第4回:圏央道開通!! ただし7割(その3)
圏央道がなかなか全面開通しないワケ
2014.09.16
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
市民不在の圏央道計画
なぜ圏央道はなかなか全面開通とはいかないのか、である。
実は、この圏央道計画、市民不在だった。とはいえ、国のやることだから“市民不在”そのものに驚きはないけれど、それにしても圏央道計画の市民不在ぶりはちょっと度が過ぎていた。何しろ、建設予定地の地権者や住民に概要が知らされたのは、計画が浮上してから12年も後、「圏央道」という名称が決まってからでもすでに3年が過ぎた1979年(昭和54年)のことだったのだから。
しかも、この時点では確かなルートはまだ知らされず、具体的な計画を携えた建設省(当時)の担当者が「住民の皆さまへ」という案内状を配ったのは、さらに5年も後の、1984年(昭和59年)9月だった。
それだもの、建設予定地とされた地域に暮らす住民が怒って、国などを相手に、東京地裁に「圏央道建設反対」の訴訟を提起(2000年12月)したのも無理からぬ話というものだろう。
第2回で書いたとおり、圏央道は都心から半径40~60kmの位置に計画されたわけだから、首都高の中央環状線のように住宅街やらビルの谷間に建設されるわけじゃない。予定地の多くに田畑やら山林やら丘陵地帯やらといった場所が含まれている。
そうした地点の用地買収が順調に進んだとしても住宅地でのそれが簡単にいかないのは道理で、しかも、前述のとおり17年間も市民不在でコトを進めてきてしまったのだから、建設予定地とされた地域の住民の不信を買ったのは当然の成り行きだった。揚げ句、訴訟騒ぎとなった地域が、インターチェンジでいうと、開通が遅れた日の出、あきる野である。この地域の住人たちが、圏央道建設の是非をめぐって国などを相手どり東京地裁に訴訟を起こしたのだ。
そのうちのひとりの原告を取材したことがある。
彼に初めて会った日、あれをびっくり仰天と言わず何がびっくりだという事態に遭遇したのを今も鮮明に覚えている。
待ち合わせたのは彼の自宅で、住所を頼りに訪ねて行くと、何と、彼の家が影も形もなくなっているではないか。もちろん、彼の姿もそこにはない。近所で聞いてまわって事情がわかったのだが、ほんの数日前、行政代執行によって彼の家は取り壊されたというのだ。圏央道建設をめぐる裁判の結論がまだでていないのに、そんなことにはお構いなく進んでいく圏央道建設。その現実を目の前に突きつけられた俺は、ただ、ふ~ッ、とため息をつくだけだった。
その行政訴訟の一審判決の日(2003年2月24日)、俺も東京地裁に駆けつけている。ただし、注目を集めた裁判だけに「傍聴券を手に入れられるかどうかは抽選しだい」と裁判所の職員から聞かされた瞬間、だめだァ、と諦めた。なにしろクジ運の悪さは天下一品。ずいぶん昔、50人分の傍聴席を求めて51人が抽選をして、外れた1人が俺だったという、ぜんぜん自慢にならない経験の持ち主である。どうせ今回も外れるに決まってると最初から諦めていたけれど、結果は、まさしくそのとおり。廊下で待機の俺なのだった。
裁判の結果は原告の勝訴。
後に二審の東京高裁で判決はひっくり返されるのだけれど、それでも一審判決は画期的だった。裁判所は、判決文のなかで、こうまで言っていたのだ。
圏央道の開通によって都心部の交通混雑が緩和されるという主張は具体的な裏づけを欠いていて、期待感の表明でしかない。むしろ、首都高中央環状線と外環道が建設されるのなら圏央道は必要ない。あきる野ICの設置は、日の出ICと2kmしか離れていないので建設の必要はない。(=要旨のみ)
圏央道、なかなか全面開通といかないのは当然なのである。
(つづく)
(文=矢貫 隆)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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