第233回:舞台裏の方がおもしろい?
トヨタ博物館のバックヤードに潜入
2014.04.04
エディターから一言
拡大 |
モータージャーナリスト中村孝仁が、トヨタ博物館の収蔵車を保管するバックヤードに潜入。倉庫に眠るヒストリックカーのなかから、注目のクルマを紹介する。
拡大 |
拡大 |
倉庫に眠る貴重なクルマの数々
自動車博物館は、主として個人のコレクションからスタートしたものと、メーカーが運営するもの、公共の法人が経営するものに大別できる。このうち、メーカー系のミュージアムというのは基本的に自社の歴史をたどるもので、そのメーカーのモデルだけが展示されることが多い。ドイツを例に取れば、メルセデス・ベンツ・ミュージアムやBMWミュージアム、それにポルシェ・ミュージアムなどは、すべて自身にゆかりのあるモデルだけを展示している。
そんな中で、トヨタ博物館は自動車の歴史を体系的に展示する、メーカー系としては数少ないミュージアムの一つで、これに相当するミュージアムはアメリカのヘンリー・フォード博物館くらいしか知らない。
そのトヨタ博物館、現在所蔵するクルマはおよそ500台だそうである。しかしながら、実際に展示しているのはこのうち140台にすぎず、残りの360台ほどはいまだレストアされていないか、あるいは展示スペースの関係でバックヤードに眠っている。今回は、そんな日頃見ることのできないトヨタ博物館のバックヤードを見学することができた。
トヨタ博物館内の倉庫に眠る車両はおよそ80台。ここに入りきらないクルマは、別に借りた倉庫や、最近は工場内の一角に保管しているのだそうだ。果たしてどうやって展示車両を決定するのかは聞きそびれてしまったが、そのバックヤードに眠るモデルたちも貴重なものばかりであったので、その一端を紹介しよう。
ちょっと珍しいトヨタ車の姿も
拡大 |
■ トヨペット・カスタムスポーツ
せっかくなので、まずはトヨタゆかりのクルマから。こちらは企画展などでたまに展示されることがあるモデルで、1960年に初代「トヨペット・クラウン」のシャシーをベースに開発されたもの。5台が生産されたそうだが、果たして何台現存しているかは不明。デザインを担当したのは後にレーシングカー「コニリオ・スポーツ」をデザインした濱 素紀氏である。
拡大 |
■ トヨダAA型/トヨタAC型
奥の黒く塗られた個体が、トヨタ初の乗用車である「トヨダAA型」。これに続く2代目として1938年に誕生したのが、手前の「トヨタAC型」だった。つい先頃(2014年3月)、豊田喜一郎氏をモデルとしたテレビドラマが放映され、初期のトヨタ車がテレビに登場したが、その頃のエンジンはシボレーのコピーであった。このAC型も、やはりシボレーのものに倣った3.4リッター直6ユニットを搭載していた。115台が生産されている。
拡大 |
■ トヨペット・クラウン
初代「クラウン」の最終型。戦後、国産の高級乗用車として初めて登場したのがクラウンだった。シングルナンバーのプレートはオリジナルで、新車時からつけられているものだという。日産や、日野、いすゞなどが外国メーカーと手を組んで自動車作りを始める中、トヨタだけは自前で車作りに取り組んでこのクラウンを生み出した。最終型は1.9リッターの直4 OHVユニットを搭載する。
拡大 |
■ トヨタ2000GT
「トヨタ2000GT」は博物館にも展示されているが、バックヤードにも2台が佇(たたず)んでいた。ちなみに、このとき博物館に展示されていたのは左ハンドルの輸出仕様。そしてバックヤードにあったのはロードバーションが国内仕様。そしてもう一台は速度記録に挑戦した仕様のレプリカである。本来の速度記録挑戦車はすでに現存しておらず、これはそれを元に復元したものだ。
拡大 |
■ トヨタMR2プロトタイプ
何かの企画展でもない限り、なかなか見ることのできないモデルがこれ。一目見れば「MR2」にまつわるクルマであることは理解できるだろうが、これはそのプロトタイプなのだ。MR2はトヨタにとって初めてリサーチ、デザインディベロップメント、プロダクション、すなわち調査、先行開発、商品化という3つのステージに分けて開発の行われたクルマとのこと。ちなみに、このプロトタイプは完全な手作りだ。
小林彰太郎氏にゆかりのあのクルマが……
拡大 |
■ コニー・グッピー
愛知機械工業の野心作。排気量は当時の規格いっぱいの360ccではなくわずか199ccというコンパクトなものであったが、フロントダブルウィッシュボーン、リアトレーリングアームという凝ったサスペンションを持つシャシーに、トルクコンバーター式の自動変速機(前進1段!)搭載という画期的メカニズムを持っていた。ただし時流には全く合わず、すぐに生産中止となった。本来はピックアップだったが、このクルマは販売店だった愛知ヂャイアントがオープンボディーに改装したものだという。
拡大 |
■ ナッシュ・メトロポリタン
アメリカがテールフィン時代に突入し、クルマがどんどん巨大化していく中で企画された非常に珍しいモデルがこの「ナッシュ・メトロポリタン」だった。そのサイズ、たったの3797x1562x1384mmと現在のクルマの中でも非常にコンパクトなモデルである。しかし企画したナッシュにはこんなコンパクトなクルマ用のエンジンやトランスミッションはなく、もちろん足まわりもなかった。そこで、これを生産できるメーカーと手を組んだのだが、それがオースチンだったのである。つまりメカニズムは完全イギリス製のアメリカ車というわけだ。
