズンの短いテストでわかったことは、どのチームも実力は拮抗(きっこう)しており、2012年は接戦が予想されるということだった。開幕ベルは華やかに、秋を迎えつつあるオーストラリアで鳴り響いた。
■予選で起きた「意外」
雨がらみの金曜日、そして土曜日と、3回のフリー走行で一度もトップタイムをマークしなかったレッドブル勢。能ある鷹(たか)は爪を隠すもの、と半信半疑で迎えた土曜日午後の予選では、意外にもチャンピオンチームの劣勢が顕著になった。
トップ10グリッドを決めるQ3で最速タイムをたたき出したのはハミルトンだった。ライバルを0.152秒突き放して、自身通算20回目のポールポジションを獲得。バトンが2位に続き、マクラーレンがフロントロー独占に成功した。対するレッドブルは、ウェバー5位、ベッテル6位。ウェバーは電気ブーストのKERS(運動エネルギー回生システム)にトラブルを抱え、またベッテルはアタック中にミスをおかしたというが、昨年19戦で18回もポールポジションを記録したチームが3列目に沈んだことはショッキングなニュースだった。
ロータスのグロジャンが予選3位につけたことは、もうひとつの「意外」。またシューマッハーが4位、ロズベルグは7位につけたメルセデスは躍進の予感を感じさせた。パストール・マルドナドの予選8位もウィリアムズの巻き返しを印象づけ、そしてダニエル・リチャルドは、トロロッソで10番グリッドと健闘した。
■先手必勝
昨年ベッテルは、最前列からスタートでトップに立ち、早々に後車が可変リアウイングのDRS(ドラッグ・リダクション・システム)を行使できない1秒以上の差をつくり、あとはタイヤや状況をみてレースをコントロールするという、いわば先手必勝パターンで勝利を重ねてきた。
今回、バトンはスタートで首位の座を奪うと、DRS解禁となる3周までで2位ハミルトンに2.4秒のギャップを築き、以降は3秒前後のマージンのままラップを刻んだ。まさにベッテルの必勝パターンに持ち込んだかっこうだ。
マクラーレンの2台の後ろには、一時的にメルセデスのシューマッハーが3位、ロズベルグが4位と続いたが、このタンデム走行は長続きせず、ロズベルグは2周目にベッテルにポジションを奪われ、またシューマッハーは10周目にギアボックスが壊れリタイアを余儀なくされた。
思うようにペースが上げられないハミルトンは運も味方につけられなかった。最初のピットストップを終えコースに戻ると、長いスティントを走行中のライコネン、セルジオ・ペレスに鼻っ面を抑えられ、バトンに10秒ものアドバンテージを与えてしまったのだ。
これはハミルトンから逃げる先頭のバトン、一方で追う3位ベッテルにとっては朗報だった。だが順調にリードするバトンがもっとも懸念していたセーフティーカーが、58周のレース終盤に導入されることになったことで、レースは新たな局面を迎えることとなった。
■ピンチを切り抜け、バトン優勝
37周目、今年から「ケイターハム」を名乗る元ロータスの1台、ビタリー・ペトロフのマシンがステアリングトラブルでメインストレートに止まると、それを排除するためのセーフティーカーが出動した。
バトンにとっては、10秒のリードタイムが水泡に帰す恐れていた出来事。また日が傾きはじめたメルボルンでは路面温度が急激に落ちはじめており、再スタート時のタイヤの温め方にも細心の注意が必要となっていた。
マクラーレンはセーフティーカー前に2台同時に2度目のタイヤ交換を終えていたが、3位ベッテルはセーフティーカーラン中にピットへ駆け込むことができ、そのおかげでハミルトンを抜き、レッドブルは2位にポジションを上げた。
42周目にレースが再開。1位バトンは懸念していた再スタートもうまくこなし、ファステストラップを連続更新しながら3秒以上のクッションをつくり出し、見事逃げ切りに成功した。
昨年、3勝してベッテルに次ぐ選手権2位に終わったバトンは、スムーズなドライビングでタイヤをいたわりながら、クールに戦略を実行にうつせるクレバーさに磨きをかけ、オーストラリアでもその力をいかんなく発揮した。バトンとマクラーレンのコンビネーションが開花すれば、ライバルにとって相当な脅威となることは間違いないだろう。
もちろん、長いシーズンは始まったばかり。予選で苦しみながら2位フィニッシュで挽回したベッテルにも、ポールポジションから3位という結果にショックを隠しきれないハミルトンにも、結果が伴わなかったメルセデスやフェラーリにも、チャンスはまだまだある。
今年は昨年より1戦増え、史上最多の20戦で争われる予定のF1ワールドチャンピオンシップ。第2戦は1週間後の3月25日、熱帯のセパン・サーキットで開かれるマレーシアGPとなる。
(文=bg)
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