第192回:ランボルギーニが集結した夢のような5日間
「ランボルギーニ50周年グランドツアー」参加記(後編)
2013.06.25
エディターから一言
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ランボルギーニの創立50周年を祝うツアーイベント「50周年グランドツアー」が2013年5月7日から5月11日まで、イタリアで開催された。ミラノを出発した一行はローマを経てボローニャへ。そこには思いがけない“プレゼント”が用意されていた。(前編はこちら)
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ステージ1-ミラノからマルミへ
参加者に事前に手渡されていたのは、おおまかな地図の載った冊子と、各日のスタート時間とチェックポイントを示すシート、そして迷子防止のGPS発信器のみ……。ラリーイベントに必須のコマ図も何もない。アンディ(編集部注:一緒に「ガヤルドLP550-2」に乗る、筆者の旧知のジャーナリスト)と二人、純正ナビに一応、次の目的地を入れつつ、どうしたものかと思案しているうちに、スタートの番が巡ってきた。
司会の紹介とともに観衆の声援に包まれて、スタートする瞬間の、何とも言えない晴れがましさといったら! こればっかりは参加した者にしか分からない。
ほとんど“身二つ”でスタートしてみて、やっとツアーの仕組みを理解した。コマ地図やナビの心配は、不要だったのだ。なぜか。全行程、ポリスの先導付きなのだ。なるほど、このためにランボルギーニはガヤルド・パトカーを寄付していたか(というのは筆者のただの思いつき)。白バイならぬ“青バイ”がしめて40台、代わる代わる、猛牛たちをまとめて面倒をみてくれるというわけだった。
ナビがあってもややこしいミラノ市内も、まったくもってノン・チェ・プロブレンマ。それどころか、ラウンドアバウト、信号、一時停止、バスレーン、進入禁止など、すべておかまいなしなのだ。逆に躊躇(ためら)おうものなら、青バイに「早く行け」と、せかされる始末。何なら対向車線まで止めてやろう、という勢いで、先導するポリスが臨時の交通規制を敷いてくれる。
しかも、速い! 速度制限も関係なし。街中の規制はもちろん、カントリーロードでも150km/h以上(制限速度はおおむね100km/h)、高速では200km/hオーバー(同130km/h)まで、BMWの大型バイクが引っ張ってくれる。途中で気がついたのだけれども、街中のスピードカメラには、一部、垂れ幕さえかかっていた(誰がかけたのかは、定かではないが)!
アンディとボクは、道中、青バイ隊のことを、親しみをこめて、「われらのカウボーイ」(ボクらは「カウ」じゃなくて「ブル」だけど)と呼び、渋滞に陥るたびに、ご登場を願ったものだ。そうすると、いずこからともなく現れて、“救出”してくれること幾度。そんなわがままランボたちのせいで大渋滞が、あちらこちらで……。イタリア市井のみなさま、大変ご迷惑をおかけしました。でも、楽しかった!