拡大 |
■ 紅旗CA770
中国のいわば要人専用モデルとして長く作られていたリムジンがこの「紅旗」と呼ばれるモデル。トヨタ博物館にあったのは第2世代に当たる「CA770」で、基本的には1963年から1980年までにおよそ1600台が生産されたといわれる。紅旗のオリジンはクライスラー。このCA770にも、クライスラーのV8ユニットをコピーしたエンジンが搭載されていた。
拡大 |
■ タトラT11
最後はこちら。ポルシェ博士にも多大な影響を与えたという、旧オーストリア・ハンガリー帝国生まれのデザイナー、ハンス・レドヴィンカのデザインした空冷水平対向2気筒を搭載したモデル。実はこれ、かつて『カーグラフィック』編集長だった小林彰太郎氏が所有していたモデルだそうで、氏が亡くなる前々日のトークショーにおいても実際に展示されていたのだとか。
今年トヨタ博物館は25周年を迎え、数多くの記念イベントが開催される予定となっている。その中には、今回取材したバックヤードを学芸員とまわる「裏」案内ツアーも開催されるので、興味のある人は、ホームページをよく確かめた上で申し込んでみるといいだろう。
もちろん、学芸員の案内で博物館自体を見学することも可能。単に館内を見てまわるだけではなく、おもしろい裏話なども聞けて、いっそうミュージアムの世界を堪能することができるはず。見学がより楽しいものになるのではないだろうか。
(文と写真=中村孝仁)

中村 孝仁
-
第875回:キモは氷上性能! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」を試す 2026.7.1 違いは氷の上で表れる! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE-Pro(ウインターマックス アイスプロ)」に、冬の北海道で試乗。氷上性能を徹底的に追求したという新製品の、パフォーマンスの一端に触れた。
-
第874回:自動運転からワイパーまで! 自動車を支えるメガサプライヤー ボッシュのあくなき挑戦 2026.6.27 世界屈指のメガサプライヤー、ボッシュが開発中の新技術を披露! 市街地での高度な運転支援技術に、日本の方言にも対応した対話型AI、サーキット走行のノウハウを教えてくれるコーチング機能等々……興味深いその中身をリポートする。
-
第873回:ウエット路面に強み ミシュランの新タイヤ「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」を試す 2026.6.19 2026年1月29日に導入が発表されたミシュランの新製品「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」。これまでの特徴に加え、低燃費性能や耐摩耗性、ウエットグリップ性能のアップをうたう両モデルの走りを、クローズドコースで確かめた。
-
第872回:「フォレスター」がJNCAPで最高評価を獲得! “安全”に対するスバルの不断の取り組みに迫る 2026.6.6 相対速度100km/hの衝突後でも、普通にドアが開く!? 人気のSUV「スバル・フォレスター」が、日本の自動車アセスメントで最高評価を獲得した。安全なクルマづくりを第一とするスバルの取り組みを、群馬製作所で行われた衝突試験デモの様子とともにリポートする。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
NEW
OEM車で自社製品らしさを出すために、多田さんだったら何をする?
2026.8.25あの多田哲哉のクルマQ&A他メーカーが開発したクルマを、自社製品として別の名前でユーザーに供給するOEM車。エンジニアの工夫次第で、オリジナルとは異なる独自の個性を出すことはできるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.8.25試乗記BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】
2026.8.25試乗記カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。 -
NEW
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2026.8.24試乗記スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。 -
デビュー4年でどう変わる? 最新型「トヨタ・クラウン クロスオーバー」の詳細を予測する
2026.8.24デイリーコラム2022年7月のデビューから4年がたち、仕様変更が予告された「トヨタ・クラウン クロスオーバー」。では、どこがどう変わるのか? 最新型の発売を前に、さまざまな角度からポイントを予測してみよう。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。





























