フォルクスワーゲン・ゴルフTSIハイライン(FF/7AT)
いまでも「お手本」 2013.07.07 試乗記 フルモデルチェンジで7世代目となった「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。このモデルには格別な思いがあるという巨匠 徳大寺有恒が、その仕上がりを吟味した。徳大寺有恒の生みの親(?)
松本英雄(以下「松」):今日の試乗車は、待望の新型「フォルクスワーゲン・ゴルフ」です。
徳大寺有恒(以下「徳」):ようやくきたか。
松:ゴルフといえば、巨匠を抜きには語れませんからね。
徳:というより、ゴルフを抜きに徳大寺有恒は語れない、と言うべきなんだがな。なんたって俺を「徳大寺有恒」たらしめたのは、初代ゴルフなんだから。
松:その話、読者のなかには知らない方もいるでしょうから、ここでもう一度紹介したいんですが。
徳:OK。どこから話せばいいかな?
松:まずは初代ゴルフを買ったきっかけからいきましょう。
徳:知り合いのヤナセのセールスマンが売りにきたんだよ。当時フォルクスワーゲンのインポーターだったヤナセは、初代ゴルフのデビュー翌年の1975年から輸入を始めたんだが、当初はまったく売れなくて困っていた。
松:空冷RRの「ビートル」から水冷FFのゴルフへというドラスティックな転換に、旧来のフォルクスワーゲンユーザーやファンが躊躇(ちゅうちょ)したとか。
徳:そう。それで俺のところに「すごくいい条件を出すから買ってくれ」と言ってきたんだ。輸入当初のゴルフは1.5リッターの「LS」っていうモノグレードだったんだけど、価格は約160万円。それを30万円引き、金利なしのローンでいいからと。
松:今なら即金で買いますよ。(笑)
徳:今ならな。だが、当時は130万出せば、国産なら「トヨタ・マークII」の上級グレードが買えたんだよ。しかも俺はその数年前に会社をツブして経済的に非常に苦しく、輸入車の新車など、どう考えても無理だった。
松:ところが奥さまが買ってくれたんですよね。
徳:そう。そんな状態だったから女房も働いていたんだけど、そのサラリーからローンを払ってくれるというんだ。
松:何度聞いても、すごくいい話ですよね。
徳:それで手に入れたのが、マリノイエローのゴルフLS。ホントはサックス(水色)がよかったんだけど、条件が条件だけに選べなかった。
松:で、乗ってみたらすごくよかったと。
徳:よかったなんてもんじゃないな。ただのSOHCシングルキャブなのにエンジンはよく回るし、低中回転域のトルクもあって、燃費もけっこういい。ハンドリングはすばらしくて、ブレーキの効きも申し分ない。おまけにパッケージングが見事で、後席を倒せば並のバンより荷物が積めた。ただし内装などのクオリティーは低かったし、ブンブンとやかましかったけどな。
松:目からうろこが落ちたって感じですか?
徳:うん。ちょっと大げさにいえば、俺のクルマ人生における革命だな。それまでに、それこそ軽トラからロールス・ロイスまで、さまざまなクルマに乗った経験があったが、ゴルフのように実用的でありながら、運転して楽しいクルマは知らなかった。
松:そのゴルフ体験をもとに、最初の『間違いだらけのクルマ選び』(1976年刊行)を書いたんですね。
徳:そう。実際には、ゴルフを買う前に初稿を書き上げていたんだけど、ゴルフを基準に書き直したら、結果的に当時の日本車のダメな部分を歯に衣を着せずに批評する内容になったんだ。
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