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第29回:「制限速度120km/hへ引き上げ」の背景にあるもの(その2)
印象と現実は違う、かも

2016.07.28 矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?

賛否両論

制限速度120km/hを報じた『毎日新聞』(3月24日付)である。

「最高速度引き上げの対象として想定するのは、
(1)見通しがよく設計上の想定速度(筆者注・設計速度)が120キロである。
(2)事故の発生が少ない。
(3)実勢速度が100キロ以上。
(4)渋滞の発生が少ない、などの条件を満たす区間。

試行は、静岡県の新東名高速道路(御殿場~浜松いなさジャンクション間約145キロ)と岩手県の東北自動車道(花巻南~盛岡南インターチェンジ間約31キロ)で行い、当初は110キロとすることを検討する」(一部のみ引用)

岩手県内の東北道の一部と新東名。
妥当な場所選びだな、と思う。
前者は、設計速度120km/hで、交通量は少なくて道は真っすぐ。新東名にいたってはプロローグで書いたとおり、構造的には世界一の安全道路。

引き上げのニュースを耳にして、これには皆さん大喝采だろうと想像したら、やっぱり。自動車の性能や実勢速度を考えれば引き上げは当然の声が聞こえてきた。

ところが、びっくり。
意外にも、反対の声も多い。
翌3月25日の『朝日新聞』に、こんな意見が紹介されていた。

「速度が速いと危険回避に手間取り重大事故につながる」
「違反が常態化しているからといって規制速度を上げるのは本末転倒」
「高齢ドライバーの増加で、低速で走る車が増えるのを考慮していない」

これ以外にも、「速度差が大きくなることによって増す危険」とか「平気で追い越し車線に入ってくる大型トラック」とか「軽自動車はどうするんだ」とかの問題を指摘する声は何度も耳にした。

制限速度の引き上げに対する反対意見、どれもこれも、なるほど確かに一理あると思う。交通事故は「速度」ではなく「速度差」で起きるものだし、交通事故に占める高齢者の割合が年をおうごとに高くなっている事実を考えれば、高齢ドライバー問題への対策は重要な課題であるのは当然だからだ。

で、現状は?
というわけで、制限速度引き上げが予定されている路線のひとつ、新東名を走ってみたのは 7月1日、金曜日のランチどきである。

東名高速は例によって厚木までは混雑していたけれど、そこから先の交通量は一気に減って、さらに御殿場から新東名に入ったとたん、それこそ道はがらがらで、さすが事実上の設計速度140km/hの道だけあって前方視界がずっと先まで見通せた。
制限速度を守って100km/hで走っている私を、軽自動車も含め、ほとんどの車両が追い抜いていく。110km/h前後で走っているようだ。それを確認したところで80km/hに速度を落とし、途中、駿河湾沼津SAで「するがの宝丼」をおいしくいただいたりもしたが、新静岡ICまでの往復をその速度で走り続けてみた。

他車との速度差、30km/h。
果たして、何が起きるか!?

しかし、走れども何も起こらない。
拍子抜けするほど予想どおりすぎる結果だった。

このとき私の目に映ったのは、「速度差によって生じる危なっかしさ」ではなく、不思議な状態にある安全施設だった。
どうしたわけか路肩にガードレールが設置されていない区間(わずかな距離だが)があった。本線車道と路肩の境目に段差がついていて、しかし、そこにガードレールが設置されてないのである。
何かの拍子で路肩に飛びだしたら……。

新東名高速道路で制限速度引き上げが予定されている路線は地図の赤い部分(御殿場~浜松いなさジャンクション間約145km)。
(画像提供=NEXCO中日本)
新東名高速道路で制限速度引き上げが予定されている路線は地図の赤い部分(御殿場~浜松いなさジャンクション間約145km)。
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著者が気になった「ガードレールが設置されてない」区間。本線と路肩の境目に段差があるのがわかるだろうか。制限速度の引き上げが実施されるまでには対策が施されているはず。
著者が気になった「ガードレールが設置されてない」区間。本線と路肩の境目に段差があるのがわかるだろうか。制限速度の引き上げが実施されるまでには対策が施されているはず。 拡大

