第244回:ウエルカム・バック・ケーニグセグ!
日本再上陸目前!? ケーニグセグ代表にインタビュー
2014.06.28
エディターから一言
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ケーニグセグというスーパーカーメーカーをご存じだろうか。スウェーデン南部の街、エンゲルホルムに本拠地を置き、年間10台あまりという、非常に限られた台数のハイパフォーマンスモデルをハンドメイドで生産している。今回、その代表であり創設者でもあるクリスチャン・フォン・ケーニグセグ氏にインタビューする機会を得た。1000psを超えるハイパフォーマンスモデルを送りだすケーニグセグとは一体どのようなメーカーなのだろうか。起業時の話から最新モデルの概要、そして“再上陸”を見据えた日本市場に対する期待まで、さまざまな質問を投げかけた。
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“イージーなスーパーカー”を目指す
――ケーニグセグとはどのようなメーカーですか?
われわれのクルマは、最高水準を誇るエンジン、ブレーキシステム、サスペンションなどを搭載し、それらを高次元でバランスさせたものです。また、それがサーキットという限られた環境ではなく、日常でも楽しめることが重要だと考えています。ですから、ラゲッジルームやエアコン、カーナビ、脱着式ルーフなど、実用性の確保や快適性の演出も忘れていません。高性能であることを追求していますが、メカニカルな性能ばかりにとらわれず、いかに性能と快適性とを高い次元でバランスさせるかを常に課題としています。
――ケーニグセグのモデルは、どのようなドライバビリティ―を備えているのでしょうか?
われわれは、誰もが運転を楽しめるクルマであることを大切にしています。荒れた舗装路でも快適に走行できたり、連続するタイトコーナーをスムーズにコーナリングできたりと、あらゆる状況下でベストな走りができるように開発しています。驚くべきパワーを秘めた極めて高性能なモデルではありますが、誰もが日常的なドライブを楽しむことができます。最新モデルのトランスミッションはオートマチックなので、とてもイージーですよ。
――全てのモデルで、V8エンジンをミドシップに搭載するレイアウトを採用しています。その理由は?
それが最善の選択だからです。V8エンジンは、軽量でパワーも出しやすい。もちろん、新モデルを開発するごとにベストな選択を模索していますが、この組み合わせがベストというのが、これまでの答えです。もしさらに優れた方法が見つかれば、そちらを選ぶでしょう。しかし、これまでのクルマ作りのポリシーに沿って、このレイアウトを採用しているので、そう簡単に変更することもないでしょう。このレイアウトを採用すること自体、今やわれわれのひとつのアイデンティティーとして理解されていると考えているからです。またV8ユニットは自社開発したものです。
今やパワーは1360psへ
――デビュー時より話題となったエンジンパワーですが、最新モデルはどのくらいまで到達しているのでしょうか?
ファーストモデルの「CC8S」では655psの最高出力を発生しており、最もパワフルな量産エンジンとしてギネス世界記録に認定されました。当時、多くの人たちに、「ハイパワーすぎる」とか「クレイジーだ」と言われました。
しかし、今やパワーはその2倍にも達しています。特別限定モデルである「One:1」の最高出力は1MW(1メガワット=1000kW=1360ps)ですよ。それに次ぐ「アゲーラR」は、1140psとなっています。セカンドモデルの「CCR」でも、高出力エンジンのギネス記録を獲得していますが、他のモデルに抜かれる前にわれわれ自身で記録を打ち破ることができました。
なぜこのようにハイスペックに挑戦し続けるのかと思われるかもしれません。われわれには、パワフルなエンジンとそれを制御するシステムを開発する技術力を有しています。常に限界に挑戦し続けることで、自分たちの技術を高めていきたいのです。
――トランスミッションですが、現行モデルは全てオートマチックとなっているのでしょうか?
はい、現在のモデルは全てデュアルクラッチ式のオートマチックトランスミッションです。軽量かつコンパクトな7段となっており、湿式と乾式のクラッチを併用した、世界初のシングルシャフトタイプのものです。
――スポーツカーで人気があるマニュアルトランスミッション(MT)は搭載しないのですか?
今の段階では、そういった予定はありません。私もMTは好きですし、MTが好きだという方も多いですが、このセグメントのクルマでは、MTは残念ながら売れません。ただし、需要があれば、今後リバイバルすることもあるかもしれません。
――スライド式の特徴的な「ラプタードア」を採用していますが、どのようなアイデアから生まれたのですか?
実用的な理由からです。クルマを駐車したとき、左右に他のクルマが並んでいると、通常のドアでは乗降スペースを遮られてしまいます。でも、それがミニバンのようにスライドすれば、妨げになりませんよね。そのようなものをスーパーカーにも採用したくて思いついたアイデアがこのタイプのドアだったのです。これなら、隣同士に並んでいても100%開閉が可能です。これはスーパーカー用のスライドドアなんですよ。決して目立つためだけのものではなく、実用的なアイテムなのです。ですから、全ての市販モデルに採用しています。唯一不採用なのは、サーキット向けモデルのみです。
年産10台、累計生産台数は115台
――22歳という若さで会社をスタートさせたきっかけは?