初日の5月8日は、ランボルギーニ・チェントロスティーレ(スタイルセンター)のチーフデザイナーであるフィリッポ・ペリーニの生まれ故郷、ボッビオをランチポイントに、ティレニア海の高級リゾート、フォルテ・デイ・マルミへ向かう。ボッビオからは、つづら折りのワインディングロードで、本当に、本当に、色とりどりのレイジングブルが細い断崖の道に連なった。あの光景は、忘れられない。
この日は距離にして345kmを走った。われわれが泊まったホテルは、その昔、フィアットのアニエッリが個人用のリゾートヴィラとして使っていたという、由緒正しき建物だった。
ステージ2&3-マルミからローマ、そして故郷のボローニャへ
5月9日、2日目。マルミをスタートし、西海岸沿いに南下。ピサの斜塔を脇で眺めつつ(普段、クルマは入れない)、グロセットのイタリア空軍第4航空団の基地でランチ、そして首都ローマへ。空軍基地がランチポイントになった理由は……。そのときは、まだ、誰もその意味を理解していなかったけれど、それは最終日のパーティーで明らかになる。
ローマ市内へは交通渋滞が、そう、最新のガヤルドでもツライくらいに激しかった。ところどころで「ミウラ」や「ウラッコ」がストップしている。つらかったのは、クルマの方か、それとも人間か、もしくはその両方か? 何せ、天候に恵まれすぎて、この日はとても日差しが強く、暑かったのだ。
這々(ほうほう)の体(てい)で市内へとたどり着いたが、バチカンを見下ろすサン・ピエトロ広場前に、青バイの先導で入った瞬間に、疲れも苦労も吹っ飛んだ。どころか、身震いするほどの感動が押し寄せてきた。世界に通じる道の原点にやってきたのだ。この日、403km。
5月10日、3日目。アウトストラーダで個人的にも大好きな山岳都市、オルヴィエートまでイッキに走る。そこからカントリーロードを伝って、サン・ジュスティーノ・ヴァルダルノでランチ。
フェルッチョ・フェラガモの、街ごと元別荘だったというテヌータ・イル・ボッロでランチを取っていると、にわか雨が降り出した。午後にはミッレ・ミリア(ちょうど1週間後の開催)で有名なフータ峠を抜けて、いよいよボローニャへ向かうというのに、雨とは……。
けれども、これがまた楽しかった。以前、レンタカーで走ったことはあったけれども、フータ峠がこんなに楽しい道だとは知らなかった。二駆のガヤルドは、もうほとんどカラダの一部と化していて、気持ちいいくらいに一体感のある走りをみせてくれる。地元のアバルトや、仲間の12気筒をどんどん蹴散らした。唯一、彼なら目を瞑(つぶ)ってでも運転できるのだろう、フィアットの商用バン「ドブロ」だけは、追い越せなかったけれど……。
途中参加の車両もまじえて、ボローニャの中心部、マッジョーレ広場に、350台のレイジングブルがついに勢ぞろいした。その光景は、もはや言葉では言い尽くせない。このまま時間が止まってくれたらいいのに……。心から、そう願うほどだった。この日は440km。ほぼ一般道だけの、最もハードな一日が終わった。
ステージ4―「エゴイスタ」は現代の“クンタッチ”
5月11日、最終日。ボローニャの広場からサンタアガタ・ボロネーゼまで、もう35kmを残すのみである。沿道の観衆に手を振りながら、生まれ故郷へ、晴れがましく行進する350頭のレイジングブルたち。
見慣れた本社正門。ゴールのアーチをくぐる。正面には、50周年のアニバーサリーモデルが3台(「アヴェンタドールLP720」のクーペ&ロードスターに、ガヤルドLP560-2だ)。正式に生産の決まった「ウルス」もいる、次期ガヤルドのデザインモチーフである限定車「セストエレメント」もいた! スタート時よりも、さらにいっそう、1200kmの思い出ぶんだけ余計に、晴れがましい気分になって……。
半世紀に一度というタイミングに、いちランボルギーニファンとして、ましてや幸運にもハイライトイベントの参加者として、サンタアガタにやって来られたことを、神様仏様、とにかく誰様にでもいいから、感謝したい気持ちになった。
日も落ちた夜8時。ファクトリーツアーやチャリティーオークションなど、さまざまな催しのあと、招待客総勢1000人のガラディナーが始まった。ダラーラがいる、ガンディーニがいる、スタンツァーニがいる、フォルギエリがいる、ジウジアーロがいる……。これぞ、ランボルギーニ・オールスターズの結集。なんという、パーティーだ。
われらが“カウボーイ”たちも勢ぞろいした。参加者、総立ちで感謝の拍手。
今度は「ヴェネーノ」が、ゆっくりと、しかし爆音を轟(とどろ)かせ、観衆をかきわけかきわけ、現れた。走る姿を見るのは、もちろんこれが初めて。
そして、ハイライトは……。ワンオフの「エゴイスタ」。モチーフは、そう戦闘機である!
とにかくみんなが言葉を失った。真の評価は将来に託すとしよう。これまさに現代の“クンタッチ”!
100周年にはこのボクも98歳だ。見られるだろうか? 見たいもんだ。ランボルギーニは、次の50年も、われわれを驚かせ続けてくれるに違いない。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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