御殿場JCTから新東名高速道路に入り、ひとつめのサービスエリア「駿河湾沼津」。新東名のサービスエリアは「旅の途中の休憩所」であるだけでなく、「旅の目的地」になるほど人気が高い。


	御殿場JCTから新東名高速道路に入り、ひとつめのサービスエリア「駿河湾沼津」。新東名のサービスエリアは「旅の途中の休憩所」であるだけでなく、「旅の目的地」になるほど人気が高い。
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事故の実態

会ったことはないけれど、webCGの編集部には30歳代の編集部員がいるらしい。という事実を前にすると、私はがくぜんとしてしまうのである。

俺、そいつが生まれる前から交通問題を取材している……。

最近こそ交通問題を本格的に書く(本格的に書くって何だ?)機会は減ったけれど、昔は、昔というのは交通事故が多発していた時代のことだが、霞が関と衝突しながら(=若かった)、一般誌や自動車専門誌、交通安全関係の業界紙・誌(そういう雑誌や新聞があった)で記事を書きまくった。そして、そこでいつも言ったものだ。

交通安全問題を感情で語るのは誤りだ、と。

感情で語る安全問題は、とにかく話がわかりやすい。
スピードをだし過ぎたからカーブを曲がれなかった、とか、定員オーバーで運転していたから事故った、とか、制限速度をオーバーしていたから、とか。
それらはどれも事故原因になり得るのは確かだけれど、でも、事故を起こしたクルマが制限速度を超過していたからといって、事故の直接の原因が速度超過とは限らない。でも、それが原因と聞けば、なるほど、と、話がわかりやすい。

でも、本当にそうなのか!?

2015年中に高速道路で発生した事故の総数は9842件(全事故では約53万7000件)、それによる死者数は215人(総数は4117人)だったのだが、ここで注目してもらいたいのは、高速道路での事故のうち圧倒的多数を占めている「追突」の内訳である。

9842件のうち実に7193件が追突事故なのだけれど、そのうちの6割以上に当たる4564件は本線車道に停止していたクルマへの追突(路肩に停止中の車両への追突33件は含まない)だったのだ。
その一方、速度差が原因と思われる追い越し・追い抜き時の追突は51件でしかない。接触事故のケースで見ても、追い越し・追い抜き時のそれは249件だった。(2016年5月末、交通事故統計より)

印象と現実は少しばかり違っているんじゃないか。高速道路の事故(注)の数字を見てそう感じる。それって、私だけ?

(文=矢貫 隆)

(注)高速道路で発生する重大事故(=渋滞の最後尾に大型トラックが突っ込んで5台が炎上した、とか、事故で停止しているクルマに後続車が次々に突っ込んだ、とかの事故のこと)。
発生場所は、すべてとは言わないけれど、大多数が高速道路の起点から、少なくとも100kmとか200kmは離れている。東名高速の東京料金所付近で重大事故が発生したら、それは間違いなく上り車線である。高速道路を走るドライバーは強い流体刺激を受け続けるが、しかし、一定の刺激の連続性は、やがてドライバーの脳を安静状態(=たとえば真っ暗な部屋で横になり、ずっと目を瞑(つぶ)っているような状態と思ってもらえばいい)にしてしまう。その状態のドライバーの反応時間はおそろしく長くなっている。無意識のうちに漫然運転をしてしまっている。重大事故の最後尾に突っ込むのは、そんな状態にあるドライバーが多い、というのは、いくつもの重大事故を調べた私の、昔からの説である。そして、この説は、ほとんど正しい。

『それでも事故は起こった』(矢貫 隆・草思社刊)。
9章からなる交通問題ジャーナリズム。第4章に「高速道路の規制速度を考えた」があり、本項、本文中の中央道での実験はここで詳しく報告したもの。当時、一部を自動車雑誌『NAVI』でも書いた。
『それでも事故は起こった』(矢貫 隆・草思社刊)。
	9章からなる交通問題ジャーナリズム。第4章に「高速道路の規制速度を考えた」があり、本項、本文中の中央道での実験はここで詳しく報告したもの。当時、一部を自動車雑誌『NAVI』でも書いた。 拡大
こちらはガードレールがある区間。
こちらはガードレールがある区間。 拡大
矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。

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