私は、5歳の頃からクルマを作ることに憧れていました。だから、その夢をかなえるための情熱が、この会社をスタートさせたきっかけです。私は常に、どんな困難なことがあっても、自分が努力すればきっとかなうと信じていますから……。スポーツカーにこだわったのも、その夢が原点にあったからです。
1994年にゼロからスタートをして、プロトタイプは2年で完成しましたが、その後さまざまな開発の困難があり、最初のモデルCC8Sの納車開始まで8年を要しました。その間は一切販売するモデルがなく、会社の収入がゼロという厳しい状況でした。しかし、その間も開発を進めつつ、仲間たちと乗り切ってきました。
経験がなく、わずかなアイデアしかない若者だった私がゼロからスタートしたことを考えれば、短い期間で達成できたと感じています。
――これまでのモデルでお気に入りのものを教えてください。
「CCX」と「CCX Edition」、そして「CCGT」ですね。CCGTは、唯一のサーキット専用なので、われわれにとっても特別な存在となっています。CCXシリーズの2台を上げたのは、大きく発展できた記念すべきモデルだから。もちろん、われわれのファーストモデルであるCC8Sは、特別な一台には変わりありません。他のクルマと比べると、シンプルだけど良いクルマ。この最初のプロトタイプは、まだ今も元気に走っています。
――創業当時、目標としていたスポーツカーはあったのですか?
「マクラーレンF1」です。とても速くて、好きなモデルです。
――これまでの累計生産台数と、現在の生産状況は?
2002年にカスタマー向けのCC8Sの製造を開始してからカウントして、現在115台です。平均すれば1年で約10台、極めて限られた生産となっています。現在の年間生産台数は12台。1台を生産するのに4000時間もの時間を費やしています。
製造工程は、7つのパートに分かれており、3週間ごとに1工程ずつ進んでいきます。例えば、塗装は7層コートとなっており、350時間を必要とします。その仕上がりはとても艶(つや)やかです。ブラックならば、まるで日本のヤマハピアノのようですよ(笑)。
これまではアメリカ、これからは中国
――現在、ケーニグセグは世界でどのような販売展開をしているのでしょうか?
世界市場では、年々業績を上げています。昨今はアメリカもヨーロッパも伸びていますし、中国でも一定の需要があるので、現状における需要と生産台数は好ましいバランスを保っています。今年投入した特別限定モデル、One:1は6台のみの設定でしたが、完売しました。
現在、世界中にディーラーが12カ所存在しますが、そのうち4カ所がこの1年で新たに加わった拠点です。ですから、全てのディーラーにクルマを収めるために、今後18カ月以内をめどに、年間生産台数を16~18台まで増産させていきたい。もちろん、しっかりとステップを踏まなければ現在のクオリティーを保つことはできないので、その点には十分に配慮して進めていきたいと考えています。
――増産計画以外の新たな展開はあるのでしょうか?
2015年には、新たなモデルを投入する計画です。アゲーラについては大きな変化はありませんが、もう一台は全く異なるモデルです。ですから、各ディーラーにはできれば1台以上のクルマを提供したいと考えています。
――ケーニグセグにとって今、最もホットな市場はどこですか?
最もクルマを納めた市場はアメリカで、それに続くのがアラブ諸国です。中国では年間で4~5台を安定して販売しています。あと2、3年この状況が続けば、中国が最大の市場となるでしょう。ホットな市場とのことですが、今年はイギリスやドイツなどヨーロッパでのセールスが好調です。これにはわれわれも驚いています。
“再導入”は2015年の初夏を予定
――ケーニグセグは日本への正規導入に向けて現在、準備を整えていると聞いています。ただ、以前も日本にディーラーは存在していたと記憶しています。従って今回は、再上陸に向けた準備ということになるのでしょうか?
7年ほど前に、日本でもわが社のクルマを取り扱ってくれたディーラーがありました。当時はまだブランドの知名度も低く、販売にも多くの時間を要し、ビジネスとしては厳しいものでした。しかし、われわれはこの7年間でブランドとして大きく成長を遂げ、世界的にも、また日本でも知名度が上がったと自負しています。そこで、再び日本での挑戦を決めたのです。
――再び市場開拓に取り組みたいと感じた日本の魅力とは?
日本の市場は、われわれのようなスペシャルなモデルに対して、常に真剣に向き合ってくれると感じていること。そして、アジアの中で日本が最もこのようなハンドメイドのスポーツカーに対しての造詣が深いからです。
――日本市場では何台の販売を見込んでいますか?
年間で数台は売れると予測しています。ただし、もし4台欲しいと言われても、現状では2台ほどの供給が限度でしょう。それでもわれわれの名前を知ってほしいし、今後の発展のために、日本には拠点を置きたいと望んでいるのです。
――価格についてはどうでしょうか?
詳細な価格についてはこれから検討しますが、日本市場の場合、消費税率が低いのは大きなメリットでしょう。ご参考までに、アゲーラRのアメリカでの車両価格は165万ドル(約1億7000万円)です。これに税金と輸送費、それとオプションを追加した場合の費用などが別途、掛かります。
――日本への導入時期は?
日本導入は2015年の初夏ごろを予定しています。その際は、車両と共に再び日本を訪れます。日本の皆さん、どうぞ楽しみにお待ちください。
(文=大音安弘/写真=webCG、ケーニグセグ)
